黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 4
店主はコインを差し出した。入れている袋がはちきれそうである。
イワンがかなりはしゃいでいたため、代わりにメアリィが受け取った。
「さあて、運のいいお客さんにも会ったし、頃合いだ、そろそろ店仕舞いしてコロッセオに行くか」
店主は店を畳む準備を始めた。
「あの、コロッセオとはどのような大会なのですか?」
メアリィは訊ねた。すると店主は変わったものを見るような表情で話した。
「あんたまさか、コロッセオを知らないのかい?」
メアリィはためらいなく頷いた。
「あんたもうちょっとでトレビまで来て損するところだったぜ」
「すみません、トレビには初めて来たもので」
「そうだったのか、なら教えといてやるよ」
アンガラ大陸一栄えたトレビ町で年に一度開催される祭典、コロッセオ。その歴史は数百年にも及ぶという。
アンガラ大陸中の腕利きの戦士達の集まる大きな格技大会である。
毎年千人近い参加者がいるという。しかし、ファイナルに参加できる人数はたったの七人であり、残る戦士達は厳しいトライアルで脱落していく者がほとんどである。
ファイナルでは知力、体力、技術すべてを兼ね備えた者だけが勝ち上がれ、優勝すれば多大なる名誉に賞品、大陸一の称号を得ることができるのである。
大昔には剣闘士達が命を懸けて闘っていた場所であるが、いつの時代からか、命を懸けるのではなく、腕を競うための場所になったのだという。
「ま、そんなわけでもうすぐトライアルが始まるのよ。その参加している戦士達から誰が優勝するか予測して、トトカルチョ、毎年やってるが、ホントこれだけは止めらんないぜ!」
店主は店を完全に畳み終えた。
「じゃ、あんたらもせっかくトレビに来たんだからコロッセオを見に行きな。見なきゃ損だぜ?」
そう言い残して人混みに潜り込んで行った。
「リョウカ、勝ち残れるでしょうか?」
イワンは言った。
厳しいトライアルがあると聞いて、女性である彼女が果たして立ち向かえるか、イワンは心配になった。
「大丈夫ですよイワン。リョウカならきっとファイナルまで行けますよ」
メアリィは信じて疑わなかった。
どれほど厳しい困難があっても彼女にはエナジーがある。それが確信へと繋がっていた。
「あ、いたいた。お?い、イワン、メアリィ」
人混みの中から聞き慣れた声がイワン達を呼んだ。
ロビンの声である。イワン達の姿を見つけると歩み寄った。
「やっと見つけた。どう、宿は見つかった?」
イワンはすまなそうにした。
「すみません、探してないんです」
「探してないだって?そりゃどういう事だよ、遊んでたのか?」
お前が言えたことか、とロビンはジェラルドを軽く小突いた。
「リョウカが言っていたんです。この人の数じゃあ宿は見つからないだろうって」
「ふ?ん、やっぱりそうか…」
ロビン達もイワン達を探しながらそれとなく宿屋も探してみた。しかし、どこも満室でベッドで寝られない客まで出ているほどであった。
「もしかしたらそっちは見つけてくれたのかと思ったんだけど」
予想は外れていた。ロビン達はすっかり困り果てていた。
「そういや、リョウカがいないな。あいつどこ行ったんだ?」
ジェラルドは訊ねた。
「さっきコロッセオに参加すると言ってウラヌスさん達と一緒に行きましたわ」
メアリィの言葉にジェラルドは血相を変えた。
「なんだって!?あいつらこのオレを差し置いてコロッセオに行っただと、ちきしょう、オレも参加したかった!」
「お前が出た所ですぐに負けるだろ」
ロビンはあっさりと言い放った。
「すまぬが…」
ロビン達は声をかけられた。振り向くと、なんとも立派な格好をした戦士が二人いた。
見るからに重そうな頑強な作りの鎧を身に纏い、頭には気品ある光沢を放つエンブレムを擁した兜を被っていた。
二人とも全く同じ格好でどこにも違いが見られない。顔さえも当然所々違うものの、屈強さは同じだった。
「お主ら、このようなお方を見なかったか?」
戦士の一人が何やら紙を見せてきた、それには人の顔が描かれていた。
肖像画らしい、絵の中の顔は厳格ながらも優しい表情をした、前髪を全て後ろに上げて顎に髭を生やしていた。
ロビンは仲間達の顔を順々に見渡した。皆それぞれ知らないという態度を示した。
「すみません、そのような人は…」
ロビンが答えた。
「そうであるか、邪魔をした」
戦士は絵をしまった。
「あの、絵のお方は誰なのですか?」
メアリィは訊ねた。
「このお方は、トレビの町の支配者、バビ様だ」
戦士によるとその支配者が昨晩より姿が見えないとの事である。市中を手分けして探しているが、どうしても見つけられないでいる。
「これまでも何度かバビ様はこつ然といなくなる事はあったのだが、二日もいないなどということは今までにないのだ」
戦士達は心から心配した様子だった。よほど徳のある人物なのであろう。
「ともかく他を当たることにしよう。時にお主ら、その装い、旅の戦士であろう?」
「はい、そうですが」
ロビンは答えた。
「では今日は宿がなくて困っておろう、バビ様の宮殿に参られるがよい。お主らが寝られるほどのベッドは空いているはずだ」
思わぬところで寝床を確保することができた。
「いいんですか?」
「バビ様は寛大だ。旅の戦士ならば泊めよ、との事だ。遠慮する必要はない」
ロビン達は喜色を浮かべた。しかし、やはりただで泊めてもらうのは少々悪い気がした。バビの言う旅の戦士というのは恐らくコロッセオに出場するのが目的の者達である。故にコロッセオに参加しないロビン達が泊まるのは筋違いのような気がしてならなかった。
そこでロビンは提案した。
「あの、よかったら僕達もバビ様探しに協力しましょうか?」
戦士は驚いた。
「よいのか?」
「はい」
「お、おいロビン!」
ジェラルドは食い下がった。
「本気で手伝う気かよ、そんな知らないおっさんのために!?」
「なに言ってるんだ、困った人を助けるのは当然だし、ただで泊めてもらうのは悪いだろう?」
「そうは言っても…」
ジェラルドはふとメアリィ達を見た。
「私達もロビンには賛成ですわ」
イワンも同様に頷いた。
ジェラルドは一瞬露骨に嫌な顔を見せたが、諦めて従うことにした。
「オーケー、オーケー、困った人助ける、だろ?ちきしょう…」
「意見はまとまりました。それで、最後にバビ様の姿を見た場所というのはないですか?」
イワンは訊ねた。
「町人の話だが、昨日昼過ぎにバビ様が北のアルタミラの洞窟に向かっていくのを見たそうなのだ。アルタミラ洞窟は魔物の巣窟、その町人は危ないと思い、我らトレビの戦士に知らせたそうだ。仲間の戦士は洞窟の手前でバビ様に追いついたのだが、バビ様は洞窟に入ると同時に姿を完全に消してしまったのだ。以来捜索しているが発見には至っていない」
アルタミラの洞窟が怪しいと誰もが思っていた。しかし、コロッセオの激戦を勝ち抜いて選ばれたトレビの戦士達でさえ見つけられずにいる。
ロビン達で見つけられるか、分からなかったが、彼らは洞窟へ行くことにした。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 4 作家名:綾田宗



