【カイハク】機械仕掛けの神
ハタキをかけ終え、庭に出ようとホールを横切るハク。壁に掛けてある大鏡が目に入り、ふと足を止めた。
これも、ハタキをかけておいたほうがいいかしら。
近づいて、鏡面に写る景色にハッと息を飲む。
そこに写っているのは自分の顔ではない。見覚えのある懐かしい風景。村はずれの家と窓際に立つレリクの姿が写っていた。
マスター・・・・・・!
驚いて駆け寄り、鏡をのぞき込む。変わりないその姿にハクが涙ぐんでいると、
「帰りたいのか?」
突然の声に、ハクは飛び上がった。
「わっ、私! あの!」
急いで目元を拭い、身を縮めるハクにカイトが近づき、鏡をのぞき込む。
「この鏡には、移動の魔法が掛けられているから、好きな場所に行ける」
ハクは、カイト機嫌を損ねていなければいいがと、祈る思いだった。
カイトはもう一度、「好きな場所に行ける」と繰り返す。
「あの・・・・・・私、勝手なことは」
「帰りたくなったら、鏡を使えばいい。行きたい場所を念じて、その場所が写ったら通り抜けられる」
淡々とした口調にハクは戸惑い、
「・・・・・・何故、そんなことを?」
「何故と言われてもな。帰りたいのだろう?」
「・・・・・・勝手に帰ったら、村に災いをもたらすのでしょう?」
「誰が?」
ハクは恐る恐る顔を上げ、カイトと視線を合わせた。だが、冷静な瞳に見返され、すぐに目を逸らす。
「む、村の、伝承があ、あります、から。森の奥に、あ、あの、城があって、それで」
つっかえつっかえ、村に伝わる掟の話をすると、カイトは首を傾げ、
「そうか。初耳だな」
「え?」
「多分、亡くなった魔道士が、城に人が近づかないよう噂を流したのだろう。研究の邪魔をされるのが嫌いだったからな。本人はとっくに亡くなっているし、もういいんじゃないか?」
「え? あっ、でも、え?」
カイトの言葉にハクは混乱し、何を言えばいいのか、何を聞けばいいのか分からなくなった。とっさに思い出したのは、踊り場にある花瓶のこと。
「あの、あっ、花瓶! に、庭に! 花を、摘みに行ってきます!」
そう口走ると、あたふたと走り去る。
「雨が降りそうだから、早めに戻った方がいい」
カイトの声を背中に聞きながら、ハクは玄関を飛び出した。
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ