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【静帝】 SNF 第六章 【完】

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 危うく暴走し掛けた、あの時の上目遣いでの“お願い”が、まさか「枕を投げっこする際は、どうか手加減して下さいね」と、素直に頼んでいただけだったとは――流石に、予想の範囲外だった。
 思わせ振りな紛らわしい言動には心ならずもすっかり慣らされたから、ある程度は真意を探れる様になった気でいたが…まだまだ、見極めるレベルには到達できていなかったようだ。
(仕方ねぇよな…惚れた弱みだ。おまえの気持ちが追いつくまで、ちゃんと待っててやる。だから…)
 少しずつで良いから、背伸びしないペースでゆっくりと、“キス以上”の関係に進むことを意識していって欲しいと、人生を達観してるくせにてんで初心(うぶ)なあどけない恋人に、心の中で小さく祈る。
 自制心を鍛える精神修行の日々は、まだ当分の間、現在の“生殺し”状態を、余儀なく強いてくれるらしい。
 けれど、無自覚な誘惑で子供が理性を試し続けてくれたお陰で、堪え性のなかった自分に忍耐力が培われてきた成果を思えば、この“お預け”生活の延長にも、それなりの意味があるのだろう。

 ぽんぽんっと軽く叩いて、腕を掴んでいた手をやんわりと外させた帝人を正面に立たせ、その背におぶさるように後ろからのっそりと静雄が抱き付く。
「…渡る前に、叩いた石橋を壊しちまってた場合は、やっぱ《修行が足りないから、出直して来い》って、ダメ出しされたって事なんスかねぇ〜っ」
 子供のちんまりした頭の上に顎(あご)を乗せた体勢で、男はまったりと寛ぎながら、いつものように我関せずの態度で飄然と構えている上司に、苦笑混じりに聞かせるともなく独り言(ご)ちた。
 恋人を今夜“お持ち帰り”する前から、まさかの『勘違い攻撃』を連続で受け、完全に出鼻をくじかれた割りには、どこか吹っ切れた様子の清清しい顔付きで、連敗記録の更新を報告してきた部下に、トムはただ黙って微笑ましげに目を細めただけだった。
「…っつぅ〜かさぁ。何でそんな、使い古されたベタな常套句で、わざわざ口説いたりしてんだよ」
 無言で成長を見守ってくれてる上司の代わりに、不躾な物言いで「オヤジ臭い誘い方すっから、しくじっちまったんじゃねえの?」と、容赦なく敗因をずけずけと指摘してきた正臣に、男は億劫そうに憮然と一瞥をくれてから、「…ンなもん、ストレートに言っても通じなかったからに決まってんだろうがっ。」と、ふて腐れた口調でぶっきら棒に言い捨てた。

 この、穢れを知らない純真無垢な“お子様”は、恋仲になって初めての逢瀬の晩、先ずはほんの小手調べのつもりで、吐息の掛かる距離まで顔を近づけて、「おまえを抱きたい…って言ったら、どうする?」と囁いてみた男に、きょとんとした顔で「ハグする時の力加減を、練習したいんですか?」と切り返してくれた、筋金入りの《天然》だった。
 元より、今後の参考までに…と、その晩は軽く出方を窺ってみるだけのつもりだったし、何より『ハグの練習』とやらは思いのほか楽しかった(…抱き締める際の力の強弱を、全神経を集中して“そっと”から“ぎゅっと”の感覚まで、しっかりとインプットさせて貰った。)から、初チャレンジの求愛をあえなく撃沈されても、さして落ち込みはしなかったが…。
 よもや、初めて出来た年下の恋人が、ここまで物の見事に“そのテ”の知識だけすっぽりと抜け落ちた、極め付きの《箱入り》だったとは、事ここに至るまで、終(つい)ぞ見抜けなかった静雄だった。
 あれから、幾度となく試みたアプローチは、ことごとく突拍子もないフェイントで躱され、易々とすり抜けられ続けている。
(今日こそは伝わったんじゃねえかと、結構期待してたっつ〜のに…。ちったあ“大人”な反応を見せてくれる様になったかと思いきや、相変わらずの紛らわしい天然っぷりを披露してくれやがって…。)
 毎回毎回、よくもまぁ〜あれだけズレ捲くった勘違いが出来るものだと、一向に気付いて貰えない落胆を通り越して、いっそ可笑(おか)し味さえ込み上げてくる。
 高校生ともなれば、そろそろ色気付いて来ても良い年頃の筈なのに…。奥手な純朴少年が、性的に目覚めてくれるのは、一体いつになる事やら――。

 のんびり屋の無邪気な恋人にだらしなく纏わり付いて、せめてもの癒しを得ようとしている侘しい男に、悪怯れない態度で正臣が、耳に痛い言葉をざっくばらんに浴びせ掛ける。
「下手な鉄砲も、ひたすら数を撃ち続けてりゃ、その内まぐれ当たりするかも知んね〜とは言え、アンタもめげずによくやるぜ。…口説きのセンスはからっきし無ぇけど、根性だけはスゲェと認めてやるよ!」
 何かと苦労させられてんだな…としみじみ呟き、気の毒そうに同情の眼差しを向けてくる、口が減らない小生意気なクソガキに、「センスが無くて悪かったなっ!」と心の中で低く唸って、静雄は青筋を一本こめかみにピキッと浮き立たせる。
 道化と承知で、ダメ元のモーションを掛け続けることで、年齢差と性別を気にしていた帝人を不安がらせずに済むのなら、本気の熱烈アタックを毎度あさっての方向に逸らされて地味にへこむ事くらい、男にとっては何程のものでも無かった。
「…イイんだよ。変にマセてるよりゃ、“ねんね”なくれぇで!」
 そう負け惜しみを呟いた切り、だんまりを決め込んだ男は、子供の頭に乗せていた顎を戯(たわむ)れにグリグリとこすり付けて、無防備に背を預けて安心しきっている罪作りなお子様に、「ひゃわっ」と素っ頓狂な声を上げさせた。
 びっくりした拍子に、背後から覆い被さった男の両腕にとっさに縋り付いた子供の反応が、無意識に頼ってくれてる心情の表われのようで、男の庇護欲をこよなく駆り立て更なる愛おしさを募らせる。

(…おまえを守ってやれるのなら、オレは、人外の《化け物》と疎まれる存在で構わない。)

 忌むべき特異体質に生まれ付いてしまった運命を、ずっと呪い続けてきた男の許に、過ぎたる望みと疾うの昔に諦めていた、遅めの『春』を運んで来てくれた、朗らかな空気を纏った不思議な子供…。
 無用の長物でしかなかった役立たずのこの腕を、子供は恐れも厭いもせず、恭しげに頬をすり寄せて「僕を優しく包み込んでくれる、とても頼もしくて力強い、あたたかな腕」だと言ってくれた。
 人並み外れた尋常ならざる怪力も、有り得ない回復力をみせる強靭な肉体も、ずっと、己が《異質》の存在だと思い知らされるだけの、ありがた迷惑な天よりの“賜り物”でしか無かった。
 けれど、我が身を『盾』としてこの“愛し子”を守れるのなら――その為に、必要な《進化》だったと言うのなら、これまでの長く辛かった十数年間の苦悩の日々も、それだけでもう充分に報われた気がした。

(…これからは、身体だけじゃなく、精神的にもおまえを守り、支えてやれるようにならねぇと…な。)

 融通の利かない、愚直な生き方しか出来ない不器用な男に、子供は「嘘のつけない、貴方の生真面目で誠実なところが好き」なのだと微笑んでくれた。
 確かに、ずる賢くて抜け目の無い不実な男よりはマシかも知れないが、曲がった事が許せない馬鹿正直なだけの短慮な男のままでは、どう考えたって衝突の絶えない、厄介者の“お荷物”にしかならない。…それでは駄目なのだ。