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【静帝】 SNF 第五章

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 いや…だって、仕方ねぇべ?カツアゲ君たちから、逆に《100円カンパ》を施されてる“カモ”が居るだなんて、普通〜思い浮かべられっか!?
 所持金(紙幣なし小銭のみ)763円ぽっきり。肩から提げた保冷タイプのエコバックの中には、半額シールの貼られた4分の1カットの白菜と、人参1本と油揚げ…のみ!
 感情を抑えた低い声で「…おい、動物性タンパク質はどうした?」と尋ねた主犯格の悪ガキに、少し気圧された様子で「え、えっと…冷蔵庫の中にまだ玉子2個と、シーチキンが1缶残ってるので、次の特売日まではそれで凌げるかなぁ〜っと…」と、切り詰めた質素な生活ぶりを覗かせる発言を、あの子が言い終える前に「〜〜っこれで!肉買って食え、肉っっ!」と耐え切れずに、思わず叫んでしまった悪ガキ共の心境は、痛いほどに良く解る。
 どうやら、あの子を見てると、無性に「何か栄養の有る物を食わせねばっ!」という気持ちにさせられるのは、俺等に限った事では無かったらしい。
 取り囲んでいた総勢4名によって付与された寄付金、計400円。戸惑うあの子の手に硬貨4枚を握らせて、「ちゃんと肉買うんだぞ〜っ!」と念を押して去っていくカツアゲ君たちを呆然と見送ってたら、迂闊にもその場を離れるタイミングを外して、あの子とばっちり目が合ってしまったのが運の尽き。

「…で、まぁ〜その後の展開は、推して知るべし…だな。できれば不可抗力だったと、察してくれや」

 隣りに座した正臣を軽く見遣り、苦笑を漏らしながら「…悪かったな。俺ばっか一方的に話しちまって」と詫び言を述べるトムに、正臣はゆるゆると首を振って気落ちしたように項垂れた。
 親友面して傍に居ながら、「帝人のことを何も解ってなかった」と、自己嫌悪に陥ってじっと俯く正臣に、「それは違うぞ?」とやんわり諭して、トムは詭弁と承知で労(ねぎら)いの言葉を掛けてやる。
「兄ちゃんが、あの子の《危険ホイホイ体質》に気付かなかったのは、裏を返せば、一緒の時は危ない目に遭ってなかった…って事だべ?」
 ちゃんと、あの子を守ってたんだよ、兄ちゃんは…。そう言ってくれるトムの慰めが、心遣いによる方便である事は分かっていたが、敢えて反論を並べて厚情を無碍にする事はしなかった。

 貧乏生活の支援に関しては、「食材を提供する代わりに、たまに飯を作って貰う…っつ〜あの子の助けにもなって俺等も得する、イイとこ取りの『妥協案』を、上手く言い包めて納得させたから。少なくとも、この先あの子が栄養失調でぶっ倒れる心配はいらねぇぞ?」と、したり顔で片目を瞑ってみせるトムに、「なんて羨ましい!」と、正臣が正面切って率直な不平を訴えれば、「あの子に頼って貰うのも、あの子を甘えさせてやるのも、俺等だけに与えられた“特権”だ。譲る気はねぇよ」と、余裕綽綽にいなされ、親密ぶりを当てられた。
 譲る気は無いときっぱり言い切るくらい帝人に深く執着しながら、相棒とはいえ自分以外の“野郎”に帝人を添わせる事に、この男は何の抵抗も覚えなかったのだろうか…。
 トムの帝人を見詰める眼差しは、どこまでも温かくて優しい無償の『慈愛』に満ちている。
 色恋だけが想いの『形』の全てでは無いのだと黙示する、懐(ふところ)の深いその大らかな心のありようが、未だ昇華しきれぬ葛藤を引き摺る正臣には、ひどく眩しく感じられた。

「…あんた等が、帝人のこと、すっげえ大事に想ってるってのは分かった。だからこそ、これだけは、はっきり確認しときてぇ。…不躾なこと、訊いてイイか?」
 居住まいを正して真剣な面持ちで挑んできた正臣に、トムもまた態度を改め、窺うように少年をひたと見据える。
 鋭さを増した男の眼光に射竦められ、怯みながらも正臣はとつとつと、胸の内にわだかまる不安をざっくばらんに吐き出した。
 帝人が、自身の《ホイホイ体質》によって惹き寄せてしまう“危険因子”については、致し方ない事ゆえ、そこまで彼等に責任の是非を問う気は無い。が、平和島静雄の買った恨みのとばっちりで、大事な帝人が危ない目に遭うかもしれない“不安要素”だけは、きっちり取り除いて貰わなければ、正臣としては後顧の憂いなく、安心して帝人を彼等に託すわけにはいかなかった。
「平和島静雄を逆恨んで、報復の機会を窺ってる連中にとっちゃあ、格好な“弱み”として帝人が狙われるのは必定だろ?」
 いくらアイツ自身が、絶対に喧嘩を売ってはいけない、池袋最強の《自動喧嘩人形》と呼ばれ、畏怖の対象に祀(まつ)られていようが――帝人自身はそうじゃない。
 いとも容易く捻り潰してしまえる、身を守る爪も牙も持たないただの非力な子供に過ぎない帝人を、仕返しを企む連中が放って置くとは到底思えない。アイツ自身に手は出せなくても、腹いせにアイツが大切にしている“存在”を傷付けてやろうと、連中が考えないだなんて、どうして言えよう。
(もし、そんな凶賊に帝人が襲われ、なぶり者にされる事にでもなったら、オレは…っっ!!)
 平和島静雄を責める資格は、自分には無い。それでも…非難するのは筋違いと解っていても、その時、あの男を憎まずにいられる自信が、正臣には無かった。

「兄ちゃんが心配するのは、もっともだわな。どれほど万全を期して警戒しようが、万に一つもそんな事態は引き起こさせねぇ…なんて“絶対”の保障は、約束してやれねぇのも確かだ。…けどな?」
 くいっと顎をしゃくって、《平和島静雄》へと視線を向けさせる。
 促されるまま、そろりと斜(はす)向かいを見遣った正臣に、「アイツぁ〜だてに、《絶対に敵に回してはいけない男》と呼ばれてる訳じゃねえよ」と、意味深な笑みを浮かべて、トムは厳然と言い放った。
 静雄と揉めた経験のある者なら誰しも、格の違いを骨の髄まで悟らされた恐怖から、歯向かう気力を根こそぎ殺(そ)がれ、二度と盾突こうだなんて馬鹿な考えは起こせなくなる。
 敵に回す事の恐ろしさを身をもって知るが故に、怒らせてはいけない男の“逆鱗”に触れたが最後、どんなおぞましい惨状を招くに至るかなど、火を見るよりも明らかだ。
 愚行と承知で、あえて無謀な暴挙に打って出るほど、連中とて馬鹿じゃない。
「あまり、アイツを見くびってくれるな。あの男は、『存在』自体が、既に“脅威”なんだよ」
 《平和島静雄》の名は、それだけで“抑止力”になる。
 男の相棒は、「何とかとハサミは使いよう…ってな。アイツの悪名も、それなりの役には立つって事だ」と、褒めてるのか貶してるのか微妙な言い回しで男の重宝さを誇示し、底光りする剣呑な眼を、親友の身を案じる少年へと向けて、「身の程知らずのクズ共なんぞに、あの子は指一本触れさしゃ〜しねぇよ」と、頼もしくも物騒極まりない誓約を明言してくれた。

「…とは言え、あの子を盾にとって、静雄を“言いなり”にしようだなんて、おこがましい悪巧みを画策してやがった、懲りない輩も稀に居るこたぁ〜居てなぁ…」
 無論、そんな浅はかな企てはきっちり未然に握り潰した上で、追随しようと目論む愚か者への見せしめとして、連中にはちょいとばかし“気の毒”な目に遭って頂いた。
作品名:【静帝】 SNF 第五章 作家名:KON