【カイハク】機械仕掛けの神
「えいっ! えいっ! きゃあ!!」
足を滑らせ、ハクは階段の下へ転がり落ちた。
「うっ・・・・・・いった・・・・・・」
痛みに顔をしかめながらも、暗闇を手探りして階段を上り、扉に体当たりを繰り返す。
カイトさんに、知らせないと・・・・・・!
自分の浅はかな行為で、カイトを危険に晒してしまった。一刻も早く此処を出て知らせなければと気ばかり焦り、何度目かの体当たりの後、再び足を滑らせる。
「つっ・・・・・・カイトさんに、知らせないと・・・・・・」
こぼれ落ちる涙を拭い、ハクはもう一度階段を上った。
どうか、無事で・・・・・・!
「カイトさんのところに! 行かないと! カイトさん!」
全力で体をぶつけるうちに、ぎしぎしと音を立てて扉がきしむ。次こそはと、ハクは全身全霊で扉へ体をぶつけようとして、急に差し込んだ光と手応えのなさに戸惑う暇もなく、そのままの勢いで倒れ込み、抱き止められた。
「きゃあっ!」
「大丈夫か?」
ハッとして顔を上げるも、まぶしさに目がくらむ。二・三度瞬きすれば、カイトの冷静な瞳が自分をのぞき込んでいるのが見えた。
「カイト・・・・・・さん」
「ハクは庭に出ると言った」
唐突なカイトの言葉に、自分が嘘を付いて城を出てしまったことを思いだし、ハクは顔を伏せる。
「あの・・・・・・私・・・・・・」
「さよならも言わずに出ていくなんてと、ガルムが悲しんでいた」
ガルムの名を出され、ハクは唇を噛んだ。あんなに良くしてくれたのに、自分は彼を裏切ってしまったと、胸が痛む。
「ガルムが悲しんでいた。私も、ハクが出ていったのは寂しい」
「・・・・・・ごめんなさい」
震えながらやっとのことで言葉を絞り出すと、カイトは「分かった」と言い、
「私はハクを許す。ガルムも同じだろう。だから、この件はこれで終わりだ」
「・・・・・・あっ!」
ハクは顔を上げると、ぼろぼろと涙をこぼした。
「ごめっ・・・・・・な、さっ・・・・・・! わたしっ・・・・・・ごめっ・・・・・・なさ・・・・・・」
「最初に会った時も、ハクは泣いていたな。笑ったほうが綺麗なのに」
その言葉に、ハクはたまらず抱きつくと、カイトの胸に顔を埋めて泣く。
「わ、わたし・・・・・・笑いますっ・・・・・・笑いますっ、からっ・・・・・・」
どうかそばにいさせて欲しいと、懇願するハク。泣きじゃくりながら繰り返すと、カイトの腕がハクの体を抱きしめ、
「ハクを城に連れて戻らないと、ガルムが許してくれないんだ。私と一緒に戻ってくれるか?」
「・・・・・・はいっ。私、あのお城が、私の居場所です、から」
そう言って、ハクは何度も頷いた。
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ