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とある世界の重力掌握

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謎が謎を呼ぶ形となってしまい頭を抱える護だったが、悩んでいてもこの少ない情報だけで謎が解けるはずがない。

「とにかく、依頼は引き受けました。どの道今はウォールも人造神に関わ
るごたごたに巻き込まれている状況ですから同時進行で調べていきますけど、それでも構いませんか? 」

「それで充分ありがたいですわ。よろしきお願いします 」

そういって花のような笑顔を見せる淡雪に護と佐天が和んだ表情になったその時だった。

突然護のポケットに入れていた携帯電話が振動した。

携帯の発信者表示にのっている名は『竜崎哀歌』。

「哀歌?どうした? 」

「護、襲撃を受けた!現在学園都市外部のどこかのビルの内部で戦闘中!」

護は自分の耳を疑った。哀歌は淡雪が来る少し前に屋上へ風に辺りに行っていて今もそこにいるはずである。

「なんで学園都市外部に!?屋上にいたはずだろ!」

このSASの建物全体は哀歌、セルティ、希の三人が三十重ねに築き上げた魔術的な警戒網で覆われている。もし人造神が侵入していたのならその魔力が警戒網に引っかかっているはずである。

だが事実は護の予想の上を行っていた。

「屋上にいたところを後ろから誰かに触れられたの!その直後に今いるビルに移動させられたのよ!まるで瞬間移動みたいに! 」

哀歌の言葉に護の中で、ある推論がうかんだ。

よくよく考えてみれば当然のことなのだ。そもそも相手が学園都市統括理事の1人であるならば考えられない事態ではなかった。

「哀歌、瞬間移動みたいなんじゃない。きっと瞬間移動させられたんだ 」

「え?どういうこと!? 」

「言葉通りの意味だよ............. 」

護はその最悪の推論を言葉にして発した。

「今哀歌を狙ってきた敵は能力者ってことだよ! 」
<章=第六十二話  とある事務所の訪問者>


通話中の哀歌は携帯を耳に当てながら信じられない思いで護の言葉を聞いていた。

哀歌的な認識としては、今回の敵はあくまで人造神であって、それさえ殲滅すれば敵の実質的な戦闘力は失われるというものだった。

だがもし、人造神計画側に能力者が与しているとなると、事情は大きく変わってくる。敵の戦力は護達総出でも対処しきれない可能性があるからである。

学園都市は少なくとも20年前にはすでに能力者を生み出せる状態にあったことが知られている。

ということはその当時、学生として街にいた人物の中にいた能力者が幾人もいたこととなる。

その中に、学園都市統括理事の1人である禍島の下についている者がいてもおかしくはない。

「これも僕の知識として聞いてほしいんだけど............学園都市暗部組織と上をつなぐ仲介役として何人かの人間が存在するのは哀歌も知ってるよね?そのうち一人の人物は自分自身は学生ではないにも関わらず複数の心理系能力者(テレパス)を従えていたんだ。そこから考えられのは学園都市上層部配下に過去の能力者がいるという可能性........... 」

「なら複数の能力者と敵として戦わなきゃいけない可能性もあるってこと.......ね! 」

護への返答を行ないながら、こちらに向けて飛んできた椅子をはじき返す哀歌。恐らく前方から来る黒づくめの武装集団の中に念動系能力者がいるのだろう。

ビルの内部に置かれていただろうと思われるコピー機やら椅子やらが次から次へと哀歌に向けて飛ばされてくる。

それに加えてその念動力者以外の者によるだろう銃撃も加えられている。

だろうというあいまいな表現なのは黒づくめの武装集団の全員が銃器を所持した状態で向ってきているからである。

「とにかくこのビルを脱出して学園都市に戻るしかないわよね?今の状況を切り抜けたらまた連絡する!セルティと希に私の魔力を探知させておいて! 」

そう言って通話を切ると、哀歌はその両腕を竜人のものに変化させる。

元来、竜人への変化がなくても怪力を発揮する哀歌だが部分的にせよ竜人化すればその能力は格段に向上する。

銃撃を避けビルの一室に逃げ込んだ哀歌は、その部屋の入って左側の壁を問答無用の正拳突きで破壊し、隣の部屋へと移り、直後隣の部屋のドアを思いきり蹴りつけて吹き飛ばす。

当然、ドアの向こうにいた武装集団メンバーの何人かがドアと一緒に吹き飛ばされ比較的広い廊下を吹きとんで窓ガラスをぶち破って落下する。

ぎょっとして身を固めるメンバーに哀歌は悪魔の笑みを向けて言った。

「次に跳びおりたいのは誰? 」

なにやら悲鳴を上げながら銃を乱射するメンバー達だったが、それより早く哀歌が彼等の懐に潜り込みそのみぞうちに一発ずつ入れて黙らせる。防刃防弾チョッキに対衝撃用スーツを着ていたメンバー達だったがそれだけでは人外である哀歌の攻撃を防げはしない。

あっという間に20人ほどいた武装集団は半分以下の8人ほどに減らされてしまった。

「この程度でウォールの一員である私を倒すつもりだったの?...............片腹痛いわ 」

哀歌は床に転がり気を失っている武装集団メンバーの一人をスーツを無造作に掴んで掴み上げると勢いよく残りのメンバーに向けて放り投げた。

人が投げたとは思えないスピードですっとんだメンバーの1人は、残存8人のうちさらに2人ほどを巻き添えにして廊下の端にある壁に大きくめり込んで意識を失う。

明らかに逃げ腰になる武装集団だったが、その中で1人だけ。一歩も引かずこちらに顔を向けるメンバーがいた。

黒づくめの武装集団は全員がその顔をガスマスクのようなもので覆っているため性別は分からない。

だがその体つきから察して女のように見える。

「この状況で.........下がらないなんて........大した度胸ね? 」

哀歌の言葉に女だろうと思われるそのメンバーは無反応だった。

だが直後、哀歌の全身に不可視の力が襲い掛かった。

「!? 」

一瞬で哀歌の体は先ほどの男達とは逆側の廊下の壁に吹き飛ばされめり込んだ。

全身の痛みに口元を歪めながら、哀歌は体を動かして壁から抜け出、廊下の向こう端にいるメンバーを見つめる。

相変わらずじっと佇むそのメンバーに向けて哀歌は叫んだ。

「あなたはいったい何者!? 」

その言葉にメンバーは初めて反応を見せた。

ゆっくりとした動作でガスマスクを外し素顔をさらしたのだ。

その素顔を見た哀歌は絶句した。

「なに?どうしたのよ哀歌?私の名前忘れちゃった? 」

武装集団メンバーの1人であったその人物は哀歌の予想通り女だった。流れるような美しい金髪に青い瞳、ヨーロッパ系の顔立ちをしている美少女。

「なんで.............そんな.......... 」

「そんなに驚かなくても良いじゃない。知らない仲じゃないでしょう? 」

親しげに哀歌に向けて歩いてくる少女の名は。

「あなたが私、クリス・エバーフレイヤを知らない訳がないわよね? 」

その瞬間、哀歌は驚愕の中、同時に疑問を抱いた。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン