こらぼでほすと 解除12
だから、アスランもキラを抱き締めて笑い出す。限界も何も、キラが側に居るから、それほど欲求不満は感じていなかったのだが、確かに、時間制限も解除されるからキラをまんべんなく味わいたいという欲求は、ムクムクと沸きあがってくる。
「確かに、限界かもな。リジェネがヴェーダから出てくるまでは、あっちがチェックもしてくれているから、解禁で時間制限も解除できそうだ。」
チュッとキラの唇に軽いキスをすると、キラのほうがアスランの唇に噛み付くようにキスをしてくる。今日一日ぐらい、仕事をスルーしても鷹も文句は言わないだろう。
「睡眠と食事は満たされた? キラ。」
「うん、残りのひとつの欲求を満たしたら完璧。」
「俺も、残りの欲求を解消したい。」
人間に三大欲求のひとつが未消化だ。だから、早く、と、キラが耳元に囁く。じゃあ、参りましょう、と、アスランがお姫様抱っこで、二階の部屋に駆け上がっていった。
お寺にも、連絡は届いていた。携帯端末を活用するつもりの毛頭ない坊主は気付いていないが、学校の帰りに連絡メールを開いた悟空は、やったぁーと、その場で飛び上がった。失敗するとは思ってないが、ママ完治の文字は、心を躍らせるものらしい。そのまんまの勢いで、寺に帰って坊主に報告したら、「ああ。」 という素っ気無い反応だった。
「なあ、さんぞー。もうちょっとさ、喜びとかないのか? 」
「宇宙に上がりさえすれば完治するに決まってるだろ? 黒ちびが、何がなんでも治すに決まってる。」
坊主にしてみれば、宇宙に上がれさえすれば、それは完治と同意義だ。だから、報告を受けても、そりゃそうだろう、というテンションの低いことになってくる。これで、来週ぐらいに戻ってくれば、坊主はオールシーズン対応の女房をゲットするから、そっちのほうが楽しみだ。
「来週まで店は休みか? 悟空。」
「うん、来週ぐらいから再開すんじゃね? アスランが、連絡入ったら店は開けるみたいなこと言ってた。」
現在、店は改装を表向きの理由にして休業している。内装を全部取り替えないと、いろいろと壁と床に傷がついてしまったからだ。アジア風の軽い雰囲気だったが、今度はクリスマスの直前ということで、北欧風に模様替えだ。家具やら絵も、そちらのもので統一するので、落着いた大人な社交場という雰囲気になる予定だ。弾痕と弾は削ってあるが、素人では、そこだけを修理するのは無理だったし、休みの表向きの理由にもなるから改装をすることにした。予定は一週間。元々、アスランが店を休むために予約は入れてなかったので、スムーズに改装も進んでいるらしい。
「晩飯どーする? チンでいいか? 」
「そうだなあ。適当にチンしとくか。」
で、店が休みだと途端に、食事事情が悪くなるんで、坊主とサルだけだと、こんなことになってくる。干上がらない程度に、人外のおかんである八戒が栄養補給に来てくれるが、まだ、あれから三日と経っていないから、自力で摂取しなければならない。以前は、チンするものがなくて、スーパーやコンビニの惣菜とか弁当だったのだから、栄養事情は向上しているといえば、そうだ。ニールが留守をする前に、せっせと作って冷凍しておいてくれたから、チンとはいえ、家庭料理を味わえる。
「ママが帰ってきたら、ホワイトシチューが食いたい。」
「俺は、サトイモの煮っ転がしだ。」
「あーそういうのもいいなあ。キムチ鍋で、〆に雑炊とかもいいなあ。」
「それなら、鳥の水炊きに〆に雑炊だ。そのほうが酒にも合う。」
どっちも食べたいものを並べて、ぐたぐたと、その良さを語っているが、実は、これはニールが作るという大前提のものだ。鍋なんて、誰が作っても同じだが、鍋奉行が仕切ってくれると食べごろのものが食べられて、おいしい〆も味わえる。すっかり、ニールの味付けに慣らされている坊主とサルだと、こういうことになってくる。
「その辺に近いもんがないか探してみる。」
「そうだな。もしかしたら、タバコがねぇーかもしれん。」
「そういうのは、自分で行け。」
「ちっっ、使えねぇーな、サル。」
「だって、俺はママじゃねぇーもん。ママみたく、さんぞーを甘やかせる愛はねぇーぞ。」
サルの言い分に、なるほど、と、坊主も頷いて立ち上がった。タバコの在庫が保管されているところには、すでに一箱もないのだ。箱単位で買ってあるのだが、女房との会話がないと、ついついタバコの本数が増えてしまうものらしい。
「コンビニまで行って来る。」
「おう。」
悟空に声をかけて、坊主は山門から歩き出す。すっかり、甲斐甲斐しい世話になれてしまって、自分で用意するなんてことが億劫になっている。
トダカのほうは、店の改装の監督をしていた。そこへメールが届いたので、ニコッと笑うぐらいの穏やかな喜び加減だった。遺伝子情報の異常さえなくなれば、後は徐々に身体は回復していく。春ぐらいには、以前のような状態に持ち直すはずだ。事務室のほうへ足を運ぶと、そちらでは沙・猪家夫夫が経理のほうをやっていた。
「おめでと、お父さん。」
悟浄が祝いの言葉を述べると、トダカも、ああ、と、頷く。どちらも、宇宙に上がれた段階で、完治したものと見做していたから、それほど騒がないが、まあ、嬉しい知らせではある。
「これで、僕もニールを叱ることがなくなりますよ。」
八戒のほうも笑って、そうおっしゃる。漢方薬治療については、八戒が責任者だったから、あのマズイ漢方薬の摂取を指示していた。その度に、ニールに微妙な顔をされていたから、それがなくなるとなれば、八戒も安堵する。
「長いこと、ありがとう、八戒さん。よく保たせてくれた。」
トダカも八戒の苦労を知っているから、深く頭を下げた。トダカは、どうしてもニールには甘くて、ついつい見て見ぬふりをしていたこともあったからだ。
「いえ、あれは、ニールの人徳というか功績だと、僕は思ってます。あの鬼畜マイノリティー驀進坊主の手綱を取れる人は、ニール以外にはいませんから。それがあったから、上司もクスリの手配をしてくれたんです。」
「まあ、確かに、それもあるだろうけど。憎まれ役をさせていただろ? きみが厳しく管理してくれたのが最大の功績だと、私は思っているんだ。悟浄くんもご苦労様。」
「ママニャンも大変だったと思うぜ? トダカさん。」
「でも、きみたちの助けがあればこそだ。」
「あと、悟空の看病もですね。それと、腹立たしいのですが、三蔵のフォローもあってのことです。」
何が腹立たしいかと言うと、坊主は何もしていなくて、逆に女房をこき使っていたのだが、それが余計なことを考える時間を減らしていたということだ。ついでに、女房が弱るとハリセンで殴りつけて元気付けてもいたのだ。傍目にすると、迷惑な亭主なのに、これが女房の精神状態には良かったというのだから、腹立たしい。
「ああ、三蔵さんもねぇ。うちの娘さんのことを大切にしてくれていた。」
「大切というか、自分だけ楽しい生活をしていたというか・・・・三蔵にとっては、良い奥さんだと思いますよ。」
「あの二人、妙にウマは合うんだよな。・・・・これで、さっさと求婚もすりゃいいんだけど、やらないんだろうなあ。」
作品名:こらぼでほすと 解除12 作家名:篠義