(差分)クロッカスとチューリップ
一年の夏の終わり頃、上級生と喧嘩したら放置花壇の世話をさせられた。
たまたま落ちていた空き缶を蹴ったらカツアゲ現場に飛び込んでしまったのが真相だったが、カツアゲされてた女子はどっかいっちまって上級生が「そんな事実はない」と口を揃えたらどうにもならなかった。一方的な喧嘩じゃなかったけど、罰が下ったのは俺だけだった。
敵の半分は猿比古がやっつけたというのに、ヤツは巻き込まれた可哀想な生徒扱いで無罪放免。ボランディア活動という名の無駄な労働に勤しむ俺を日陰に座って眺めていた。
「おい、腹減った」
「俺だって働いてる分余計に腹減ってるつの」
「ゲーセン、百円でプレイできるの今日までなんだよなぁ」
「もうちっとで終わるからタンマツで暇潰してろよ!っつーか文句あるなら手伝え」
前半への返事は舌打ちで後半は黙殺された。
昔は授業で何か栽培するために使われていたらしい花壇も今では誰が管理しているかもわからなくなっていて、雑草に混じって花の芽のようなものがちらほら見える。世話をしろという一言で投げ出されたおかげで何をしていいかもわからなかったけれど、多分これを育てればいいんだろう。
花のことなんか一つもわからなかったから明らかに雑草と思われるものだけ引き抜いて、過去に植えられた花疑惑のある芽はタンマツで写真を撮っておいた。
花屋に勤める母の見立てでクロッカスと判明した草は案外たくましい植物だった。暇つぶしに猿比古が調べた情報を参考に水をやって、雑草を抜いて、半分ほど空いている土に母から押し付けられた球根を植えた。
毎日水やりについてきても猿比古が手伝ったことは一度もなかった。
冬がすぎ、二月にクロッカスが咲いた。それまでさっぱり興味のなさそうだった猿比古が頼まれもしないのに仏頂面で黄色い花を撮っていたのは気分が良かった。
クロッカスが短い見頃を終えてしばらくすると、今度は自分で球根を植えたチューリップが真っ赤な花を咲かせた。すぐに落ちそうなほど大きな赤い花弁のついた一輪を写真に撮った。
他の誰も見に来ないけれど立派な花が咲いた。
作品名:(差分)クロッカスとチューリップ 作家名:3丁目