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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 4

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 それからしばらくの間ジャスミンによる猛攻撃は続いた。攻撃も終わり、ようやく誤解が解けた頃にはシンは砂まみれになることとなった。 血を洗い流したばかりだというのに再び面倒な洗髪をするはめになり、いつもは全てを優しく包み込むシンもさすがに不機嫌な様子だった。
 やっとのことで砂を全て洗い流す頃には洗っておいた服も乾いていた。
「シン、さっきはごめんね」
 服を着ているシンに、ジャスミンは謝った。
「もういいよ。オレも悪かったな」
 素直に謝られてはいつまでも怒っているのも忍びなかったので、シンは笑って許すことにした。
「ところで、香水貸してくれないか?シーアン村て買ってたやつ」
「いいけど、そんなに洗ったのにまだ臭うの?」
 ジャスミンは服のポケットから香水を取り出し、渡した。
「魔物の血を浴びちまったからな、本当に臭いがとれなくて参ったよ。ん、これどのくらいつければいいんだ?」
 シンは香水の瓶の蓋を開けた。
「手に2、3滴取って、それを髪全体に付ければいいわ」
 シンは言われたとおりに手に取った。たかだか3滴だというのになかなかに香りが鋭い。単純な石鹸の香りであったが、付けすぎれば逆に匂いにやられてしまいそうだった。
 シンは髪を洗うときのようにこするように香水を付けた。
「ダメよ、そんなに乱暴にしちゃ。ちょっと来て、私が付けてあげる」
「ん、ああ」
 シンは言うとおりにジャスミンに近づき、背を向けた。
「うわ、何これ?すごいにおい…」
 シンが近づいた途端に悪臭がふわっと広がった。
「だから困ってたんだろう」
 シンは口を尖らせる。
「ごめん、ごめん、じゃあ付けるね」
 ジャスミンは香水を手に取り、掌に広げるとシンの髪に付けた。力を込めるわけではなく、全体にまんべんなく付くようにした。
 香水の量も多すぎず、少なすぎずちょうどいい量で悪臭に香りを足すだけで更なる悪臭になるという事にはならず、血の臭いは消えて、香水の香しい石鹸の匂いがするようになった。
 シンは少し驚いていた。
「へえ、上手いもんだな」
「当然でしょ」
 ジャスミンは胸を張る。
「それにしても、シンの髪ってサラサラだね」
 ジャスミンはシンの髪を撫でた。
「そうか?」
 シンの真っ黒な髪は艶めいており、もう何日も洗っていなかったはずなのに傷みも見られない。
「そうよ。私なんか傷んじゃってて」
「ここまで真っ直ぐだと逆に邪魔なんだけどな…」
 シンは髪を髪留めで留めた。
「この髪は姉貴譲りでな」「え、シンにお姉さんがいたの?」
「ああ、オレによく似てるって言われるぜ?」
 シンは自らと似ていると言ってはばからない。
「そうなんだ」
「まあでも、オレにとってはただの姉貴じゃないんだ」
「え?」
 シンには両親がなかった。彼が産まれてすぐに死んだという訳ではなく、彼が6つの時に事故で父を失い、当時病気だった母親も父の後を追うようにして亡くなった。
 ようやく物心ついたところの幼いシンにとって、この両親の死は辛すぎるものだった。
 それから毎日両親の死を悼んで泣き続けるシンをそばで慰めてくれたのが彼と9つ歳の離れた姉だった。
 当時、シンの姉は15歳の少女であったが、シンのいる前ではいつでも笑みを絶やすことがなかった。
 決して弱音を吐くこともなく、ましてや涙を見せた事もなかった。 それからはシンにとって、姉の存在は姉としてではなく母親代わりにもなったのだった。
「こんなふうに姉貴はオレにとってはお袋みたいなもんなんだ」
「そうだったの…、あなたのパパとママはもう…」
「もう1人家族として過ごしてたやつがいるんだ」
「そうなの?誰?」
「前にも言ったよな?オレを止めるために村から追ってきたやつがいるって」
「うん、確かリョウカって」
「そいつ、実はオレの妹なんだ」「ええ!?」
「血は繋がってないんだけどな」
 リョウカは捨て子だった。
 シンもその頃は物心つかない子供だったので、実際に見たわけではないが、ある日の夕方に、イズモ村の入り口に赤子が捨てられていた。一糸まとわぬ姿で置き去りにされており、ほとんど死にかけていたという。
 その赤子はイズモ村の人間には有り得ない真っ赤な髪をしており、発見された時に赤子を照らしていた夕日と同じ色をしていた。
 たまりかねたシンの両親がその赤子を連れ帰り、懸命に看病した。泣くことも出来ないほど衰弱しきっていた赤子が奇跡的に命を取り留めた。
 その後赤子はシンの両親によって『リョウカ』と名付けられ、彼らが死ぬまで大切に育てられたのだった。
「…あいつが今オレの事をどう思っていようが、オレは大切な家族だと、思っている」
 シンは続けた。
「オレはウズメ様からお告げを受けた後、オロチが復活した後に姉貴やリョウカ、オレの友達が生け贄の犠牲になる前に、オロチを完全に打ち倒す術を探すために旅に出た。結果的に灯台を灯して回るという事になっちまって、オロチを復活させる助けをしたという事で、オレは反逆者の身だ」
 シンは顔を伏せた。
 まあでも、とシンはすぐに顔を上げた。
「オレが村から永久追放になることで、あいつらが助かるなら、オレ1人の犠牲は安いもんだろ?」
 今まで似合わないほど真面目だったシンの表情がいつもの彼のものに戻っていた。
 シンはスッと立ち上がると大きく背伸びをした。
「ふう、朝っぱらからこんな湿っぽい話、するもんじゃないよな。忘れてくれ。…さあて、腹も減ったし、戻るとしようぜ」
 シンはすたすたと歩き出した。いつも通りのシンに戻ったかのように思えたジャスミンであったが、彼の様子がいつもとは違うようにも見えた。
「待ってよ、シン」 ジャスミンは転がっていた桶に水を汲んで、シンの後に続いた。
    ※※※
 砂漠を移動し始めてから既に三時間も時間が経った。
 日も高くなり、気温もさらに上昇した。少々出発する時間が遅すぎたかとガルシアは思ったが、砂漠を横断し始めてからもう三日目であるため、砂漠の出口にそろそろ近づいているはずである。故に日が最高点に達する正午までには砂漠を抜けられ、なおかつサテュロス達の待っているはずのカレイの町へは夕方までに着くだろう。とガルシアは思い直すのだった。
 砂漠に滞在してから三日も経つだけあって、さすがに皆この過酷な環境下にも慣れてきたようである。
 昨日日射病で倒れたジャスミンも今日は変わった様子もなく歩いている、老体のスクレータも文句は多いが、それでもしっかりと歩き続けてきた。
 ガルシアはこの三日の間、一度も倒れたりすることはなかった。シンもまた倒れることはなかったが、今日は若干様子が異なっていた。
「はあ…はあ…」
 四人の中では一番旅慣れていて、体力もあるシンが息を切らしている。一応先頭を歩いてガルシア達を魔物から守るようにしているが、どこか無理をしている雰囲気が一目瞭然であった。
「シン、大丈夫か?」
 ガルシアは見かねて声をかけた。
「はあ…、何でもねえよ。ただ暑いだけさ…」
 明らかにどこかを痛めているような表情をしている。
「ちょっとそれ、見せてみろ」
 ガルシアはシンの腕に巻き付けられた包帯を解こうとした。包帯は赤く滲んでいる。