サプリメント
比較的安全なところで準備を整えた後、私たちはいよいよ目的地へと進んだ。
石壁があちこち崩れ、砲弾のあとが生々しく残る旧市街地。今はゴーストタウンと化した場所。
金で雇った数人の同行者は緊張の糸を張り巡らせたまま、私たちを深部へと案内し、安全だと踏んだところで彼らから解放される。それでも互いに視界に入る範疇での距離を保ったまま、瓦礫同然の街を眺めるサガを街とともに私は早速、切り取り始めた。
色々な疑問があった。まず、第一になぜ私だったのか。私以上にこの場所に精通しているベテランはいたのだから。そして、なぜこの場所なのか。
決して安全ではない土地。長い間紛争が続き、とても荒んだ小さな国。いや、国というよりは「地帯」とでも表すべきところだ。
幾度か私自身も赴いたことがあったが、火種は燻り続け、時折は爆ぜていた。同じように取材に訪れた者が決して少なくはない数で命を落とした場所である。
そして、この旧市街は最も悲惨な過去を持っていた。そのことをサガは知っているのだろうかと疑問をぶつけようと思った。
「―――ここはとても美しい場所だった」
ぽつりと呟いたサガの言葉とシャッター音が重なった。
「あそこには色取り取りの花が咲いていた。甘い実がなる木もあって、弟が木によじ登って、よく怒られていたよ」
「―――ここは…君の……」
「ああ、故郷だ。不思議なものだ。今の今まで忘れていたことが、こんなに鮮明に思い出すことができるなんて」
ふわりと風のようにサガは笑ってみせたあと、塔から飛び立った鳩らしき鳥を目で追いながら、遠くを見つめていた。
「身ぐるみ、剥ぐのだろう?さぁ始めようか、シャカ」
「かまわないのかね?容赦しないが」
「そのためにわざわざここまで来た。だからこそ、シャカ、君を選んだ。容赦なく、非情でありながら…慈悲深い君の文章と写し取られた風景。私は恋をするように惹かれたよ」
「ずいぶんな世辞だな。百戦錬磨の役者の殺し文句というところか」
「本心さ」
息が思わず止まるほどの鮮やかな笑みがファインダーを突き抜けて私を射抜いた。気取られぬように…ただその一心でシャッター音を続けながら、話しかける。
「なぜ、君は今になってここを訪れる気になったのかね。数年前のほうが今よりも治安が落ち着いていたはずだ。その頃に訪れることだってできたはずだが」
「そうだな。幾度か来ようとは思った。が、役者稼業が忙しかったし、何より面白かったのでね」
「……私が訊きたいのはそんな当たり障りない答えではないのだが?」
「はは。早速、グサリ、だな……正直、怖かったのだろう。向き合うには恐ろし過ぎた。知っているか、シャカ。ここで何が起こったのか。いや、何が行われたのか」
恐ろしいほど冷えた眼差し。周囲の風景から色が抜け落ちたような錯覚に陥るほどのものだった。
知っている――そう告げようとしたが、あくまでも後にもたらされた人伝の情報でしかなかった。サガは身を持って体験したのだとはっきりと確信した時、指先は痺れを伴って震えた。