とある世界の重力掌握
その言葉は、目の前の20代の女性、淡雪も何らかの形で裏側に属していることを示す。
「..................確認したいんですけど、あなたが探しているこの写真の子も、裏側の人間なんですか?」
「はい。そうです 」
「その子の名は? 」
「グランドマザー 」
淡雪の言葉に護と佐天は怪訝な表情になる。彼女の発した英語の意味が分らぬ訳ではなく、意味が分かるからこそそのような表情になった。その言葉は写真の少女にはふさわしくないよう思えたからだ。
「それが名前なんですか? 」
「いえ..........その小さいのにとても大人びた子だったのでそんなあだ名がついていたのですわ。実は私もその子の名はしりませんの。いつもあだ名で呼んでいたものですから............ 」
淡雪の言葉に、それにしてもお婆ちゃん(グランドマザー)はないだろうと内心思った佐天だったが、そんな気持ちは御くびにも出さず淡雪に笑顔を向けた。
「裏側ってことは護さんとかみたいに能力者のグループの一員なんですか? 」
佐天の質問に淡雪は軽く首を傾けて、クエスチョンマークを頭の上に浮かべる。
「ごめんなさい。私、能力者の定義を知りませんの。ただ力を持っているかという質問になら、そうだと応えられますわ 」
「それは、どういう意味です? 」
若干警戒気味に聞く護に対して淡雪はあっさりと言葉を放った。
「人造神........ってご存知でしょうか? 」
その言葉に場の空気が凍りつく。護は佐天の前に立ちとっさにその右腕を淡雪に向ける。
事情が読み込めない佐天が硬直する中、淡雪は深い溜息をついて言った。
「その反応を見る限り、すでに人造神と遭遇済みのようですわね。でも安心して下さいな。私は『計画』には参加していませんから 」
「君は人造神なんだろ?なのになんでそんなこと言えるんだ? 」
「人造神と遭遇しているなら、すでに知っていらっしゃるかもしれませんが................人造神計画によって生み出された『成功体』の中には自分の意思で計画の発案者である禍島の手から逃れた個体が少数いるのですわ。私もそんな個体の一人ですのよ 」
そう言われて護は咲耶の存在を思い出した。彼女の話によると剣夜という仲間に連れられる形で彼女は研究所から逃げ出したということだった。
その話は、淡雪の語る内容と一致している。
「君は、なんの人造神なの? 」
「私は『山神』の人造神ですわ。体内に宿すのは『雪女』の御神体。人造神の成功体の中ではランクが低い方の個体ですわよ 」
そこでさっぱり話についていけていない様子の佐天が手を上げた。
「あの.............良く話が読めないんですけど..........つまり淡雪さんは神様で、誰かに作られた人造人間の神さまで、悪い奴に造られたけど、そいつから逃げ出して、今は知り合いを探しているって思ってよいんですか........? 」
「そう思ってもらって結構ですわ 」
淡雪の言葉に安心した表情を浮かべる佐天。
「それじゃあ話を進めますけど............この写真に写っている子はあなたの関係者なんですよね?ってことはもしかしてこの子も............... 」
「はい。彼女も人造神ですのよ 」
当たり前のように頷く淡雪に護は正直驚いたが、よく考えてみれば当然と思い直す。
人造神である仲間の一人、咲耶は人造神は死体を元に造られた存在なのでその外見と実年齢は必ずしも一致しないと言っていた。
そのことを踏まえて考えれば、写真の少女........いや幼女が人造神だとしてもなんらおかしくはない。
「えっと............この写真の子はどんな人造神なんですか? 」
「それは私も知りませんの。私もそんなに長い付き合いではなっかたですし彼女が力を使ったところを見たことがありませんのよ 」
「そうですか................ここまで話を聞いてしまった以上僕からも話すべきだと思いますから明かしますけど、僕達『ウォール』は一週間ほど前にこの写真の子と非常によく似た女の子を保護したことがあります 」
驚く淡雪に護は事情を話した。
話は、護が御坂から絶対能力進化計画(レベル6シフト)計画の阻止のための協力を要請されたころまで遡る。
初めての要請があった時から、実際に行動の依頼があった日までの数日間、護はウォールの一員として通常業務を行なっていた。
そんな時、ウォール下部組織構成員から外部からの侵入者の情報がもたらされた。
ただちに護以下ウォール正規構成員は現場に向ったのだが、そこにいたのはクマの人形を胸に抱き、目にいっぱい涙をためてへたり込んでいる幼女だった。
報告してきた下部構成員から事情を聞いたところ、どうやら彼の勘違いでたまたま親戚に連れられて学園都市に来ていた少女をデータに登録されていなかったので外部侵入者と誤認したということだった。
あまりにも幼稚なミスに高杉などはその構成員を殴りつけそうな勢いで叱責したが、やってしまったものは仕方ないということで、とりあえずその構成員は護の権限で組織から解雇し、幼女は近くの風紀委員(ジャッジメント)支部に迷子として届け事件は一件落着した。
だが、その幼女が『人造神』だったとすると話はとんでもないことになる。
護達はみすみす脅威になりうる人物がが学園都市内部に入るのを、見逃してしまったというわけだ。
現時点ではその幼女、グランドマザーを脅威とは判断できない。だが、否定する材料がないのも事実である。
「じゃあ、グランドマザーはこの街にやっぱり............ 」
「ええ、居ると思います。後で風紀委員(ジャッジメント)の一人から聞いたところによると保護者と名乗る男が訪れて彼女を連れて行ったそうです。もしこの写真の子、グランドマザーが人造神だとすれば当然親は.............」
「最近に死んだ死体から造られていればあり得なくもないですけど..............私の聞いている限り、彼女の親はとうに無くなっているはずですわよ 」
となると、その親を名乗った男は何者なのか。
「その時の聞いた話だと、グランドマザーは男に連れられるとき別段抵抗もせず嬉しそうに笑顔を浮かべて自分から男に向っていったらしいんだ。となるとその男と何らかの関係があったと思うんだけど..........淡雪さんはなにか知りませんか? 」
「グランドマザーは私が研究所から逃げ出した直後に出会った初めての人造神で色々と助けてくれましたけど..............何かの組織に属しているという風でもなかったと思いますし、少なくとも私と共に行動していたころは私以外の誰かと積極的に交流する様子もなかったと思いますわ 」
要するに彼女と共にいた時代のグランドマザーに少なくとも彼女からの目線では他者、あるいは組織との交流は無かったということになる。
となるとグランドマザーが幼女の演技までして男についていったのは、なぜなのだろうか?
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン