【カイハク】機械仕掛けの神
あてがわれた部屋に戻ったハクは、床に座り込んで溜息をつく。
どうして何時も、余計なことをしてしまうのだろう。あの花瓶は大切なものだと、聞かされたばかりなのに。
マスターの時も、自分が大人しく待っていれば、気づかれず騒ぎになることもなかっただろうに。
彼は、呆れているかしら・・・・・・。
冷静な視線と声が、自分の全てを拒否しているようで、ハクは手で顔を覆う。
彼は自分をどう思っているのだろうか、どうするつもりなのだろうかと思い悩んでいたら、扉にノックの音がした。
「あっ、ど、どうぞ」
ガルムが慰めに来てくれたのかと顔を上げると、予想に反してカイトが入ってくる。
驚きのあまり言葉の出てこないハクを、カイトは一瞥すると、
「あの花瓶は、亡くなった魔道士が大切にしていたものだ。君の不注意で割れてしまった」
淡々とした口調に、ハクはかえって身を縮め、か細い声で「ごめんなさい」と言った。
「分かった」
カイトは頷き、「これでこの件はおしまいだ」と言う。
「え?」
「ハクは謝った、私は許した、それで終わりだ。何か間違っているか?」
「えっ、あっ、で、でも、大切なものだったのでしょう?」
狼狽えるハクに、カイトは首を傾げ、
「花瓶が必要なら、他にもある」
「えっ」
ハクは一瞬あっけにとられ、カイトの真面目な顔に吹き出した。
「そういうことじゃないですよ」
ころころと笑うハクに、
「ハクの笑った顔を初めて見た」
「え? あっ、あの」
「ハクは笑った方が綺麗だ。笑っているハクは、ガルムより好きだな」
大真面目に言われ、ハクは真っ赤になって言葉に詰まる。
そんなこと、初めて言われた・・・・・・。
そして、自分もカイトの笑った顔を見たことがないと思い当たった。
彼は、どんな顔で笑うのだろう。
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ