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【カイハク】機械仕掛けの神

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「ハク、ハク」
「はい、ただいま」

ハクが台所から急いで駆けつけると、レリクはコートを羽織り、

「薬草を取りに行ってくる。日暮れまでには戻るつもりだ」

気楽な調子で言う。

「あ、はい。お気をつけて」
「なに、そんな遠くまでは行かないさ。目の前の森に生えているからね」

さも当然のことのように言われ、ハクは一瞬その意味を理解できなかった。

「えっ、マスター、どちらまで・・・・・・」
「目の前の森だよ。あそこは人の手が入っていない。貴重な野草の宝庫さ。放っておく手はないだろ?」
「え、あっ、だ、駄目です!森に立ち入ってはいけないと、あれほど」
「何だ、あんな迷信を鵜呑みにしているのか」

レリクは笑いながら、ハクの頭に手を置く。

「あんなもの、子供らを遠ざける為の方便だよ。森で焚き火などされたら、この村もただでは済まないからな。大人達は口裏を合わせているだけさ」
「で、ですが」
「お前は疑うことを知らない。その純粋無垢な魂は、私の誇りだよ」

レリクはかがんでハクの頬にキスすると、

「大丈夫、夕飯までには戻るから」

子供に言い聞かせるような口調で言うと、荷物を背負った。

「書斎には入らないように、危険な薬品もあるからね。じゃ、行ってくる」
「あ、マスター!」

ハクは引き留めようと手を伸ばすが、レリクはするりと身をかわして玄関を出ていく。
ハクは呆然と立ち尽くしながら、ただの迷信であればいいがと、祈る思いだった。




森の古城では、カイトの割るクルミをガルムがせっせと腹に詰めていた。

「まだ食べるのか」
「旦那が割るなら、食べますよ」
「じゃあ割らない」
「また、そんな意地悪言って」

カイトがもくもくとクルミの殻を割り、ガルムがせっせと口に運ぶ。食事を必要としないカイトが何故クルミ割りに興じるのか、ガルムには今一つ理解できないが、労せずして腹が膨れるのだから文句はなかった。表情を崩さず、素手で一心にクルミを割るカイトの姿は、少々不気味だが。

「まだ食べるのか」
「旦那が割るからですよ」
「だから太るんだ」
「太ってませんよ! 失礼な!」

この城で、カイトの話し相手になれるのはガルムしかいない。他のカラクリ達は、意志を持たないから。
ガルムはクルミをかじりながら、カイトを作ったという大昔の魔道士は、きっと血も涙もない奴なのだと決めつけていた。
ただ城を守らせるだけなら、カイトに心は必要なかったのに。

「まだ食べるのか」
「飽きたんなら、割るのを止めてくださいな」
「・・・・・・デブ」
「ああ!? 今小声でなんて言いました!? 聞こえましたよ!!」