その手を取ってしまったから
もう10年も前の君が言ったんだ。
骸が直接聞いたわけではないけれど、確かにそう言ったと、いつかあの黒衣のアルコバレーノが口元に憎々しいほど様になるニヒルな笑いを浮かべて教えてくれた。
馬鹿だろう?と言いつつも、どこか弟子を誇る、眩しげな目をして。
裏の世界を垣間見ただけの世間知らずのお子さま、まだ幼いとも言えた中学生の潔癖な君が。
身の程知らずにも、『ボンゴレを壊す』と宣言したのだという。
僕が欲しいと思うくらいには、それはそれは大きな意味を持つ名前だったというのに。
僕は君を信じなかった。有り得ないと、馬鹿馬鹿しいと思った。
しかし、君は勢いで告げたようなその言葉のまま、大嫌いなマフィアのボスになって、自らの足元を崩すような戦いを始めた。
そして今、こうして大事なものを守るのための誓いが、大事なもの自身を削り取ることになっても尚、戦い続けている。
そうやって、とうとう認めさせてしまったのだ。
保身に走る人の弱さと醜さを嫌というほど見た故に、例外なく人を信じない骸に。
『これは全く救いようのない馬鹿だ』と。
他人より自分の利を考える、そんなことさえできない馬鹿なのだ。
ふざけたことを宣ったくせに、自分の身の守り方一つ知らない馬鹿なのだ。
正攻法しか知らないのか。何て要領の悪いやり方だろう。
とても見てられない。
(……僕が手を貸すしかない)
そうしなければ彼は……死んでしまうだろうと、思った。
心の内側、柔らかいところから削られて、薄くなって、砕けて。
骸の憎む、マフィアのために死んでしまう。
この年月が、状況が、骸に決断を迫った。
殺させてなるものか―――そんなことを、させるものか。
沢田綱吉は、僕が信じてもいいと思った稀有な人間なのだから。
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)