こらぼでほすと 年末風景2
「マッサージもあるし温水プールもあるし、寝るなら個室の仮眠室もあるからね。難点は、本物の温泉じゃないとこぐらいだ。今日の午後から明日の午後まで借り切ったから、適当にしてくれたらいい。」
「そりゃいいな。風呂上りにビールとかさ。」
「あははは・・・そうだろ? 宴会は七時からだけど、早めに来てひとっ風呂浴びるといいよ。」
忘年会なので、一応、宴会は開始時間がある。それだけ顔を出して食べたら、後はフリーダムだ。これなら、適当に遊んで帰れるし、長いこと、宴席に付き合うこともない。
「僕らは、適当に参加させていただきます。・・・おや、速攻でしたね。」
三人が、居間の廊下で立ち話をしているうちに、ニールは、くーすか寝ていた。リジェネも、あれ? と、覗き込んで肩を震わせている。
「まあ、そうなるんだろうな。」
「昨日も動いていたんだとしたら、もう電池切れ寸前なんだ。・・・気をつけてても、これだからねぇ。」
しょうがない子だよねぇーと、トダカも笑っている。もう、こんなことは慣れっこだから、トダカも一々呆れたりしなくなっている。むしろ、せっせと頑張っているニールが可愛くて仕方がない。
「さて、さくさくと片付けてしまいましょうか? 」
「そうだね。今回は、いつもより手伝いが多いから、なんとかなると思うよ。」
リジェネくんも行こう、と、誘って三人は、回廊を昇っていく。夕方までに終わらせるには、サボっていては終わらない。
午後前に、坊主が一端、戻って来て居間に入って、立ち止まった。女房が両手をタオルで縛られて寝ていたからだ。まあ、働かさないとなれば、これは正しい。ドスッと女房の腰の辺りを蹴って叩き起こす。
「おい、メシ。」
「ああ、おかえりなさい。早かったですね。」
どっこらせ、と、起き上がった女房も蹴られて起こされても動じない。いつものことだ。亭主がタオルを外すと、「何にします? 」 と、尋ねる。
「カレーライスとトン汁。」
「サラダは? 」
「あるなら出せ。ラッキョウと福神漬けはあるんだろうな? 」
「もちろん。」
コートをばっさりと脱ぐと、坊主のほうはこたつに入り込んで、一服だ。スクーターで走り回るのは、かなり寒い。防寒コート程度では凌げるものではない。
「はい、とりあえず温まってください。」
まず、お茶が運ばれて来た。カレーとトン汁を温め直す時間がかかるらしい。次に、用意していたサラダが出て来て、ちょっと間があってトン汁だ。チンという音がしているから、とりあえず坊主のだけを用意して温めているらしい。次のチンで、カレーライスも出て来た。
「おまえは? 」
「あとで。」
「ああ? 亭主の相手をしろ。食ったら寝てりゃいい。」
「いや、さすがに午後からは手伝いますよ。いくらなんでも、何もしないわけには・・・」
うっかり、寝てしまったので、女房のほうは大いに反省している。午後からは少しでも手伝いをしておかなければとおっしゃる。
「それなら、なおさらだろ。ちっとは食え。」
「うーん、あんま腹減ってないんだけど。」
と、言いつつ、女房もトン汁をチンして持って来た。これぐらいなら付き合える。福神漬けとラッキョも用意すると準備完成だ。いただきます、と、手を合わせて、亭主のほうはガツガツとカレーを口に運ぶ。
「順調ですか? 三蔵さん。」
「おう、予定はクリアーした。残りは午後からの十一軒だ。夕方には終わるだろう。」
「なんだか、年々、檀家廻りの件数が増えてますね。」
「ここの寺に俺が居座る前は、坊主が不在だったらしいから、常駐すんのがわかって依頼が増えてるんだろう。」
三蔵たちが、この寺に住むことになって数年というところだから、徐々に寺のほうに回向の依頼をしてくるようになっている。まあ、綺麗で若い坊主というのが、ポイントではあるのだが。
「俺の分の弁当は三時に食うからキープしとけ。」
「え? まだ食べるんですか? あんた。」
「カレーなんて消化がいいから、すぐに腹は減る。」
「そういうもんかなあ。」
カレーの合いの手にトン汁を啜りつつ、坊主はさくさくと平らげる。昼飯時は予定がないから、食べたら少し休憩だ。すかさず、コーヒーが出て来て、坊主はタバコを燻らせつつ、女房にトン汁だけは完食させる。その頃に、大掃除部隊のほうにも食事が届いたのか、悟空たちが戻って来た。
「もう食ってんの? 弁当は? 三蔵。」
「三時に食う。」
「お疲れさん、みんな。悟空、悪いけど、カレーの鍋を運んでくれないか? 」
「オッケー。」
大鍋なので、悟空くらいの馬力がないと運べない。後から戻って来たシンはトン汁の鍋、レイはカレーうどんの鍋だ。カレーうどんのほうは、すでにうどんを投入してある。炊飯器をどっこいせ、と、ニールが持ち上げると、とりあえず本堂のほうへ運ぶ。回廊へ出ると、ものすごい人数が境内やら本堂の前に集まっていた。いつもより三倍はいる。
「おいおい、危ないなあ。」
ニールが一升炊きの炊飯器を運んでいると、馴染みのトダカーズラブのメンバーが駆け寄って取上げた。それらを盛る容器は、脇部屋に先に運んであった。それだけの人数になると寺の食器ては足りないから、発泡スチロールの容器だ。これに、好きなように盛ってもらい、スプーンなり箸なりで食べてもらう。
「リジェネ、脇部屋のエアコンつけてくれ。」
本堂にも大型のストーブがあるから、ニールがそれをつける。これだけの人数となると家のほうでは入りきらない。季節的に外で食べてもらうのは寒いから、そこいらでお願いすることにした。
「今日はありがとうございます。温かいものだけ用意しました。どうぞ。」
ニールが声をかけると、馴染みのメンバーは、「おいおい。」とか「大丈夫か? 」 と、声をかけつつやってくる。やはり湯気の上がるものに、みな、頬を崩す。とりあえず、トン汁あたりからよそって、どんどん本堂の前で配布しようとしたら、これもメンバーがやる、と、ニールを下がらせた。
「じゃあ、お茶を。」
「こらこら、娘さん。こっちのことは、うちでなんとかするから家のほうへ戻りなさい。」
「そうだぞ、ニール。そんな薄着で出て来るな。」
「いや、俺は寒いとこの出身なんで、これぐらいなら、なんとも。」
ニールにとって、特区の冬ぐらいだと、それほど寒くはない。刹那は暑い国の出身なので、寒さに弱いから心配するのだが、ここにいるのは、そういうのもいないから、年少組についてはスルーだ。リジェネだけは、コートを着せていたが、動いて暑かったのかジャージ姿になっている。
どうせ、ああだこうだと言うので、悟空が担いで引き取ろうと思っていたら、坊主が回廊を上がってきた。そして、周辺を見回して、「協力感謝する。」 と、軽く頭を下げると女房の手を取って引き返す。え? とか、あの、とか言っているが、亭主のほうが強引だから、そのまま引き摺られて家のほうへ消えた。
それを見送って、周辺から笑い声だ。ラブラブ夫夫だと聞いているが、本当に立証されちゃったからだ。
「リジェネ、おまえ、どこで食う? 家に行くなら、ねーさんと三蔵さんの弁当も持って行け。」
「いや、俺が運ぶ。リジェネが滑り落ちたら、回廊の掃除が大変だ。」
作品名:こらぼでほすと 年末風景2 作家名:篠義