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マスコット・ラン

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3 千反田サイド


 連絡廊下を渡り、一般棟の二年生の教室が並ぶ階へ。勢いで来ちゃいましたけど、時間は放課後。入須さんはまだいるでしょうか?私、心配です。
「ちーちゃん、入須先輩のクラスは?」
「2-Fです。まだ居てくれればいいのですが……」
 通り過ぎる人たちが人形を抱きかかえる私を物珍しそうに見ています。考えてみればぬいぐるみを抱きかかえ、上級生の階にいる下級生は確かに奇異な存在でしょう。ちょっぴり恥ずかしくて、顔が熱くなっちゃいました。
「あ、古典部の部長さんじゃない!えと?千反田さんだっけ?ちゃお!」
明るい声で呼ばれたので、恥ずかしくて俯いていた顔を上げます。
「こんにちは。沢木口さん」
「こんにちは。沢木口先輩」
 声を掛けてきてくださったのは沢木口先輩。以前、文化祭に出展する2-Fのクラス映画の件で顔を合わせたらしいのですが、どうしてでしょう?私、途中から良く覚えていません。
 自分のおぼろげな記憶。それを確かめるというのもとても気にはなるのですが、今は腕の中に収まっているこのぬいぐるみの件です。
知っている人が現れて、幾分か安心した私は思い切って切り出す事にしました。
「あの、沢木口先輩。入須さんはまだいますか?」
私が覚えているかぎり、沢木口先輩と入須さんは同じクラスですから。
「入須?ああ、ちょっと待っといて」
 沢木口さんは教室の中へ顔を覗かせ、少し大きめの声で呼びかけました。
「入須―。古典部の女の子が来てるよー」
 入れ替わるように出てきたのは入須さん。良かった、まだいらしたのですね。一安心です。……?いえいえ!まだ肝心なことを聞いていません。
「どうした千反田?それに伊原さんだったか?こんなところまで珍しいな」
「こんにちは。入須先輩」
 伊原さんは少し緊張しているようです。
 私は知らず、そっと深呼吸していました。
「あの、入須さん!」
「きゅ、急になんだ?それに千反田。近いぞ」
「あ、すみません」
 やってしまいました。折木さんにも良く注意されるのですが、無意識に顔を寄せてしまうのは私の悪い癖です。
「ではもう一度。入須さん。落としていませんか?」
「は?」
 キョトンとする入須さん。どうしてでしょう?顔を近づけ過ぎないように注意はしたのですが。
 摩耶花さんがそっと肩をつついてきました。
「ちょっと、ちーちゃん。『何を』が抜けてる」
「あ、そうでした。つい」
 途中説明を省いてしまうのも折木さんに注意されていたのでした。
「あの、落し物を拾いまして。このカエルのぬいぐるみの持ち主を探しているんですが」
 ようやく納得したのか、入須さん軽く息をこぼします。
「やれやれ、そそっかしいな。千反田らしいとも言えるが。それでどんなものだ?」
「これなんですが」
 私はカエルさんを差し出します。
「これは。見覚えがあるな。確か、手芸部の物だったか?」
「はい。そうなのですが。さっきこれを拾って、その持ち主を探しているところなんです」
「なるほど。だから私のところまで来た、と」
「ええ」
 入須さんはぬいぐるみを良く調べ始めました。まず、ぬいぐるみをひっくり返したあとマントをめくって背中の縫い目を観察したり、手の平で押して綿の感触を確かめたり。
「残念だが私の物ではないな。そもそも私が買ったぬいぐるみは家に置いてあるし、それにこのぬいぐるみとははっきり言って別物だ。なんというか……」
「何というか?」
「私が買った物はもっと技術が拙かった。縫い目の細やかさといい、綿の分量といい、こちらのぬいぐるみのほうが格段に技術は上だ。……おかしいな、並んでいる物の中で一番上等な物を選んだつもりだったが」
 最後の方の呟きは小さくて、良く聞き取れませんでした。
「そうですか」
 しかしここがハズレとなると、あとは折木さん達に期待するしかありませんね。折木さんは時折鋭い考えを披露してくださる方ですが、腰が重い方なので真面目にやってくれるか不安です。でもそこは福部さんに任せましょう。
「おや、ここ内綿がはみ出しているな。私が縫ってあげようか?」
「それは私も気にはなってはいるのですが。でも持ち主が誰かわからない以上、手を加えるのは控えているんです」
「そうか……。それもそうだな」
一瞬、入須さんは寂しそうに目を伏せた、そんな気がします。
「では、持ち主がすぐに見つかることを祈っているよ。まあ、折木君がいるから心配はいらないと思うが。ではな。千反田」
 そう言い残して入須さんは教室の中へと戻っていきました。

「ね。ね。ちーちゃん。入須先輩にあんな一面があるんだね。意外だったな。目がぬいぐるみに釘付けだったよ」
 地学準備室に戻る途中、摩耶花さんがそんなことを言いました。
「そうだったんですか?」
「うん、本当。本当」
 思い出そうと唇に指を当てて考えてみましたけど、やっぱりこのぬいぐるみの持ち主のことばかり考えていたのでうまく覚えていません。まあ、でも……
「入須さんは元々可愛らしい方ですよ」

     
作品名:マスコット・ラン 作家名:cafca