こらぼでほすと 解除13
ニールの場合、漢方薬治療のお陰で、ダウンこそしていないが、それでも体調は良いとは、お世辞にも言えない状態だった。寺で、少し家事をするくらいで手一杯の状態だったから、それから鑑みれば、やっぱり、しばらくは再生槽か医療ポッドのお世話になるのだろう。下手をすると年末ギリギリまで、本宅から出られないかもしれない。亭主に謝らないといけないなーと、そんなことをつらつらと考えていたら、いつの間にか眠っていた。
翌日、ハイネとドクターはトレミーへやってきた。ニールのバイタルサインが気になる数値だったからだ。
さすがに、その頃には、マイスター組全員が起き出していたから、雑魚寝に驚かれることはなかったが、それでもロックオンの部屋にティエリアとアレルヤは陣取っていた。刹那とロックオンは、先に食事に出ている。
「ママニャンの様子は? 」
「夜中に、一度、目を覚まして、その時も身体が重いって言ってたけど、今は熟睡してるよ、ハイネ。」
アレルヤの説明に、やはり、と、ドクターも頷く。バイタルサインの数値が低いのだ。ニールが気付いたように、ドクターのほうも、重力変化への対応が利かないからの弊害と気付いて飛んで来た。
「ここだと、重力が各地点で変化するだろ? たぶん、それで身体が対応できなくて、弱ってるんだ。こちらの医療ルームへ運ばせてもらえないか? 」
「わかりました。じゃあ、僕がニールを運びます。」
漢方薬があれば、一日寝ていれば一挙解決なのだが、ハイネは預かっていない。アレルヤが、ニールを抱きかかえて医療ルームへ運び、医療ポッドに叩き込む。体調を整えるだけなら、数時間で事足りる。重力がある場所だけ限定にすれば、ニールの体調も悪化することはない。ドクターが、医療ポッドの調整をして、そのまま居座る。
その処置が終わる頃に、刹那たちも戻って来た。事情を説明したら、なるほど、と、納得はする。
「トランザムの計測予定は? 」
「本日、1300を予定していたが、延期は可能だ。」
二度目のトランザムは、すでに予定していた。何かしら理由をつけて引き延ばすことはできるから、それほど緊迫しているわけではない。
「ドクター、どのくらいで出てくる? 」
「三時間もあれば、十分だろう。間に合う。」
「じゃあ、予定通りでいいぜ、ティエリア。どうせ、こいつ、次も民間船の医療ポッドに入れてGN粒子を浴びせるつもりだったしな、」
「了解した。では、それで準備はさせてもらおう。・・・・その後は、居住区のみで過ごしてもらえばいいんだな? 」
「そうだな。重力が一定してるのは、ここか、ドックの居住区だけだからな。・・・・まあ、当人が、どっか行きたいっていうなら案内してやってくれ。どうせ、ここだと体調は安定しない。好きにさせてやってもいいよ。」
残り四日は、ここに滞在する。人工重力下で過ごすとなれば、一定の重力の場所とはいえ、体調にはよろしくない。疲れたら、医療ポッドに叩き込むしかないのだから、そこいらは適当でもいいだろう、と、ハイネは判断する。ドクターのほうも、「せっかくの古巣だしね。」 と、同様に頷いた。
再度のトランザムバーストも恙無く終わった。ニールは医療ポッドで眠ったままだったから、そのまま、こちらもメディカルチェックに入る。数値の測定で拾い出したデータの整理をすれば、ティエリアの仕事もひと段落だ。
後は、緊急ではないが、遣り残している仕事をして、それが終わったら、ハイネたちと同行する。
「僕、一足先にプラントへ行って、そっちからエターナルに乗せてもらうよ、ティエリア。」
リジェネも動くつもりで、準備を始めた。後四日だから、あちらのほうが先発する。ヴェーダから小型艇で、プラントまで移動して、そちらで歌姫様と合流だ。あちらでのIDは、すでに用意しているから、問題はない。
「了解した。俺たちは、こちらから途中で合流だ。」
「わかった。ママは? 」
「寝ている。」
「そっか、じゃあ、四日後にね。」
ヴェーダからプラントまで小型艇だと、二日ばかりはかかる。民間船の登録で動くとはいえ、なるべく各国のレーダーに接触しない航路を選ぶと、かなりの迂回路になるからだ。
「ティエリア、リジェネから、なんて? 」
もちろん、一緒に作業しているアレルヤは、脳量子波での会話に気付いているから尋ねてきた。
「これから、プラントへ出発するという連絡だ。」
「ああ、一緒に降りるんだね。」
うんうん、と、頷いているのだが、ティエリアは、ちょっと考えて口を開いた。
「アレルヤ、地上に降りたら、そのまま旅に出ないか? 」
「え? 」
「ニールが回復するまで待っていたら、たぶん、年を越すことになる。そうなったら予定の地域を全部クリアーできない。」
ニールが、すぐに回復するだろうと予想していたのだが、実際は、それほど単純ではないらしい。しばらくは、本宅で療養させるつもりだと、ハイネも言うので、そうなると、予定していた行動ができなくなる。ティエリアとしては、できるだけアレルヤと一緒に、同じ景色を眺めたい。それに、ニールの側にはリジェネが居てくれるから、寂しい思いをさせることもないので、そうしたいと言い出した。
「でも、ニールはティエリアのプレゼントを用意したいって・・・」
「あれで十分だ。これからは、毎年、お祝いしてくれるんだろうから、来年に上乗せすればいい。」
「それ、本音? 」
くくくく・・・と、アレルヤは笑っている。本音は、別のところにあるのは承知している。
「本当は、僕と早くふたりだけになりたいって言ってくれると嬉しいな? 」
「なっっ、おまえっっ。」
ずばり本音を言い当てられて、ティエリアは慌てたように立ち上がる。本当のところは、初めて二人だけで旅行するのが待ち遠しいのだ。時間が限られているから、今回はニールより、そちらを優先したい。ニールには、『吉祥富貴』の年少組がついている。だから、看病も自分たちだけではないからのことだ。
「だって、僕も同じ気持ちなんだ。だから、そうなのかな? って。」
ニコニコとアレルヤは、怒鳴ったティエリアを見ている。アレルヤにしても、自由行動なんてものは、初めてのことだ。だから、ワクワクした気分は止まらない。どこへ行こうと何をしようと、好きにできるなんて、何からすればいいのか、考えるだけで興奮する。予定は、一応、建てているが、それだって予定は予定だ。気持ちの良い景色や場所があったら、そこで滞在してもいいし、新しい場所に気付いたら、そこへ向かってもいいのだ。今までのように時間や予定を守らなくていい、なんていうのは、やってみたくてもできなかったことだ。
「・・・・俺だって初めてなんだ・・・」
「そうだよね。」
「だから、早く実行に移したい。」
「うん、僕も。」
「では、地上に降りたら、そこからは旅を開始する。」
「あははは・・・わかった。ニールには悪いけど、そうさせてもらおう。」
作品名:こらぼでほすと 解除13 作家名:篠義