【静帝】 SNF 第四章
(体調によっちゃあ、一缶持て余しちまう帝人には、残しやすいペットボトルを選んだり…。オレにくれたこの缶だって、最近よく愛飲してるっつ〜話を帝人から聞いてて…もしかしたら、あン時一緒にいるトコ見かけたオレが、連れて来られてるかも…って想定して、不要になること承知で、一応、用意しといてくれたんだろ〜なぁ、きっと…。)
値踏みする視線はマジおっかなかったし、虚ろな目で帝人たち眺めながら疲れ切った笑い漏らしてる姿は、不気味さ通り越して本っ気で怪しかった(っつ〜より、むしろ危なかった!)けど…。
それでも…こうして、落ち着きを取り戻した様子を眺めれば、細かな気配りをさりげなく行ってしまえる、カッコいい部類に入る“大人”な男だと、悔しいながらも実感させられるだけの度量を有してた。
(…まぁ、面倒見のいい性分じゃなかったら、平和島静雄となんかコンビ組めねぇか…。)
そんな穿った感想を抱きながら、正臣は一言礼を述べて頂いた缶飲料に口を付けた。
だいぶ温くなって残念な味になってたが、正臣の嗜好(…普通はまず選ばない少数派向け!)を意識した上で購入された代物と分かるだけに、乾いた喉には格別の旨さだった。
つまらぬ意地など張らず、冷えてる内に貰っとけば良かったな…。
ちょっとだけ素直に反省してから正臣は、少し遅れて公園にやって来た男達と、今しがた対面した折のやりとりを改めて思い返した。
このドレッドヘアの男を紹介する時、帝人は「身内の皆さんにとても慕われてて、門田さんとはまた違った頼り甲斐のある人」なのだと称賛してた。
すごく「男気あふれるカッコ良い人」だとベタ褒めするのが少々妬けて、よく『兄貴』って声を掛けられてると言うから、どんな輩がそう呼び慣らしてるのか、やっかみ半分で帝人に尋ねた事は…すぐに、どっぷり後悔させられた。
「繁華街でよく見かける、派手めのシャツ着た男の人たち」って…。うん、まんまソレ、世間で“チンピラ”呼ばわりされてる手合いのことだよな?…余り、お近付きにはなりたくない連中。
加えて、表通りを流してたバイク乗りの集団と出くわした時は、リーダー格の男が「…あれ?司令じゃないですか。奇遇であります」と、敬語で話し掛けて来たのだと、面白そうに帝人は語った。
その陰で「げっ!なんで鬼軍曹がこんなトコに…」って口々に噂してたから、隣にいた恋人に「ふふっ、トムさんにも、やんちゃ時代があったんですねぇ〜」と、無邪気な感想を漏らしたらしいのだが――そんな帝人に、平和島静雄は無言で力なく首を振って、ぽんっと肩に手を置いただけだったと言う…。
(あんた、いったい何者だっ!?田中トムっっ…!!)
街のチンピラに『兄貴』と慕われ、暴走族のヘッドには『司令』と敬われ、他の顔ぶれには『鬼軍曹』と恐れられてる、謎の男――田中トム!
突っ込みどころ満載なそれら来歴を、《やんちゃ時代》の一言でくくる帝人のズレっぷりにも眩暈を覚えるが、それ以上に、意味深な態度を取った平和島静雄の反応が、すこぶる気になって怖かった。
過去形じゃなくて、現在も『絶賛!やんちゃ中』だと言いたかったのか…。はたまた、世の中には知らない方が幸せな事もあるのだと、固く閉ざした口で黙然と帝人を諭してたのか…。
(〜〜恐ろし過ぎて、とてもじゃないが追求できねぇ〜〜っ!)
ただでさえ睥睨されて竦んでた所にそんな逸話を聞かされた正臣は、当然びびって青褪めた。
それを、体調不良と誤解した帝人がベンチを勧めてくれた結果――今の不本意な状況に陥った。
「そういや、あんた…煙草は吸わなくてイイのか?」
今更ながらに、ここが『喫煙席』だった事を思い出し、藪から棒な質問を投げてきた正臣に、意表を突かれて一瞬呆けたトムだったが、すぐに気を取り直すと「…あ〜まぁ、口実に使った手前、一本くらいは吸っとくか…」と、どこか気乗り薄な態度で億劫そうに呟いた。
「体調悪いときゃ〜ヤニの臭いは結構きついべ?隣りで吸っちまって大丈夫か?」
そんな気遣いを口にする男に、「…いや、あんたの存在に恐れをなしてただけで、健康状態は別に悪かねぇんだが…」とは、さすがに真っ正直に打ち明けるのは後ろめたい。
(見た目の印象と身辺の謎さえ除いたら、人柄的には好感もてる“男伊達”なんだよなぁ〜。)
少しだけ態度を軟化させた正臣は、「お構いなく」とだけ曖昧に濁して男に告げた。
ならば…と、軽く断りを入れてから煙草に火を点けた男は、副流煙に注意を払うかの様に、相席した未成年者から顔を背けて、ゆっくり息を吐き出した。
紫煙の行方を見るともなしに眺めながら正臣は、「…平和島静雄も、帝人の健康を気にして、一緒にいる時は吸わないのか?」と、ふと気になった『禁煙席』の成り立ちをトムに尋ねた。
意外な事に、返って来たのは「アイツは最近、すっぱり煙草を止めた」との衝撃的な情報で…禁煙を始めてから、今日でかれこれ二週間になるのだと教えられた。
平和島静雄といえば、非常に沸点の低い短気な男として有名で、イライラを紛らわせる為にしょっちゅう吹かしてる姿が目撃されてた、誰もが知る所の“ヘビースモーカー”だ。
「あんっな、ばかすか吸いまくってた奴が…。よくまぁ〜禁煙しようだなんて、一大決心したモンだな」
思わず感嘆の声を上げた正臣に、複雑な表情を浮かべてトムは、「…まぁ、静雄にも静雄なりの事情があンだわ、色々…な。」としんみり呟き、遠い目をして虚空を仰いだ。
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作品名:【静帝】 SNF 第四章 作家名:KON