こらぼでほすと 再来4
「でも、ひとりじゃ何かと不自由だぞ? ティエリア。」
「しゃんじょーにたのむからもんだいにゃい。」
味噌汁を飲んでいた坊主が、ぐっと詰まっているが、そんなものは無視だ。みんな、デートしてもらったのだから、アレルヤたちもニールとデートしてきて欲しい。ニールの周囲には、人が溢れている状態だから、なかなかニール個人と、ゆっくりするのは難しい。マイスター組とフェルトは、ふたりっきりで過ごしたのだから、アレハレたちにも、その機会はあるべきだ、と、おっしゃる。
「あの、三蔵さん、僕ら二時間ぐらいで戻りますから、その間だけお願いします。」
アレルヤのほうが、そう頼んで頭を下げる。今回ばかりは、デートなので、ティエリアの好意は受ける。以前は、降下して買出しをしていたから、デートというか一緒に行動していた。それも五年以上前のことで、本当に久しぶりにニールと外出だからた。
「チビがネズミに引かれないように見張っててやる。」
坊主のほうも事情がわかっているから、頷いた。坊主自身は、結構、ふたりっきりで女房とデートしているので、そこいらは譲歩してやる。
今日は、ハレルヤが主導権をとっていいよ、と、アレルヤが言う。まあ、今夜、ハレルヤは内で寝て過ごすつもりだから、そうしてもらうか、と、表に顔を出した。二時間ぐらいが限界だから、と、悟空に、親猫の体調について説明されたので、一時間交替くらいでいいだろうということにした。どっちも、やっぱり、デートはしてみたいので、そこだけは、きっちり時間を決めたのだ。
「三蔵さん、クルマ貸してくれ。」
「おう、そこに鍵がある。」
昼前に出かけて、食事してぶらぶらして帰ってくるというコースなのだが、移動にはクルマを使うことにした。場所も、それほど遠方ではない。『吉祥富貴』近くのショッピングモールまでだ。そこなら、何かあっても、誰かがフォローできるということで、場所も指定された。
「ティエリア、トイレに行きたくなったら、三蔵さんに声をかけるんだぞ? それから、勝手に外へ行くなよ。危ないからな。それと・・・」
「にぃーりゅーうるさいにゃ。」
「たかだか二時間留守にするだけで、どんだけ注意する気だ? おまえは。」
切々と、ティエリアに注意している女房の背中に軽い蹴りを見舞い、ハレルヤに顎で連れて行け、と、亭主が命令する。
「だって、ティエリアは小さいんだから。」
「うぜぇーんだよ。さっさと行ってさっさと帰って来い。」
さらに、蹴りを見舞われて女房も、渋々と立ち上がる。じゃあ、いってきます、と、二人は出かけた。
ハレルヤの運転で、ニールが助手席に座る。大した距離ではないから、慌てることもない。
「しかし、じじいと出かけるのは、何年ぶりだ? 」
「そうだなあ。二人っていうと、始動前の頃だから、五年以上前だよな。あん時は、俺とおまえで買出しミッションだったけどな。」
組織が始動する前の準備期間には、アレハレルヤとニールで、休暇を取ることもあった。そういう場合、もれなく実働部隊の個人的な買出しミッションが付随していて、アレルヤたちが荷物持ちをしてニールが、ブツを探すなんてことになっていたのだ。ほとんどは、アレルヤが付き合っていたが、ハレルヤも適当に顔を出して、買出しに付き合っていた。その頃は、こういうのも始動したらやれなくなるんだろう、と、漠然と考えていたが、どうにか生きているのが、ハレルヤにしても不思議な気分だ。それも、一足先にお陀仏したはずのニールが助手席に居る。
「じじいなんか、さっさと死ぬもんだと思ってたけどな。」
「俺も、そう思ってたよ、ハレルヤ。」
「まあ、いいじゃねぇーか。俺としては、こういうことができるのは、喜ばしいことだと思うぜ。おまえは、俺らのおかんなんだから、ちゃんと待っててもらわないとな。」
「わかってるよ。おまえらこそ、ちゃんと戻って来いよ? 単独旅行の時に危ないことすんじゃねぇーぞ。」
ニールは、ハレルヤたちに呼びかける時は、必ず複数形だ。どちらかが顔を出していても、内にいるほうも聞いていると知っているからだ。
「はんっっ、俺ら、超兵だぜ? 多少のことは、どうにでもできる。・・・おまえこそ、ふらふらしてクルマに轢かれんなよ? 」
「俺、そこまでボケてないけどな。」
「いや、わかんねぇーな。」
たわいもない話をしつつ、ハレルヤが安全速度でクルマを運転する。組織で刹那より付き合いの長いのがハレルヤたちだ。先に、マイスターとしてニールと顔を合わせている。それに、刹那の時と同じく、最初の頃はニールがお世話係なるものをしてくれたから、そこで親しくはなった。ハレルヤのことがバレたのも、その時だ。適当に入れ替わっていたが、ニールは、ある時、「おまえは誰だ? 」 と、ハレルヤに尋ねたからだ。組織に拾われた時に、いろいろな検査をされて、二面性があることは指摘されていたが、人格まで肯定されていたわけではない。ときたま、凶暴性が勝る、と、言われていただけだったのに、ニールは、ハレルヤの存在に気がついた。
「俺はハレルヤだ。」
「そうか、ハレルヤ、よろしくな? あのさ、アレルヤが前に出てる時、おまえは俺の声は聞こえてるか? 」
なんでもないように、そう言ってニールは首を傾げた。内で眠っている場合は聞こえないが、起きていれば聞いている、と、返事したら、それからは複数形で呼んでくれるようになったのだ。どちらにも話しかける場合は、複数形、限定する場合は各人の名前というふうに使い分けて、ハレルヤを肯定してくれた。実は、それまでマリーしか、そうはしてくれなかったから驚いた。
「俺は、こいつの予備みたいなもんだぜ? 」
「でも、好みも動きも違うから、別人格なんだろ? それなら、別々に相手するほうがいいんじゃねぇーか? 」
「おまえが、そうしたいんなら、そうすりゃいいさ。」
「おう、そうさせてもらう。くくくく・・・・なんか楽しいな? 双子の相手をしているみたいだ。」
ニールが、そう言って苦笑したのを、後から事情を知って納得はした。ニール自身が双子だったからだ。始動前に、アレルヤとハレルヤは、ニールが陽気な人当りのいい人間というのが、仮面だとは気付いていた。たまに、ものすごい顔をしたり言葉を吐いていたからだ。
買出しで地上に降りて、公園で休憩している時に、ハレルヤも気付いた。缶ジュースで喉を潤して、ふと、何か声がしたので、横を見たら、ニールが暗い荒んだ顔で家族連れを眺めていたからだ。気配を消して、そのまま観察していたら、ぽつりと「なんで、楽しそうなんだよ。」 と、聞こえた。普段、フェルトや自分たちを可愛い可愛いと世話しているニールから聞こえるには、信じられない言葉だった。
作品名:こらぼでほすと 再来4 作家名:篠義