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(差分)クロッカスとチューリップ

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 美咲は女みたいな自分の名前を呼ばれるのが嫌いだ。
 母親の前では呼んでも怒鳴らないが、気に入っていないのを母親は知っている。

「もっと小さい頃の話なんだけど、可愛いと思ってもっと髪を長くさせてたら、連れてきたその時のカレシに女の子と間違われてね」
「その話ヤメロ!」

 ケラケラ笑いながら語られたエピソードは本人にとっては思い出したくもない出来事らしい。
 大声で遮られて詳細は聞けなかった。

「まあ、その元カレのこと特に嫌ってたってのも理由みたいだけど」
「嫌ってたもクソも、おふくろが連れてくる男がろくなヤツだった試しがねえよ」
「子供のアンタにはわかんなくてもみんな良い所も悪い所もあったっていうそれだけよ」

 最初に家に誘われた時こう言われた。

『最近おふくろ大人しいし、うちに来いよ』

 その時はヒステリーか何かで暴れる親なのかと思った。乱暴者と囁かれる美咲の腕っ節は親譲りかと。でも、母親の細腕は喧嘩には全く不向きで性格も楽天的。美人ではないが愛嬌があって、美咲みたいに人と揉めるタイプでもなかった。
 ただ、致命的なほどに男運がない人だった。美咲が中学にあがってからはなくなったものの、それまでは交際している男を家に連れてくることがよくあったらしい。

「四股野郎にDV男に、最初から妻子があるのを黙ってたってパターンもあったな。よく懲りねえよな」
「まだ再婚諦めてないからね。美咲が将来誰かと一緒になって置いてかれたらひとりぼっちだもん」
「俺は結婚とかしねえよ」
「親離れしない気?」
「そうじゃなくて!恋だの愛だのではしゃいでくだんねえって言ってんだ」
「えー?くだらなくなんかないよ」

 苦々しく言う息子に目を細めて笑った。