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とある世界の重力掌握

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「主人格の言った『彼』っていうのはぁ、同じ研究所で生み出された人造神の成功体のことなんだぁ。その彼はねぇ、たった一人で研究所にいた全職員、及び武装警備員、視察に訪れていた組織幹部を全て殺害し、同じく成功体だった『火野咲耶』、つまり私たちを連れて研究所から逃げ出したのよぉ 」

「その彼も人造神の成功体.............しかも1人でそれだけ大勢の人を倒すということは、かなりの実力者ってことだよね? 」

「そりゃあ強かったわねぇ。戦闘力は下手したら第3人格すら超すんじゃないかしら..............後頭も切れる奴だったわぁ 」

第3人格とは神である咲耶姫のことを指す。竜人である哀歌と互角の戦いを繰り広げ、彼女に傷を負わせた人格でもある。その彼女より強いかもしれないとなると咲耶の言う『彼』は人造神の中でも最強クラスと言えるだろう。

「それで..........その彼は、いまはどこに? 」

「..............行方知れずになってるのよぉ...............もうかれこれ40年前だったかしらねぇ? 」

さりげなく言った咲耶だったが護は当然その言葉を聞き逃さなかった。40年前?

「ちょっと待って!今僕の聞き間違いじゃなければ君、40年前がどうとかいわなかった?」

「言ったけどそれがなにか? 」

「いや、なにか?じゃないよ!君の言うことが正しければ君の現在の年齢と一致しないんだけど!?」

信じられないという視線を向けながら息を切らして喋る護に咲耶は冷たい目線を向けつつ言葉を返した。

「主人格が話したと思うんだけどぉ...........人造神のベースになるのは死体なのよぉ?死体が年を取ると思う? 」

そう言えばそんな話を聞いていたな...............と思いながら護はやっちまったという表情になった。

「ごめん。今のは僕が悪かった 」

「分かればよいのよぉ 」

偉そうに言った咲耶は、話を続けた。

「多分、40年ほど前だったと思うけどぉ................一度数万人規模の敵に追い詰められたことがあったのよねぇ。もちろん私たち人造神の成功体の力を持ってすればぁ............切り抜けられないことはなかった。なにしろ人造神の力はその名の通り抽象的な神に等しいのだから................だけどその時は事情が違ったのよねぇ 」

「事情? 」

「その時、私たちは50人ほどの民間人と行動を共にしていたのよぉ。私たちだけなら切り抜けられないことはなかったけど、なんの力も持たない民間人も一緒では自分たちの力をフルに使うことは不可能だったの......下手したら私たちの戦闘で共にいる民間人を傷付けてしまうかもしれない............その危険から私たちは自分の能力の制限を迫られ..............結果的に追い詰められてしまったのよぉ........ 」

「だけど君は生きて今、ここにいる 」

「そう...........その時に、私は力の全力を持ってその場を切り抜けることができた。だから今、ここに立っていられるわぁ.................でもその代償は大きかった............」

そこでいったん会話を区切った咲耶はしばし空を見上げて沈黙した。

その姿に護は、咲耶の言う彼になにかあったのだろうと直感した。

やがて、再び顔を護に向けた咲耶の瞳は涙に潤っていた。

「敵の眼を引き付けるために『彼』は、わざと敵の真っ只中に突っ込んでいって派手に陽動を行なったのよぉ。わざわざ敵の攻撃に当たって、相手に『こいつなら殺せる』と思わせてまで............. そうやって敵の大半を彼が引きつけてくれたことで民間人のほとんどはその場を逃げ出すことができ............民間人という枷がなくなった私も、その力を持って追手を蹴散らしてその場から逃げだせた....................でも『彼』はそれっきり消息が掴めなくなった...............その時の敵のデータベースに侵入してまで調べて..............今までの40年間調べ続けていたけど行方は分からないままだった..................でも、最近になって1つ可能性が浮上したのよぉ...........彼は私たちを生んだ『人造神計画』..............それに関係するなにかに彼が巻き込まれている可能性が 」

「それが君がこの街に来ることに繋がったってわけだね 」

護の言葉に咲耶は頷いた。

「それで、その彼の名前ってのは? 」

「剣夜よ。建雷.........剣夜 」



そんな会話が成されていたころ、学園都市内のとある学区のとある施設の中で高杉は目を覚ました。

「ここは.......... 」

体を動かそうとするが、なにやら鉄製の拘束具のようなもので全身を拘束されており全く身動きが取れない。

ならばと、瞬間移動を行おうとした高杉だが、次の瞬間鼓膜が破れそうな奇妙な音が耳に飛び込んで、能力使用のための演算ができない状況に陥った。彼は知る由もなかったが、その音は能力者の演算を妨害する周波音を発する特殊機器、キャパシティダウンによるものだった。

「無駄だよ..........いくら抵抗しても君はもはや籠の中の鳥だ..........」

耳を抑えもだえる高杉に向けて、しわがれた老人の声がかけられる。

「すでに確保してある2人は『調整済み』だ。君もすぐに終わるだろう 」

そう話しかけて、老人はにっと口元を歪めた。

「もっとも、今の状態の君にこの声は届かんだろうがね............初めろ 」

老人の言葉にこたえて、2人の黒服の男がいまだ悶えている高杉が拘束されたままになっているタイヤ付きの台を奥の部屋に運んでいく。

それを見送った老人は、電動車いすのスイッチを操作し、その部屋の別のドアに向いながら腰のポケットから小型の携帯電話を取り出し、口元に寄せた。リダイヤル機能で一瞬で相手を呼び出し、それを告げる。

「禍島だ...........神裔隊総員に告ぐ...........これよりオペレーション・ウォール・ブレイカ―を開始する..........各員は速やかに所定の任務を遂行せよ 」 
<章=第六十話  とある少女の過去回想>


「やっと来たね護、咲耶 」

第7学区のウォールの拠点、とあるホテルの一室に入った護と咲耶を哀歌は待ちくたびれたという表情で迎えた。

「ああ、遅れてごめん。それで状況は? 」

「今のところ、希とセルティがそれぞれ広域探査術式を使ってみんなの行方を探ってるけど見つかっていない.................ダビデとナタリーは組織の上層部に増援の要請をした上で捜索を行ってる 」

「そちらも連絡がないということはまだ見つけられてはいないってことだね.................」

「あの..........具体的にこれからどうします? 」

そう弱々しく聞いたのは、第1人格、つまり主人格に戻っている咲耶である。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン