Wizard//Magica Wish −2−
「ふあぁ…寝すぎた…」
昼、12時過ぎの繁華街。
杏子が起きるとそこにマミの姿はなかった。もちろん、今日は平日なので彼女は学校に登校している。テーブルには山積みのホットケーキと「寝すぎはダメよ?」という置き手紙が置かれていた。
今日は彼女は非番のため、特にすることもなかったのでそこらへんをぶらぶらと歩いていたのだ。持ち合わせは多少あるが、あまり使わないようにしているため繁華街のショーウインドウの奥にある料理のサンプルをまじまじと見たり、入口から漂ってくる匂いを嗅いだりして空腹をしのいでいる…むしろ、空腹を悪化させているということは彼女はわかっていないのだが。
「あ~…さっきのホットケーキじゃ腹持ち良くねぇな~…昨日も6千円近く使っちゃったし、ちょっとは節約しね~と…」
「杏子ちゃん!」
「ん?…うわっと!!」
ふと、杏子の後ろから男性の声が聞こえてきた。
何事かと振り返ると、目の前に飴玉の袋が落ちてきたのでそれを片手でうまくキャッチする。
飴玉の袋を投げた張本人は、操真ハルトだった。
「それ、この前のお返し」
「お、おう…」
「なぁ、俺今日は暇なんだ。ちょっとそこの店で時間潰さないか?どうせ暇でしょ」
「暇っちゃ暇だけどさ…まぁ、いいか」
二人はファーストフード店に移動し、2階の窓際の席に座った。
杏子曰く、バーガー系ならコストがかからずお腹いっぱい食べられる…とのことらしい。
それでも彼女はバーガーを6つ、ポテトのLを3つ、ドリンクのLを4つ、シェイクを5つ…と、常人が一度に頼む量を遥かに超えていたのだ。
結局、出費は数千円を軽く超えてしまった。
ちなみにハルトはコーヒーのSを一つのみである。
「はぐっ…むぐぐっ…」
「うっぷ…なんか見てるこっちが気持ち悪くなってきた」
「ごくっごくっ…ぷはぁ!丁度昼だったしお腹すいてたんだ!あ、飴ありがとな!」
「気にすんなって、あ、ほっぺにパン屑ついてるよ」
「お、悪いな…うっぷ」
「おいおい、女の子なんだから…」
「いいんだよ、私は。別にそういうの興味ねぇし!」
「もったいないなぁ、顔も悪くないしスタイルも良いのに」
「ん?私のこと口説いているのか?」
「いや、別にそういうわけじゃないよ…ははっ」
注文をした物を全て食べきった杏子は今度はハルトから受け取った飴玉の袋を豪快にあけ、何個か取り、それを一気に口の中へ突っ込んだ。
彼女は美味しそうに舐めながら、再び袋の中に手を入れ、今度はそれをハルトに渡した。
「ほら、食うかい?」
「悪いな、もらうよ」
ハルトは杏子から一つ、飴玉を受け取る。
ハルトが渡したのは沢山のフルーツがランダムに入っているタイプの物だった。
包装紙を開けると、黄色の玉、おそらくレモン味だろう。
口の中に入れると、一瞬でレモンの味が広がっていく。
「そういや、お前まだこの街にいたんだな。私はてっきりもうどっかに旅立ったと思ったよ」
「そうだね、この街でもやることできたし、当分は居候するかな」
「やること、ねぇ。なんかあんのか?」
「うん、こればっかりは秘密だけど」
「いいじゃん教えろよ!別に減るもんでもないだろ?」
「だ~め」
他愛のない話が続く。
しかし、自然とお互い飽きはこなかった。
自分のこと、それと友人のこと、杏子は何も隠すことなくハルトに話す。何故か特に抵抗はなかったのだ。
ハルトは基本、さやか や まどか みたいにテンションの上げ下げは激しくないが、杏子の話しには一切退屈せず、優しい笑顔を杏子に向け、ずっと聴き続けた。
もちろん、魔法少女の事は話さなかったが。
しかし、ハルトは簡単な質問や返答はするが、自分のことは一切話さなかった。
家族のこと、自分の過去のこと、そして…自分の秘密。
気がつけば、空にはうっすらと夕日が昇っていた。
「お、もうこんな時間か?随分話し込んじまったな。悪ぃ、付き合ってもらって」
「俺も暇だったし全然大丈夫だよ、それよりそろそろ友達の下校時間なんじゃないか?」
「そうだった!さぁて…今日はどうやって さやか を脅かしてやっかな~!」
二人は長く居座り過ぎたファーストフード店を出て、見滝原中学校へと向かう。
ちなみにハルトは別に まどか達に用事はなかったのだが、暇つぶしで、ということで杏子の後を着いていった。
「そういやハルト、お前、さやか達とも知り合いだったのか?」
「まぁ正確には まどかちゃんとちょっと話したぐらいだったんだけどね」
「そっかそっか!じゃあ今度は さやか を紹介してやるよ!いじりがいのある面白ぇ奴だぞ!」
「俺はそんなキャラじゃないから」
「ははっ!さあて、この前は背後から驚かしたから、今日は上から…っ!!」
「どした?杏子ちゃん」
杏子のソウルジェムに衝撃が走った。
ふと、杏子は右にある中華飯店を凝視する…この店の中から『使い魔』の気配を感じっとったのだ。
使い魔とて、成長すれば魔女になりかねない。
このままほおっておく訳にはいかない。
「悪いハルト、私あの店に用があるんだ。今日はここでお別れだ」
「さっきたらふく食べたばっかなのに、まだ食べる気してるの?」
「あぁ!!あの店から美味そうな『料理』があるみたいだからな…じゃ!」
そう言い残して杏子は中華飯店の中へと勢いよく入っていった。
しかし、ハルトはいつもの気楽な笑顔から一変した。
「どうやら、使い魔が現れたみたいだな…俺も行かないと」
ハルトは周りに気にせず、その店の店の間に入り、裏へと向かう。
しかし、ここでハルトはある失敗を犯していたのだ。
その姿を、見ていた者がいたのだ。
「え…あれってハルト君?」
「どうした まどか?…あ、あいつ」
タイミング良く、下校中の まどか と さやか がハルトが店の裏目掛けて走っていく姿を目撃してしまったのだ。ちなみにハルトはこの事に気がついていない。
「どうしたんだろう、ハルトくん」
「ちょっと!まどか、あんたどこに行くのよ!」
「ハルトくんを追いかけるの!行こう、さやかちゃん!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
その頃、ウエイターを無視し、ずかずかと店の中を歩いていった杏子は、ソウルジェムをレーダー変わりに結界を探していた。
「っ!!ここか…って、トイレかよ!!」
ソウルジェムの輝きが一層激しくなり、辿り着いた先はなんと女子トイレだった。男子トイレでは無かったのは不幸中の幸いだろう。
杏子は女子トイレに入り、一つ一つ個室を開けていく…すると、一番奥の個室に…それはあった。
「ここか…さて、誰も居ないけど、使い魔程度だったら私一人で十分だろ、よっと!!」
ソウルジェムを輝かせ、一瞬で杏子は魔法少女へと変身し、結界内へと入っていった。
…丁度、その結界の入口の裏の壁に当たるところ…
彼、ハルトもその結界の場所を探知していた。
「うん…大体ここら辺かな…さてと」
作品名:Wizard//Magica Wish −2− 作家名:a-o-w