be my baby
PM11:00
買ってきたケーキを食べ、一緒にシャワーを浴びた。
音也はずっと、トキヤがいない間に何をして何を食べたかということを話していて、トキヤはそれを聞いてやった。
仕掛け絵本から恐竜が飛び出してきて怖かったこと、昼食のカレーのにんじんが星型だったこと、夕飯は真斗とハンバーグを一緒に作ったこと。トキヤがいなくて、どれだけ寂しかったかということ。
雨が降ってきた時はね、死にたくなったんだよ。
そんなことを真顔で言うので、死ぬという意味が分かっているのかと思い笑うと、頬を膨らませて拗ねた。
体を洗いながら、音也は真斗と一緒に練習したんだよ、と言って、トキヤにきらきら星を歌って聞かせた。拙さはあるが、子供らしい澄んだ歌声が浴室に響く。上手いですねと褒めると、音也は嬉しそうに笑って、トキヤも一緒に歌ってとねだった。湯冷めをしてしまうからまた明日にしましょう、と言ってシャワーを止め、浴室を出た。
音也が着ていた服は汚れていたので洗濯機に入れて、朝に仕上がるようにタイマーをセットしておいた。脱衣場に置いてあった音也のTシャツを着せると子供には大きく足まですっぽりと覆ってしまったが、裸で寝かせるわけにはいかないのでそれで我慢してもらうことにする。
着ているものしか小さくならなかったんだな…。もしこの状況が続くようであれば子供服も買ってやらないといけない。
そんなことを考えながら音也の髪をドライヤーで乾かしてやる。その途中で音也が首をこくりこくりとさせ始めたので、起こして歯磨きをさせた。その間に自分も髪を乾かしてしまい、音也をベッドに連れていく。
時計は夜の十一時を差している。子供が起きているには遅い時間だ。
ベッドに音也を寝かせ、その隣に犬のぬいぐるみを入れて掛け布団を肩まで持ち上げた。音也はぬいぐるみに抱きついてもじもじとしていたが、トキヤが照明を消そうとすると、布団から出てきてトキヤの袖をそっと掴んで引いた。
「どうしました?トイレですか?」
「…トキヤと一緒に寝る」
「音也、もう子供じゃ…」
子供じゃないのだから、といつも音也を叱っている言葉を使いそうになって、戸惑う。
目の前の音也はまだ子供なのだ。いつもの音也ではない。一人で寝るのが怖いと思っても仕方の無い年なのだった。
溜息を吐いて、小さな手を握った。部屋の照明を消して、自分のベッドに音也を寝かせる。椅子から枕を持ってくるのを忘れたと気付いたのは横になってからだった。仕方なく音也の方へ腕を差し出すと、音也はトキヤの腕に頭を乗せて丸まった。
身体を抱き寄せるようにして引き寄せ、髪に口付ける。
「おやすみなさい、音也」
「おやすみなさい、トキヤ。大好きだよ」
そう言って顔を上げた音也の唇が、トキヤの唇に押し付けられる。驚いて見れば、カーテンの隙間から差し込む仄かな光の中で音也が笑っていた。悪戯が成功したというような顔に呆れて、溜息を吐く。
「…そういうことは大きくなってからしなさい」
叱ると、音也は少し寂しそうな顔をした。
「じゃあ、うんと早く大きくなるね」
そう言って音也はトキヤの首筋へ鼻を押し付けるようにして顔を埋め、目を閉じた。トキヤはそっと、音也の柔らかな髪を撫でた。
「そうですね…早く大きくなってください…」
そうでなければ、私はあなたにキスをすることさえ、出来ないのですから。
作品名:be my baby 作家名:aocrot