Wizard//Magica Wish −7−
夜の住宅外。俺たちは並列して魔女か使い魔がいないか見回る。色々な家から家族が団欒する声や時には夫婦喧嘩が聞こえてくる。さやかちゃんは俺から少し離れながら歩いていた。
「あんまり近づくな、彼氏と間違えられたら困るでしょ」
「はいはいっと」
メデューサが消滅し、幻影魔女−ファントム−が生まれなくなったとはいえ、まだこの世界にはたくさんの魔女達が存在するのだ。むしろ自分たちの女王が消えたのであれば、なおさら油断は出来ない。主を失った魔女達は今まで以上に闇雲に暴れまわるだろう。
あと、俺には一つだけ気がかりな事があった。
魔女の正体の件だ。
あの時は状況とはいえ、皆もそれほど飲み込めていなかっただろう。特に、まどかちゃんや さやかちゃんにはあまりにも衝撃的な事実だったはずだ。自分たちも、ソウルジェムの穢れが溜まりきったら、あの恐ろしい姿になってしまうのだから。
俺はあまり気乗りはしなかったが、さやかちゃんに聞いてみることにした。
「ねぇさやかちゃん」
「なによ」
「あの事実…魔女の正体って、聞いてたよね?」
「………。」
思ったとおり、黙り込んでしまった。けど、いつかはこの子たちも受け入れなければならない真実だ。自分たちが…願いを、希望を代価にインキュベーターに騙されていた…という事を。
「正直、今でも信じられないわよ…けど、だからって、このまま魔女達を野放しにすることなんて、できないよ。私たちはこの街に住む人達の暮らしを守る魔法少女。たとえ、魔女の正体が自分たちと同じ魔法少女だとしても、私たちはそれと戦う義務がある。私たちが魔女を倒さないと…皆、不幸になっちゃうんだ」
「さやかちゃん…」
彼女には彼女なりの考えはあったみたいだ。
いつの間にか、さやかちゃんはたくましく成長していたらしい。あのマミちゃんの件以来、よく考えて行動しているのだろうか。自分たちが何のために戦うのか。何をすべきか。けど、それじゃあ魔法少女は一生『他人のために』戦わなくてはいけないのだろうか。違う。彼女達…いや、さやかちゃんだって、他人のためだけじゃなく、自分のためにこの後の人生を生きていかなければいけない義務だってあるはずだ。
その義務をたたき出し、導くのが、俺の役目だ。
「でもさ、それじゃあ さやかちゃんは一生報われないよ?もっとさ、自分の為に行動してみたら?ほら、例えば、さっきはタイプじゃないって言ってた子と付き合ってみるとかさ」
「はぁ!?な、何言ってるのよ!」
「さやかちゃんはね、少し周りに気を配り過ぎなんだよ。さっきの話し聞いてる限りじゃ自分の事は後回し、常に他人のためって…それじゃあ自分が潰れちゃうよ」
「だからって…本当にあの子は私のタイプじゃ…」
「それじゃあ、さやかちゃんの初恋の人にもう一度告白してみたら?」
「だから!…もうあいつには仁美が……て、ちょっと待ちなさいよ
なんであんたがその事知ってるのよ」
「あ、やべ…」
俺はその後、近くにあった公園のベンチへと連行され、無理やり座らせられ首元に剣を突きつけられていた。誰に教えてもらったのか、どこまで知っているのか…等、激しく追求されたが、さすがに まどかちゃんに悪いと感じ、黙秘を続けた。
「ごめん、本当に…そこまでしか知らないんだって」
「…そう、なら良いわ」
「っ…!!」
ふと、俺の目線に自分の髪の毛が数本落ち、自分の膝下に無残に散った。やばい…今のさやかちゃんは本気だ。
「もし、このまま黙ってるんだったら、少しずつあんたの髪をそげ落としていくわ」
「っ!!!!…まどかちゃんから教えてもらった!!あと、本当に告白できなかったってとこまでしか教えてもらってないって!!」
ごめん、まどかちゃん。ちなみにこの心変わりまで約10秒。あぁ…自分でも決断力が薄いってことが身にしみるよ。
「はぁ…もう良いよ」
「さやかちゃん?」
「まどかね…明日、げんこつ10発の刑に決定!…と」
さやかちゃんは軽いため息をし、俺の横に腰を掛けた。そこからちょっとの間、お互い無言だったけど、何かを決心した さやかちゃんが口を開き、俺に話し始めた。
「私が魔法少女になったときに臨んだ願い…まだ話してなかったわよね」
「…うん」
私の願いは、「ある人の身体を治す事」
ふと、私の目の前にキュウベぇが現れたのは、丁度まどか が契約した後のことだった。私は…ほら、こんな性格だから、なんでも一つだけ願いを叶えてもらえる、という特権に酷く興奮して、金持ちになりたいとか、モテまくりたい…とか、今考えると馬鹿馬鹿しい事だらけ考えていた。けど、どれも本心から望んだものじゃなかった。
そんな時、私に転機が訪れた。
−さやかは、僕を虐めているのかい?−
何、どうしたの?
−僕の手は、もう一生動かないんだ!!もう、僕に、希望は…っ!!−
そんなことない!
奇跡も…魔法も…あるんだよ?
私は、願いと契約の対価の重みも知らないまま、自分の欲望を全部捨て、他人の為に契約をしてしまった。最初は別に何の悔いもなかった。けど、この決断は後に、私の絶望へと陥れてる序章へと繋がっていった…。
「どうしたのさ仁美!そんなにかしこまっちゃって…」
−率直に言います…私、彼の事が好きです−
「えっ…仁…美?」
彼の身体を直した理由…何故、自分を押し切ってまで契約したのか、気づくのが遅すぎた。私は、彼の事が好きだった。けど、気付いたときにはもう遅かった。
−私は、今から告白にいきます。…けど、幼馴染であるあなたには、先を越す権利があります−
「な、何いって…訳わかんないよ…ははっ…」
−あなたは、彼に対して何も感じていないのですか!?本当は、あなたも彼のことが好きなのではないですか!?答えてください、美樹さん!−
「……っ…!!」
突然すぎる親友の決断。
そして、気づくのが遅すぎた私の鈍感さ。
混乱する私の頭の中で、
一つの…最悪の選択肢が浮かんでいた。
「そ、そんなわけないじゃない!あいつと私はただの幼馴染!!それ以上の関係だなんて…想像もしたことすらないわ!!」
私は、本心とは真逆な言葉を放った。
私は、逃げたんだ…。
その後、二人はめでたく付き合うことになった。彼の身体の状態も良くなり、彼女達にハッピーエンドが訪れた。
けど、こんなの、私が望んだ結末じゃない。
一体何故、…こんなことになってしまったのだろうか…。
他人の為に願った結果がどうして絶望へと繋がっていったのだろうか。
全ては、最初から崩れていたんだ…。
「…そんでもって、絶望しきった さやかちゃんは開き直ることに決め、今では二人を応援する立ち位置になったとさ!めでたしめでたし!」
「さやかちゃん…」
「わかった?これが今まであんたに話さなかった理由…、あたしってほんとバカよね?他人の為に一度だけの願いを使っちゃうなんて…ははっ」
作品名:Wizard//Magica Wish −7− 作家名:a-o-w