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【カイハク】機械仕掛けの神

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翌日、ホールに出てきたハクは、微かに聞こえるガルムの声に眉をひそめた。
どうやら、何かに怒っているらしい。
ハクはきょろきょろと周囲を見回し、当たりをつけて一つの扉に近づいた。

「ガルムさん、どうしたの?」

ノックをして声を掛けると、中から、

「お嬢さん! 助けてください!」

キーキーと叫ぶ声が聞こえ、慌てて部屋に入る。
けれど部屋の中はからっぽで、虚を突かれて足を止めたハクの耳に、再度ガルムの声が届いた。

「お嬢さん! ここです! 棚の中です!」
「あっ、ああ!」

作り付けの戸棚に駆け寄り、引き出しを開ける。真っ黒い塊が飛び出し、ハクの肩にしがみついた。

「きゃあ!」
「ああ、お嬢さん、すみません。助かりましたよ。全く、酷い目に遭いました」

せっせと前足で顔を洗うガルムに、ハクはどうしたのかと聞く。ガルムは手を止めると、哀れっぽい声で、

「どうもこうもありませんよ。旦那の悪戯でさあ。お嬢さんからも怒ってやってください。あたしの言うことなんて、全く聞きやしない」
「あ、ああ。はい。そうですね。はい。私からも、ちゃんと怒ります」
「え?」

ハクがキッと顔を上げ、決然とした足取りで歩きだしたので、ガルムは慌ててドレスにしがみついた。



部屋を出たところで、ホールに降りてきたカイトと鉢合わせする。ハクがカイトに詰め寄り、

「こういうことをしてはいけません!」
「何が?」

首を傾げ聞き返すカイトに、ハクは怯んだ様子で目を伏せ、

「あ、えっと、あの、が、ガルムさんを、戸棚に閉じこめたでしょう?」
「ああ」
「そういうことは、してはいけないと、思い、ます」
「そうか」
「あの、あ、謝って、ください。ガルムさん、に」
「分かった」

カイトはガルムに視線を向けると「悪かった」と言い、再びハクに視線を戻す。

「これでいいのか?」
「えっ、あ、は、はい」

沈黙が降りて、ハクは俯いてしまった。ガルムはハクの肩の上から降りると、カイトの体をよじ登り、

「何ですか、旦那。あたしの言うことは聞かないのに、お嬢さんの言うことは聞くんですね」
「お前の言うことも聞いている」
「全く聞いてませんよ。どの口が言いますか。いつ聞いたっていうんですか」
「百回に一回くらいは」
「少ないわ!」

二人のやり取りに、ハクは我慢できず吹き出す。
コロコロと笑うハクに、好ましげな視線を向けるカイト。ガルムは気づかれないように、カイトの肩からそっと降りた。