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サプリメント

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 つらつらと今日、記憶に残ったことをそのままに、一瞬一瞬の風景と吐露されたサガの言葉、そして私自身の感情を織り交ぜながら、文章をキーボードへと叩き込んできた。
不安定ながらもここでは電力が供給されていたので、パソコンが使えることは非常にありがたかった。
場所によってはまったく利用できないこともあるので、アナログな方法もよく取るが、効率の良さからいっても、使えるものは使うのが私のモットーである。

 あらかた打ち終えた時点で、ふと表示されていた時間を見れば、夜更けを過ぎていた。ちらりとベッドへ視線を向けると、ほとんど身じろぎをすることもなく、サガはこちらに背を向けるようにして眠りについていた。

 できるならば、彼には別室を用意してやりたかったが、滞在費はなるべく安く済ませたかったし、拠点とするホテルの安全性は考慮したけれども、「絶対」の保証はなかった。考えた末、少しでもリスクを減らす上で私と同室とした。
 何よりも優先すべきはサガの安全だと城戸沙織からも念押しされていたこともある。

「まるでボディーガードだな」

 有名な歌のフレーズが鼻について出ながら、一瞬、自分よりも体格の良いこの男をお姫様抱っこする姿を想像して、少々……いや、かなり無理があるなと唸ったところで、打ち込み終えたパソコンの電源を落とした。飲みかけの水を呷るように飲み干し、小さく灯していた室内灯を消す。
 わずかにカーテンの隙間から毀れる街明かりだけで、空いている自分のベッドへと向かおうとした時だった。

「うぅ……」

 苦しげに絞り出された呻き。手に持ったシーツを戻して、サガのベッドの方に向かい、顔を覗き込んだ。滲み出るような苦悶の表情。サガとの共同生活を始めてまだ日は浅かったが、こんな風にうなされるようなことは今までなかったことだ。
 恐怖の記憶の扉が開かれたのか。
 サガにとってこの旅は苦痛を伴うものとなっているのだろう。少しばかり遣り切れない気持ちが過ったが、どうしてやることも出来はしない。私はただ、サガの望み通りに同じ時間と場所を共有し、彼の言葉を書き留めるだけだとサガの肩をそっと撫でるに留まった。



「これを念のために渡しておく。扱い方はわかるかね?」
「……一応、お浚いしておこうか。うまく使えるかは自信がないがな」

 うっすらと口元に笑みを浮かべてはいるが、さすがのサガも緊張しているのが感じて取れた。

「うまく扱う必要などない。いざとなれば相手に放り投げてでも逃げればいい」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
「冗談はさておき」
「冗談だったのか?」
「……さておき。今日、足を踏み入れるところは出来るならば外したかったところだ。今も日常的に弾が飛び交う場所なのだからな。やはり、どうしても、行かなければならないのかね?サガ」

 ゆっくりと手元にある短銃の操作をサガに披露して渡すと、サガは同じ動作を寸分違わず繰り返したあと、どこにその物騒なものを仕舞っておこうかと一瞬悩んでみせた。
 私が背面の腰を指し示すと小さく頷き、一応収めてはみるが、違和感があるのだろう。少し眉をひそめていた。

「行きたくはないが、行かなければならない場所だ。そこで私は養父と出会えたのだ。と、同時に本当の家族と生き別れた場所でもあるからな」
「そうか。わかった。もう、私がとやかく言ったりはしない。でもサガ、もし不都合が生じた場合……皆がバラバラになったとしても、話し合った通り、とにかく手筈通りここまで逃げ帰るように」
「了解。重々承知している。待ったり、庇ったり、ましてや応戦したりしないように、だな?ここに戻って一日経っても誰も戻ってこなければ一人で帰国しろ、と」
「ああ」

 サガは何か言いたげにじっと私を見たが、それ以上私は答えることもせず、商売道具のカメラに手を伸ばし、「じゃあ行こうか」と促した。


作品名:サプリメント 作家名:千珠