サプリメント
じっとサガは私を見つめた。怒っているのか、悲しんでいるのか、よくわからないけれども、ひどく切羽詰ったような瞳で見つめられて、気圧されるものがあった。
「なにか……ちょ、何を、おい!?こら、わ、わっわーーー!!」
ぐいとひっぱられ、そのままサガに抱えられようにしてベッドの端に座ったサガの膝上に俯せに乗せられた。
よく、子供が悪さをして親に尻を叩かれる時のポーズといえばわかりやすいだろう。そんな恰好にさせられて、首根っこは押さえられたまま、サガが私の背中を何かでなぞっていた。
冷たさとくすぐったさで、喚き倒すが中々解放されず、ようやく解放されてからサガの手にしていたものを見て私は愕然とした。サガが手にしていたものはいわゆるマジック。 だが、それは水性などという可愛らしいものではないし、まして油性でもない。私が時々使用することがあった、極めて特殊な塗料が使われているもので、少々のことでは消えない代物だった。
「一体なにを……!?」
ぐるりと背中を覗こうとするが、場所が場所だけに見えない。慌てて洗面の鏡に向かって自分の背中を確認して思わず蒼褪め、「うわああああーーーーー!!!?」と絶叫した。
私の背中には―――目を疑うような文字の羅列が書いてあった。
「―――ええい!そこへ、なおれサガっ!その腐れ頭に風穴開けてやる!!」
「ええと……たぶん、風通しはいいから遠慮しておこう」
のほほんと両手を挙げて降参のポーズを今更ながらとるサガであるが、まったく反省の色はその顔からは伺えない。
「―――っ、信じられないことをするな、君は!?」
ぐったりとその場に座り込む。なんだかもう怒るのにも疲れた。
「昔からよく褒められたよ。サガは人を驚かすことが上手だねって」
「褒めてない、褒めてない……ああ、なんてことを……まったく」
今更ながら、首に巻いていたタオルでごしごしと擦ってみるが当然そんなことで消えはしない。腕の傷の痛みもぶっ飛んで、ただもう頭を抱え込んだ。
「それは約束。誓いだとでも思ってくれ。そうだな、せっかくだから、既成事実……うん。今日はやめておこう。それはまた今度にしよう」
ぎろりと本気の殺意込みで睨み付けると、ようやくサガは「悪かった」と謝ったのだった。
「シャカ」
「なにかね」
「……おまえは自由だ」
サガの優しすぎる眼差しと染み入るような声音。彼なりのいたわりだったのだろうか。少し気恥ずかしくなって、サガの視線から逃れるように背を向け、仕事道具のパソコンを取り出した。
「―――休まないのか?」
遠慮がちにかけられたサガの言葉に淡々と「ああ。先に君は休みたまえ」と声をかける。サガは少し困ったように溜息を吐いたあと、諦めて彼がベッドに向かおうとした時、私は思い出したことをサガに尋ねた。
「そういえば。サガ、君と弟はよく似ていたのかね?」
「ん?……ああ、弟と?」
「ああ、弟だ」
「そうだな。よく似ていただろうな。なにせ私たちは……双子だったから」
「―――そうか、ね」
サガの答えを聞いて私は固く目を瞑った。
もしかしたら、もしかするかもしれない。だが、あの一瞬の出来事で確信するには無理があったし、下手にあのことを話せば、もう一度あの危険な場所にサガは行きたがるかもしれない。そう思うと不用心に話だせず、「それが、どうかしたのか」と尋ねるサガを有耶無耶に流すしかなかった。