【カイハク】機械仕掛けの神
「お嬢さーん! あたしの声が聞こえますかー!? お嬢さーん!!」
ハクの姿が見えないのに気づいたガルムが、大騒ぎしながらホールに飛び出してくる。もしやどこかに閉じこめられたかと、あらん限りの声を上げて、
「お嬢さーん!! 何処にいますかー!?」
「ハクなら、村に戻ったぞ」
さらっとカイトに言われ、ガルムはぴたっと動きを止めた。
「は? え?」
「さっき鏡を見たら、ハクが村の家にいるのが見えた。自分の主人に会いに行ったんだろう。随分帰っていないからな」
「えっ、あっ、え?」
ガルムは、ぽかんと口を開けてカイトを見上げ、
「お嬢さんは、村に戻ってしまったんですかい?」
「そう言った」
「何も言わずに?」
「そういえば、庭に出ていると言ったのだけれどな。気が変わったんだろう」
相変わらずのカイトの様子に、ガルムは目をつり上げる。
「旦那! 旦那は、それでいいんですか!?」
「どうしようと、ハクの自由だ。閉じこめていた訳でもないし」
「だからって! だからって、旦那は、お嬢さんがこのままいなくなってもいいんですか! 二度と戻ってこなくても!」
「そうなったら寂しいな。だが、残ることを強制できない。ハクにはハクの生き方がある」
「旦那ぁ!」
「ガルムも、出ていきたくなったら自由にすればいい。私は何も強制しない」
その言葉に、ガルムはがっくりうなだれると、
「・・・・・・あたしは何処にも行きませんよ、旦那。約束したでしょう?」
「どうするかは、ガルムの自由だ」
「・・・・・・嫌ですよ、旦那。そんなこと言わないでください。あたしがそばにいられる時間なんて、ほんの僅かじゃないですか」
「そうだな」
「・・・・・・お嬢さんなら、旦那のことを理解してくれると思ったんでさあ。あたしはね、旦那が孤独にならないよう、そばにいてくれると、ともに生きてくれると、期待していたんですよ」
「そう気を落とすな。私にはまだお前がいる」
ガルムはふるふると首を振り、しおれた髭を撫でた。
「さよならも言わずにいなくなるなんて。随分水くさいじゃないですか」
「言えば、止められると思ったんだろう」
「まあ・・・・・・そうですがねえ」
ガルムはとぼとぼと鏡に近づき、
「せめてあたしからは、言わせてください」
ハクの姿を求めてのぞき込むが、目の前は真っ白に曇って何も映し出されない。
「・・・・・・なっ」
「誰かが鏡に干渉しているな。ここ数日、妙な魔力を感じると思ったら」
ガルムはキッと振り返ると、いつになく鋭い調子で、
「城はあたしに任せて、旦那はお嬢さんの元へ!」
「何を怒っているんだ」
「いいから早く! お嬢さんを連れ戻したら、許してあげます!!」
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ