その手を取ってしまったから
一つだけ、その時の言い訳をさせてもらえるなら。
……あの時は凹んでたのだ。それはそれは凹んでいた。
「そのまま北へ!ノイズが酷くて追えないけど、先行部隊が生き残っていれば、ポイントB3で合流できる!」
『ダメです!北の部隊は、もう……!』
途切れた言葉の先を読み取って、オレはぎゅっと強く瞬きをした。
ひりついた目元には気付かない振りをして、硬い声で指示を出す。
「わかった。なら、D2の部隊と合流!そこの制圧は既に完了してる!」
『了解!』
「……必ず、必ず助けるからっ!もう少しだけ持ちこたえて!」
『ははっ、わかってますよ、ボス!』
寄せられる信頼が、唯一オレをボスたらしめている。逃げ出して嘆きたいオレを、ここに縛り付けている。
モニターの向こうの状況は坂を転がるように悪くなっていく。
喉を痛めるまで呼び掛けても、ノイズの他に応答のないトランシーバー。一つ一つ、反応が消えていくボンゴレ特製の発信機。
その先でファミリーが窮地に陥っているのに、その場所も知っているのに、そこへ行けば助けられる可能性だってあるのに、……安全なこの場から動けない自分に、吐きそうな嫌悪を覚えていた。
いつもより冷たく感じる硬質な執務机の上で、ぎりっと拳を握る。
……ああ、最近は拳を握ることばかりに長けてきている。
本当に必要なのは、この手を開くことのはずなのに。
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)