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サプリメント

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「―――悪いが、一人にしてくれないか。サガは彼らと一緒に休んでいてくれたまえ」

 纏わりつくサガの視線。心配してのことだろうとは重々理解していたが、ひどく疲れていたので、相手をするのもしんどかった。私がひとり手間取っている間にも早々にサガたちは無事、逃げおおせていたらしい。

 彼らに遅れること10時間。
 執拗な追跡者たちを巻きながら、用意していたツテを辿って、ようやく拠点としていたホテルへと私も戻ることができたのだった。

 サガや同行者たちは遅れてきた私との無事の再会を喜び、連中なぞはさっさと酒盛りすら始める始末だったが、サガは安堵と同時に負傷していることに気付いた途端、顔を蒼褪めさせていた。

 サガの反応こそが通常の人々が示す本来の反応なのだろうが、なぜそんなに血相を変えるのだろうと、私は思ってしまった。ほんの掠り傷でしかない。実際、弾は逸れていたのだから。

 多少肉は抉られていたが、止血もできていたし、あとは傷を消毒して、鎮痛剤と抗生剤でも飲んで過ごせば、おのずと治る程度のもの。場所も左腕だから、一人で十分処置ができる。汚れを取ってあとはのんびりと痛みに毒づきながら、自分で行うつもりだった。

 だが、サガは蒼褪めながらも処置を手伝うのだと、頑として譲ろうとしなかった。危険な場所だと知りながら、それでも行くことを強行した責任があるのだと言って。いい加減面倒になった私が、結局折れる羽目になり、とにかく汚れを落とすため、シャワーを浴びに行った。

 きつく縛っていた布をほどき、醜い銃創を洗い流す。少し滲み出た血が排水溝に吸い込まれるのを眺め、痛みに僅かばかり私は顔を歪ませた。



「―――やっと、さっぱりできた」
「あぁ……上がったか。じゃあ、ここに座ってくれ」

 ぼんやりとベッドの端に腰掛け、窓の外の風景を眺めていたサガは立ち上がり、小さな丸椅子を指さし、座れと促した。テーブルにはあらかじめ準備していた処置セットが並べられていた。

「本当にいいのに。物好きだな」
「好き者だ」
「……もういい。わかった」

 宛がわれた椅子に座る。
 入浴後、上半身は処置がしやすいようにとシャツは着ないままにしていた。髪は濡れていたので、気持ちばかり首にタオルはかけていたけれども、十分、サガの目に肌を晒す結果となっていた。そんな私の姿を目にしたとき、サガは目を瞠り、絶句していた。

「……何か聞きたいことがあれば、答えるけれども?」

 同じような態度は何度か味わってきた。そのたびに説明するのは少々面倒であった。

「昔の……戦場での傷か?」

 サガのように恵まれた体型ではなく、薄っぺらで最低限必要な筋肉しかついていないような半身だ。どこらにでもある身体。だが、常人とは決定的に違うものがあった。
 異様さを醸し出すには十分なほど、そこかしこに醜いケロイドが形作られ、引き攣りあっていたのだ。

「むしろ、戦場での傷といったものは少ないな……暴力で繋がり合った仲間同士の私刑や虐待、拷問。平たく言えば、まぁ、そんなところだ。けれども、この一番ひどい火傷の痕は違うがね……」

 左半身に渡る広範囲の火傷の痕をそっと撫でる。硬直したままのサガに私は笑みを向けた。とても残酷な笑みだろうと自ら思いながら。

「この火傷は一体……?」

 恐る恐る、尋ねたサガに私は囁くように答える。
「自分で焼いたのだよ」と。サガはそれこそ言葉を失くしたように目を瞠っていた。

 なんて愚かなことをするのだといわんばかりだった。大概の者が見せる反応だ。でも次の説明で大方納得してくれた。憐れむばかりの表情を浮かべながらだが。
 サガもまたそうなのだろうか、と思いながら、吐き捨てるように告げた。

「―――私の所有者だという男の名が、この背肉に刻み付けられていたから。私は私を自由にするために焼いただけだ。さぁ、もういいだろう?私の話など、面白くもなんともないだろうし。さっさと処置を済ませて休もうではないかね」
「シャカ……」

 サガはそれから口を噤むと、丁寧に処置を施してくれた。いたわるような仕草にチクチクとした胸の痛みを覚えた。息の詰まるような時間がようやく過ぎた後、サガは処置で使い終わった物品を片付けるために荷物置き場へ向かったので、私は少しの間ぼんやりとしてから、シャツを着ようと手を伸ばした。あと少しでシャツをその手にしようとした時、サガに腕を掴まれたのだった。


作品名:サプリメント 作家名:千珠