狙われるモノ1
エドワードの態度が、何せ金色の暴れん坊なので今まで特に注意することはなかったが、彼は狙われるに値する存在――守らなければならない存在。
「まったく・・・結構、失敗して今度は繰り返すまいと思っているのに、なぜ成長しないのか、私は。どうしてまたこんな苦い思いをするんだ。」
俯いたままの自嘲気味の言葉に・・・ナギが本当に後悔していることが分かる。
――つまり、鋼のは本当に生きていないかもしれない・・・ということか。
「誰が・・・鋼のを・・・」
「そのことなんだが、至急、セントラルにいる国家錬金術師・・・現在に限らず、ここ数年分のリストが欲しい。」
「なぜ、国家錬金術師に限定する?」
「大佐の名前が使われていたからだ。大佐は階級名でしか部下に呼ばれんだろう。意外に名前まで知るのは民間人には難しい。だが、軍関係者なら可能だ。」
「なるほど・・・早速手配するが、少なくはないぞ。」
「それでも、何もしないで―――」
ドン ドン ドン
連続して聞こえる銃声
「中尉っ!!」
「アルっ!!」
2人ともすぐに銃声の方へ向かう。
「どうやら、面倒な手間が省けたみたいだな。」
「鋼のを襲った者と同一人物だとは限らんぞ。それに捕まえてから言い給え。」
「捕まえればわかるさ。絶対に逃がすものか。」
さっき俯いて自嘲気味だった人間の口からとは思えないくらい、不敵なセリフが返って来た。
「中尉っ!無事か?」
建物の影から、上の方へ向かって銃を構える中尉の姿を捉えた。
「アルフォンス・エルリックは?」
「アルフォンス君を追いかけていましたら、突然雷がアルフォンス君に落ちました。
気を失って倒れたところを、あの男が抱えて逃げようとしたので、追いかけたのですが――雷が的確に落ちるため、避けながら撃つのでなかなか当たりません。」
中尉の足元には黒焦げの地面。さっき公園にあったのと同じものがいくつもあった。
予想どおり鋼のを襲った錬金術師と同一人物だ。
銃が向いた方向を見ると、30メートルほど先にコート姿の男がアルを抱えて逃げている姿が目に入った。
「ご苦労。雷か・・・」
「知り合いか?」
「一人、雷の錬金術師を知っている。だが彼がこんなことをするとは・・・」
「捕まえて聞いた方が早そうだな。」
そう言うとナギは、地面に手をつく。
途端に道路から木の根が飛び出し、コートの男とアルへ向かって伸びる。
雷が鳴る。
正に届こうとしていた木の根に当たり、黒焦げとなって止まった。
「なるほど。・・・なかなかの使い手だ。では。」
ナギが懐から取り出した剣を、はるか上空に投げる。目で追うことも出来ないくらい遠くに・・・男とアルも内部に捉えて、同心円状に突き刺さる剣。
バリバリバリ
錬成の光が上空に発生し―――豪雨となった。
地面はあっという間に水で溢れ、膝のあたりまで水かさが増す。自分たちの場所も、アルを抱えている男の場所も。
「これで雷は使えまい。」
使えば錬成した本人も感電する。雷を封じた状況で再びナギが地面に手をつく。今度は街路樹の枝が伸びる。
コートの男は捕まえようとする枝を土壁を錬成し懸命に避けているが・・・アルに枝が巻き付くと、瞬く間に男の手からかっさらう。そのままアルを自分たちの元へ引き寄せ、すぐ傍に降ろした。まだ気を失ったままだ。
「アル、おい、しっかりしろ、アルっ!!大佐、ホークアイ中尉、後は任せた。」
「・・・私はちょっと。」
「任せて。」
ドン ドン ドン
的確にコートの男を狙う銃声。そのうち1発が当たったらしい。男は、よろめきながらその場を去ろうとした。
「さすが中尉。これで楽に跡を追える。――大佐はなぜ何も・・・すまん。愚問だった。」
全身が濡れ、もちろん発火布まで濡れている大佐にジト目で見られた。
雨の日無能大佐だと、そういえばエドワードが言っていたな。
「うっ・・・つ・・・」
「アルっ、大丈夫か?」
「はい・・・さっきの衝撃は・・・?」
「雷に撃たれたらしい。・・・錬金術師に狙われたんだ。」
「錬金術師?・・・もしかして兄さんを攫った!?」
「同じ人物だ。追えるか?」
「はいっ!!」
慌てて立ち上がると・・・地面に溢れている水に足をとられて、転びそうになった。
ナギさんたちと男の跡を追いかけながら辺りを見回すと・・・道路は池みたいになっているし、なんか植物の枝や根が縦横無尽に道路と建物を貫いていて――まるで植物が建物を襲っているみたいだ。僕が気を失ってたの、そんなに長い時間じゃないと思うんだけど。
「・・・何があったんですか?」
「あぁ、手加減するのを忘れただけだ。」
「もう少し、なんとかならなかったのか?」
大佐も走りながら辺りを見て呆れている。さすが鋼のの師匠、やるときは派手に思いっきりやるタイプらしい。
「非常事態だ。それよりさっきの男、知り合いか。」
「あぁ、雷の錬金術師シュウ・コリンズ。国家錬金術師だ。雨に弱い点で共通するのでね、昔親交があった。どちらかというと研究者タイプのもの静かな人間で戦いには不向きだったはずだ。数年前、奥さんが急な病で亡くられた後は屋敷にこもっていて軍部にも顔を出していない。査定で一緒だったときに大丈夫かと聞いたら、息子がいるから資格は失えないと笑っていた。思ったよりは元気で安心したんだが・・・」
「なるほど。その情報は古いものだな。戦い向きじゃないどころか、結構な使い手だ。」
「あぁ。こんなことが出来るなんて知らなかった。――確かこの辺に彼の研究所兼自宅があるはずだ。」
「その情報は合っているみたいだ。」
コートの男の姿が見えなくなった。点々と血が落ちている先には、高い塀に囲まれた立派な屋敷がそびえ立っていた。
「・・・おかしいな。」
「ナギさん?」
「アル、さっきの男の気を感じるか?」
「えっ?・・・いえ全然感じません。」
「私もだ。だがこの屋敷にいることは時間的に間違いない。・・・地下から澱んだ気はするが、さっきの男の気が感じられない。・・・大佐、もしかすると普通じゃないモノがあるかもしれん。」
「賢者の石並みに不自然なモノか。」
「可能性はある。――そして、エドワードが生きている可能性もだ。」
「本当ですかっ!?」
「アル、落ち着けっ。首を絞めるなっ。本当だ。あの男の気が感じられないとなると、エドワードの気を感じられないのも、何か別の理由があるからだろう。あくまで可能性の話だが。
――大佐、中尉、アル、気を抜くな。何が出るかわからん。」
深く頷いて、大佐は新しい発火布の手袋を身につけている。そういえば、無能にしたのだったな。
大佐と目が合うと、不機嫌な顔をされた。無能だと思っていたことがバレたか。
「水を錬成するときは、私は除いてもらいたい。」
「善処しよう。」
「くだらないこと言っていないで、早く兄さんを助けないとっ!!」
「くだらなくはないっ!!」
「2人とも落ち着いて下さい。侵入するのに声が大きすぎます。」
「「・・・・」」
冷静なのは中尉だけか。大人しくなった2人を認めて、慎重に屋敷に入る。
「大佐、ここに来たことはあるか。屋敷の構造が分かれば助かる。」
「いや、自宅まで訪ねるほど親密ではなかった。まだ小さい息子と二人暮らしなはずだが。」