とある2人の無能力者4話
ここは様々なブランドの衣類を取り扱っていてでさらには厳選されたコーヒー豆を扱う喫茶店も数か所に点在し、主に女性客で溢れる地下街だった。
しかしそんな地下街も今はシンと静まり返っている。単に時間帯のせいではなく地下街そのものの改装工事の為だ。なのでもちろん店のスタッフも人一人いないという状態なのだが。
そんな静まり返った地下街の通路を全力で駆け抜ける人の姿があった。
数にして3人。
特に見当たった特徴はにが、しいて言えば3人の内の1人が持っている大きなアタッシュケース。
人一人ぐらいなら入りそうな程の大きなケースだがそんなものは入っていない。
「うまく・・・逃げきれたか・・・?」
「大丈夫だろ。他の奴らとは別の場所で合流ってことになってるしな」
「おい、そこ右だぞ」
的確にあらかじめ設定しておいた逃走用のルートを走り抜けていく3人。
では何故逃走なんかしているかというと。
学園都市上層部の機密情報を頂戴代してきたからだ。もちろん不正なほうで。
ちなみにアタッシュケースに入っているものはその機密情報を取り出すための機材だ。
情報を盗んだ彼らは複数のグループを作りそれぞれが別々の逃走用のルートで逃走した。
そしてさらに合流地点もいくつかに分け、誰が盗みだした情報を持っているかといった性格な情報を掴ませないためなどのことも作戦開始前から決めておいた。
案の定上手くいっている証に追っては途中で振りきれた。
「ここだな」
通路の奥には緑色の蛍光色に照らされている非常口が見える。
扉を開き3人は地上へと上がっていった。
外には誰もいなかった。
今までの蒸し暑さが心地よい風に拭われる。
「ここまで来ればもう大丈夫だな」
「何だか拍子ぬけするくらい簡単だったじゃないか」
「もう少しで集合地点なんだから集中しろよな」
油断は隙を生む。
災厄とは突然訪れるものなのだ。
「なぁまだ
その声は最後まで聞こえなかった。
ドゴン!!と。
突然、先程地下街から出る際に使用した非常階段へと続く通路が爆発した。
その爆発に続くように今度は大通りのアスファルトが裂ける。
金属が擦り切れるような音と共に裂け砕け散ったアスファルトが頭上に降ってくる。
「な、何だよ!?」
「分からねぇ・・・とにかく逃げろ!!」
そう叫ぶと3人は反転してダッシュする。
あの爆発が何なのか、気になることはあるが今はそれどころではない。
(集合地点まであと僅かだ。ここはどうにかして切り抜けー
危ない、という声の直後には激しい激痛と嗚咽感が襲ってきた。
思考が停止する。
体が動かない。
目の端には炎に包まれた乗用車が映る。
何が起きたのか理解できない。
ついさっきまで仲間と共に全力疾走していたのだ。
右足の関節部に走る痛みに耐えながらも何とか立ち上がった彼は仲間の無事を確認しようとして、
「随分と逃げてくれたじゃねぇかよ」
聞いた。
声のした方向を見る。
視線の先にはオレンジ色の炎が揺らめいている。
人が立っていられるような状況ではない。
「誰だ!?」
ありえないと分かっていても確かめられずにはいられない。
足が動かないのも痛みとかそんなものではなく本能が逃げられないと訴えているからだ。
「ちょいと派手にやり過ぎたか?騒ぎになるのも時間の問題だな」
また聞こえた。
声は確かに目の前の炎…
「え?う…いてる?」
もう一度炎の先に視線を向けた時だった。
彼の目に映っていたもの。
それは、
「悪いな。足止めのつもりだったんだけどな、ついうっかり加減を間違えた」
宙に浮く一人の少年だった。見た目は高校生くらい。それ以外に何の特徴もない…はずなのに。何故か、彼は自分の知らない世界から来たかのような異様な雰囲気を纏っていた。例えて言うならブラックホールのようなどこまでもどす黒い感じ。どこまでも純粋に黒を目の前にして彼は何も言えなくなっていた。仲間がどうなったとかそんなことは既に頭から離れていた。
目の前にいる少年は普通ではない。
彼から見る少年は人間の皮をかぶった化け物同然だった。
結論から言うと。
彼に待っているのは限りなく続く絶望…ただそれだけだった。
この日、夜空に輝いていた月は彼らに降り注いだ絶望に対して哀れみを表していたのか。それともこの場に君臨した絶対的存在に敬意を表していたのか。
どちらにせよ、いつになくくっきりと、はっきりとした満月だった。
「これは陰謀です!」
ここは比較的学生の利用客の多いファミリーレストランだ。
もちろん学園都市の総人口の約8割近くは学生が占めているわけで、
当然どこの店も利用客のほとんどは学生なのだが中でもこのファミリーレストランは、
という意味で比較的学生の利用客が多いファミリーレストラン・・・である。
「いや〜、油断してましたよ。あんな単純なことに気づかなかったなんて」
時刻は2時過ぎ。
休日のせいかいつも以上に賑わっている店内は夏の暑さを忘れさせるほどにクーラーが効いていた。
この時期は店内だけでなく公園や高架下ベンチなども色々な人のたまり場となるわけで、
3択中で一番ガールズトークをする場として適切だったのがこのファミリーレストランだった。
他の人たちも同じ考えなのか先程から辺りには女性客ばかり・・・いや、しかいない。
「これは決定的証拠ですよ。確実に犯人に近づいています」
そんなファミレス店内。
いつもの窓際のテーブル席で。
「いいですか・・・もう一度言いますよ」
御坂美琴、白井黒子、初春飾、3人の顔をじーっと見据えて、
「これは・・・陰謀です!!」
佐天涙子が陰謀説を語っていた。
「・・・・・・・」
短い沈黙の末、白井が口を開いた。
「あの、佐天さん。お話というのはそれだけでして?」
「それだけ、じゃないですよ!これは学園都市に潜む悪魔に関する超有力な情報なんですよ!?」
今にも立ち上がりそうな勢いの佐天に、白井はんーっと唸り、
「まぁ調査に協力したいという意気込みは分かりますけど・・・陰謀というのは少々・・・」
(まぁ、だいたい予想通りかな?)
ここにこうして集まるのもだいぶ回数を重ねたが、
こういった話にのってくれたことは少ない。
確かに内容が多少ありえない方向に飛んでいるものはあったがそれでも大半がかるく流されるのが当たり前だった。佐天自身も思うところがあったりする。
だが、
「そう言うと思ってました。・・・でも、今回は違いますよ?」
「違う?」
「はい、ちゃんとした根拠もあります」
「そうなの・・・その話詳しく聞かせてくれる?」
珍しくもその話に食いついてきたのは御坂だった。
ただ今の御坂の心境を考えれば分かることなのかもしれない。
「え〜と、それでですね」
佐天は気をとりなおすと携帯の画面に例のサイトを表示させる。
作品名:とある2人の無能力者4話 作家名:ユウト