狙われるモノ2
「ウィンリィっ!騙されるなよ。
大切にするとか言ってるけど、大佐と一緒で釣った魚には餌をやらないタイプだ。
結婚しても仕事優先で平気で家を1週間とか1ケ月とか、下手すりゃ半年とか留守にする。そんでたまに帰ってきても、埋め合わせとか言ってプレゼントして、すぐにまた仕事に出かけるぞっ!!家庭よりも仕事を取るヤツだ。結婚したら絶っっ対に寂しい思いをするぞっ!!」
ビシっと指をナギに突きつけて、ウィンリィに力説する。
ウィンリィは目を見開いて固まったままだ。
っていうか、周囲もなんか静かなような。
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
(なんだ、兄さん。結構人を見る目があるんじゃないか。
それでどうしてウィンリィの気持ちがわからないんだろう。)
とアルは思った。ほぼ同じことをメイも思い、アルと目を合わせて首を傾げ合う。
なぜ、2人が声を出さないかというと・・・・周りの気温が氷点下に落ちている気がするからだ。
発生源はナギ。指をつきつけられて、にこやかな表情のままなのだが、目が全然笑っていない。
なんだかヒソヒソと、優しそうに見えるのにねぇ、ヒドイ人なのね、とか周りの客が言っているのが聞こえる。
「エドワード。そんな大声で、人の性格を分析してもらわなくても結構だ。」
笑顔のままのナギに、指を結構な勢いで払いのけられ、バランスが崩れる。
片足で立っていたせいもあって、テーブルの下にこけてしまった。
「あ!?」
「お前が、私のことをどう見ているのか、よくわかった。
こんな居心地の悪いところ、さっさと立ち去るぞ。」
ほらっと手を出してきたので、何の気もなしにその手を握ったら、ふわっと体が浮いて、視点が空を向いた。
なんだ?
一瞬、自分の状況がわからない。ナギに引っ張られて、視界が急に変わった。
慌てて周りを見回すと、呆然としているウィンリィ、アルとメイが下に見える。
「な、なんで抱っこしてるんだよ。」
「その足だと歩けないだろう。」
「いいよ、松葉杖で・・・」
バキっ
ナギが勢いよく松葉杖を踏んづけた。真っ二つに折れたそれは、最早使い物にならない。
「杖が壊れたから仕方あるまい。」
「今、お前が壊したんだろうがっ。しかもなんでお姫様抱っこなんだよ!!」
「わかった。お姫様ならいいんだな。」
「は?」
器用に俺を抱えながら、ナギが両手を鳴らした。
途端に、赤いコートだった俺の服は、白いレースがふわふわ付いている真っ赤なドレスに変わった。口もベタベタするし。・・・まさか化粧まで錬成したのか、この一瞬で。
「あとは、髪を解くだけだな。」
そう言って、ナギは口で器用に髪を束ねた紐を解いた。金髪が広がる。
「これでお姫様だ。文句はあるまい。」
「ありすぎるっ!!。なんなんだこの格好はっ!!すぐに下ろせぇ!!」
「じたばたするな、うるさい、騒ぐな。」
「騒がずにいられるかぁっ!!。なんでこんな恥ずかしい格好。」
「それ以上騒ぐと、バラすぞ。」
「なにをだよ!?」
「ウィンリィさんに、雷野郎からどんなことをされたか。
肺を焼かれたり、骨を砕かれたりとか。知られたくあるまい?」
耳元で囁かれた内容に動きを止める。
なんでそんなことをわざわざウィリィに話すとか言うんだ、コイツ。
聞こえたんじゃないかと思って慌ててウィンリィを見ると・・・テーブルに突っ伏して肩を震わせていた。アルとメイも同じ格好をしている。
なんだ?
「ふっふ・・・あっはっはっはー、もうダメ、ガマンできない。」
「ボクも。」
「私もです。」
途端に大爆笑の大合唱。そ、そんなに俺の格好は変なのか。
「に、似合うわよ、意外と。エドのお姫様・・・」
エドがお姫様と繰り返してまた大爆笑。
誰のせいでこんな格好になっていると思っていやがる。
「ウィンリィ、お前なぁ、人の不幸を笑うなっ!!誰のせいでこんな」
「自分のせいだろう。エドワード、これを機会に言っていいことと悪いことがあることを教えてやる。」
笑顔のナギの様子がようやく変だと気づいた。
・・・怖い。特に目が。お、怒っている。しかもマジ怒りだ。
固まって静かになったエドワードをお姫様抱っこしながら、笑顔のままウィンリィに話しかける。
「ウィンリィさん、機械鎧の修理の前に、観光でもしますか。」
「じょ、冗談だろう。こんな格好で観光なんか出来るか。」
「軍部に挨拶に行きましたか。まだなら、一緒に行きますよ。」
「断固拒否っ!!こんな格好で大佐に会ったら、末代までからかわれるだろうがっ!!
アル、笑ってないで、助けろっ!!」
「え~っと」
「アルフォンスはメイにまだ付き合ってやれ。こっちのことは放っておいていい。」
「はい。」
「アルフォンスっ!!兄ちゃんを見捨てる気かっ!!」
声も悲愴で、表情も必死なんだけど、笑える女装の兄さんに笑顔で手を振る。
ガーンっとショックを受けているみたいだけど、ゴメン、兄さん。
今のナギさんに逆らう気は全然ない。
っていうか、これに懲りて思ったことをすぐに口に出すところ、少しは反省して。
トラブルメーカーなのも、すぐに騒動に巻き込まれるのも、半分以上は兄さんのその悪癖のせいだから。
「あの目をしたナユ様は誰にも止められないですヨ。お気の毒に。」
隣でメイも手を振ってつぶやく。
「じゃ、行きますか、ウィンリィさん。」
「くっ・・・ふふっ・・・はい。」
笑い転げて、ろくに返事もできないウィンリィも席を立って、店から出る。
「って、どこ行くんだよ!?」
「さっきも言っただろう?軍部に挨拶に・・・」
「冗っ談じゃねぇっ!! とにかく、まっすぐにホテルに行こうっ!!」
「・・・エドワード、その格好で男性にそういうセリフを言うと誤解を招くぞ。」
「へっ!?」
まわりのご婦人から最近の若い子は信じられないとかなんとか、ヒソヒソとかなり悪意のある目で見られているのに気づく。
「な、バカ、ちがうっ!!そういう意味じゃねぇっ!!っていうか、どんな意味なんだっ!!」
「自分で自分にツッコミを入れるとは器用だな。」
感心されても嬉しくない。
「とにかく、おろせっ!戻せっ!!あやまるし、なんでもするから、機嫌を直せっ!!」
「本当に?」
「あぁ。」
ただでさえお姫様抱っこで近くにあった顔が、より一層近づいてきた。
「なんでもするのか?」
「男に二言はない。」
「じゃぁ、このまま軍部に挨拶に行こう。」
「・・・・なんでそうなるんだよ。おろせ、戻せぇっ!!」
兄さんとナギさんの近くにいたウィンリィは、よっぽどおかしいのか道端にうずくまってしまった。おかげで2人から少し離れてしまっている。
だんだん離れていく女装してお姫様抱っこされている兄さんと表面だけは和やかな笑顔を浮かべているナギさんは、この公園で一番のラブラブカップルに見えなくもない。
「そうだ。そこのカメラマンさん。あの騒がしい2人の写真をとってください。」
「メイ?」
「リン・ヤオがたまに疲れた顔をしているんです。写真にとって送ればリンも元気になるし、こちらの国も平和だとわかるし、一石二鳥デス。」
「その写真、ボクも欲しいな。お世話になった人に送りたい。」