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【カイハク】機械仕掛けの神

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翌日、ハクがあてがわれた部屋からそろそろと顔を出すと、目の前にカラクリ人形が現れる。

「ひっ!」
「大丈夫ですよ、お嬢さん。あたしですよ」

肩に乗っていた黒ネズミが、キーキーと声を上げた。

「あっ、ガルムさん」
「はい、そうですよ。夕べはゆっくり休めましたかい?ああ、この子のことは心配しないで。何も悪さはしませんや」
「は、はい・・・・・・」

そうは言われても、無機質なカラクリは不気味に感じる。ハクは目を合わせないようにしつつ、部屋から滑り出た。
ガルムはカラクリに歩き出すよう声を掛けながら、

「どうぞ気楽にしててくださいな。城の中は、好きに見て回って構いませんからね。掃除が終わったら、また来ますよ」
「ありがとうございます」
「よしてくださいよ、そんな堅苦しい。あたしのことは、使用人だと思ってくださいな。じゃあ、また後で」

ガルムを乗せたカラクリが行ってしまうと、ハクはホールに取り残される。外に出なければ大丈夫だろうと、ハクが手近な扉に近づこうとしたら、中からカイトが出てきた。

「あっ!」

ハクは慌てて飛び退き、壁際で身を縮める。カイトはちらっとハクを見るが、興味のない様子で何処かへ行ってしまった。


一体、何故私を・・・・・・。


だが、その疑問を問う気にはなれない。ハクは、カイトと顔を合わせないよう、彼とは反対方向へそそくさと走っていった。




「旦那、お嬢さんには会いましたかい?」

部屋に入ってきたカイトにガルムが声を掛けると、カイトは気のない様子で、

「さっき、ホールにいたな」
「まだ怯えているみたいですよ、可哀想に。いきなり連れてこられたんですから、無理もありませんや」
「だから帰すと言っただろう」
「だから! 駄目だって言ったでしょうが! あたしの話、聞いてましたか!?」
「冒頭くらいは」
「全部聞かんかい!!」




ガルムがホールの掃除を終えた頃、城の中を見てきたらしいハクが戻ってきた。

「気に入るものはありましたかい、お嬢さん?」
「あっ、あの、私・・・・・・」
「なーに、気にすることありませんよ。旦那は趣味らしい趣味もないですからね」

ガルムはカラクリの肩から飛び降りると、ハクの足下に駆け寄る。

「掃除も終わりましたし、お茶にしましょうか。お嬢さん、食事は? なさらない? そうですかい、この城で飲み食いするのは、あたしだけって訳ですな」

ガルムは腹を揺すって笑うと、ハクを手近な扉に誘導した。

「さ、今日はこの部屋にしましょうかねえ。お手数だけど、開けてくださいな。数ばっかりあって、掃除が大変でねえ」

ハクに扉を開けてもらい、ガルムは部屋の中へ滑り込む。一目散に棚へ走り、皿に載せてあるクッキーを手に取った。

「ちょいと失礼しますよ。動き回ると腹が減りましてねえ。ま、大方はカラクリ達がやってくれますけど」

クッキーをぽりぽりかじりながら、ハクに腰掛けるよう促す。

「どうですかい? 旦那とはうまくやれそうですかい?」
「えっ、あっ・・・・・・」
「旦那は、ああ見えて優しい方ですよ。ただ、長いこと一人だったものですから、気の利かないところもありますがね」

皿の上にカスをこぼしながら、ガルムは続けた。

「こんな森の奥深くにある城に、カラクリ達と押し込められてるんですからね。誰かが訪ねてくれる訳もなし、人付き合いの仕方が分からなくても、旦那のせいばかりじゃありませんや」
「あの、私・・・・・・」
「お嬢さんも、急に連れてこられて驚いたでしょう。でもね、いずれいい方に向かいまさあ。だから、どうか旦那を怖がらないでやってください。旦那だって、いつかはこの城を出る日が来るかも知れませんや」

ガルムは丸い目をハクに向けるが、ハクは目を伏せて顔を逸らしてしまう。ガルムは内心溜息をついた。


お嬢さんは、旦那があの男と取り引きしたと思いこんでなさる。無理もないこって。自分のマスターを疑うなんて、毛ほどにも思いつかないだろうから。


けれど、男が嘘をついたことをガルムは知っている。大方、森に入ったことがバレ、村人達に吊し上げられて、その場しのぎの嘘をついたのだろう。


でも、それをお嬢さんに告げるのは、余りにも残酷ってもんだ。真実を告げることが、正しいとは限らない・・・・・・。


だから、いずれいい方に向かうだろうと、ガルムは自分に言い聞かせた。
焦ることはない、人形の彼らには、永遠に近い時間があるのだから。