こらぼでほすと 再来5
乗ってみたいと思っていたので、悪戯心で、ハレルヤはそう言った。大型バイクなら、後ろにニールを乗せてツーリングできる。暖かくなったら、そういうデートもいいな、と、ふと思ったから口から出た。すると、ニールのほうも、何気ないように返事した。
そこへ、懐石風のランチが運ばれてきて、会話は一端、中断したが、セッティングが終わると、ハレルヤはツッコミだ。ニールはハレルヤが冗談で言っているから、返して来たと思ったからだ。
「おい、俺が言ってるのは本物だぞ? 」
「ああ、だから専門店へ行って買おうって言ってるだろ? それぐらいならお安いご用だ。おまえ、四年ほど損してるから四年分一気に買ってやる。アレルヤも、一杯買い物していいからな? 」
誕生日のわからないティエリアには、降りてきた時に何かしらのことはしていたし、刹那に至っては、戻ってくる度に、衣服を整えたりしていたから、大それたものではないが、贈り物をしていたようなものだった。アレハレルヤたちには、それができなかったから、四年分一気にやるなら、それぐらいでもいいと思っている。
「あのな、じじい。おまえ、気前が良すぎるんじゃねぇーか? 」
「いや、俺さ、金使うことが、ほとんどないんだよな。それなのに、ライルが、なんか送金とかしてくれるから使い道がねぇーんだよ。」
衣食住ほぼ、どこかでおんぶにだっこされている。刹那やティエリアのものは、いろいろと準備するが、それだって大したものではない。そして、この間、実弟が、返金する、と、高額の振込みをしてきたので、余計に使い道のない金が口座に転がっているのだ。それでなくても、『吉祥富貴』から正社員としての給料が、毎月きっちりと振り込まれているのだ。ほとんど仕事はしていないはずなのだが、オーナー曰く、「寺での年少組管理手当です。」 とのことだ。まあ、ここ数年、寺で年少組が食事することも多かったので、そういう福利厚生費という名目であるらしい。
「だからさ、おまえらが欲しいものなら、買ってやるつもりだったんだ。」
「自分のために使えばいいんじゃねぇーのか。」
「だから、買ってやりたかった俺としては、それで満足なのさ。」
出されたランチは、あっさりしていておいしいものだ。ニールは、少し食べては、ハレルヤのほうに廻してくる。それも平らげて、ハレルヤは、やっぱり呆れたという顔をした。
「けどな、買っても一年に何度かしか乗れないんだぜ? 」
「ハイネが整備して動かしておいてくれると思う。あいつ、そういうのは得意なんだ。それに、特区の中を旅するなら、バイクでもいいだろう。単独の時にやってみれば、どうだ? 」
「確かに、それはそうだけどな。けど、バイクって高いんじゃないのか? 」
「だから、四年分。刹那たちには、何かしら用意したりしてたからさ。それができなかった分を一気にやってやるって言ってんだよ。」
「バカじゃねぇーか? じじい。」
「バカで結構だ。とりあえず、バイク、探すぞ。」
食事が終わったら、携帯端末で、近くのバイクの専門店を探して出向いた。専門店には、かなりの種類が並んでいて、どれがいいかな? と、親猫も楽しそうに見て廻っている。ハレルヤだって乗ってみたいと思っていたから、気に入りそうなものを探した。体格的に大型バイクがいいのだろうが、どれも値段は高額だ。もちろん、ハレルヤたちも組織から貰っている報酬というのがあるし、それも手付かずにあるから、これぐらいは買える。自分で買うなら、これだろうな、と、目星をつけたら、ニールが近寄ってきた。
「いいんじゃないか。」
「うん、俺も、これが気に入った。でも、自分で買う。」
「はあ? 何言ってんだよ。これは、おかんの俺が、おまえのバースディープレゼントにするんだ。これでいいんだな。」
すいませーん、と、店員を呼んで、購入の手続きをした。ナンバープレートがないから、その場でお持ち帰りはできないので、寺まで搬送してもらうことになった。手続きして代金もカードで決済する。ナンバープレートの手続きは、五日で出来るらしい。とりあえず、名義はニールにした。それなら、この休暇中に乗れることも確定だ。免許は、キラに頼めば、いくらでも偽造は出来るので問題はない。
あれよあれよという間に、ニールが手続きしてしまったので、ハレルヤは口を出す暇もなく、お買い上げと相成った。店を出てから、ニールは初歩的な疑問をハレルヤにぶつけた。
「で、おまえさん、大型バイクを運転したことあるのか? 」
「ないけど、練習すりゃどうにかなるだろ。地上の乗り物なんて、原理は単純だ。」
「まあそうだな。」
普通じゃないのが揃っている『吉祥富貴』なら、誰かが乗れるに違いない。それなら、運転方法を教えてもらえば、ハレルヤなら簡単に乗りこなすだろうと、ニールも考えた。
「じゃあ、そろそろチェンジするぜ。・・・・じじい、ありがとう。俺、こういう贈り物は初めてで嬉しい。」
「おまえのそういう顔が見れて、俺は満足だ。」
いつもシニカルな微笑みを浮かべているハレルヤが、本当に嬉しそうに笑っているのは、ニールも初めてだ。そういう顔を見せてもらえたなら、贈った甲斐があったというものだ。少しハレルヤが項垂れて、すぐにチェンジしてアレルヤが現れる。すでに、ウルウルと目が揺れている。
「ニール、ありがとう。ハレルヤ、すごい喜んでるよ。」
「うん、それはよかった。さて、おまえさんはどうする? 」
「僕は、当初の予定通り、ニールに服を見立ててもらう。」
「はいはい、それじゃあ行こう。」
アレルヤも、流行の服を何着か買ってもらって、ほくほくと帰ってきた。ティエリアの前でファッションショーよろしく見せたら、ミニティェも苦笑する。まあ、四年分を一気に贈るとなれば、そうなるだろう。ティエリアだって、こちらに降りている時は、そこにある服を着ていたが、あれは、ニールが用意してくれていたはずだからだ。冬にはコートも手袋もあったし、どこかへ出かけても、食事しても、ティエリアは一度だって支払ったことはなかった。つまり、そういうことだ。だから、羨ましいと思ってはいけない。そして、それらを思い出して、ニールの優しさを感じてしまう。
「こんきゃいは、おりぃたちもおくりもにょをするにゃ。」
「うん、そうだよね。」
いろいろと考えようね、と、アレルヤも同意する。四年分貰ったのだから、アレルヤたちも四年分返したっていいはずだ。けど、ニールが喜ぶものは、ちっとも思いつかない。
「りゃくしゅくりゃいんときりぃやにそうだんするにゃ。」
「ああ、そうだね。お祝いするんだから、それでいいよね。」
あちらからも、おかんはぴばの打ち合わせを、と、打診されているのだから、その時に相談すればいだろう。
「じゃあ、マンションのカードキーを貰って行こうか? 」
「しょうだにゃ。おいわいするにょにじゅんびもひつようにゃ。」
今夜は、ふたりだけでお祝いすることにした。初めて、ふたりだけでお祝いをする。ティエリアが、ミニなので、いろいろと不可能なことはあるが、まあ、それでも二人きりというのは嬉しいものだったりする。
作品名:こらぼでほすと 再来5 作家名:篠義