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Wizard//Magica Wish −8−

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俺は仁美ちゃんの電話を借りてタクシーを呼び、家に帰らせてあげた。最後にありがとう、と一言残して、タクシーは出ていった。何も、俺は感謝される行為はしなかった、むしろ、彼女に大きな傷を残してしまったのに。
タクシーが見えなくなったと同時に今度は再び病院の中へと入る。
もちろん、行き先は恭介の病室だ。
濡れた髪と服のまま、恭介の病室に入った。

「ハルト…さん」
「恭介」

予想どおり、恭介は酷く落ち込んでいた。
恭介は良い奴だ。きっと心の中は罪悪感でいっぱいなのだろう。
だからこそ、俺が恭介に道を示してあげなくては。

「恭介、さやかちゃんの事、好きだったんだな」
「…っ…なんで、それを…」
「ごめん、俺が気づかなかっただけで、本当は全て知っていたんだ」
「そう、なんですか…」

恭介は雨が降り続く外を見つめた。
弱々しく、口を開き喋り始める。俺はパイプ椅子に座り、恭介の言葉に耳を傾けた。
「僕は、さやかの事が好きだ。けど、結局今のいままで、言葉にすることができず仁美に告白されて、ついさっきまで彼女と付き合っていた。けど、このままじゃいけないと思って、僕はさやかをここに呼んで自分の気持ちを話したんだ」

「そっか、それで…」

「彼女は酷く混乱してしまった。わけがわからない…なんでいまさら…そう僕に言い放って彼女は出て行った。追いかけようとしても、僕は引き止めることすらできなかった。ははっ…笑っちゃいますよね、仁美にも自分の気持ちを伝えようとして、結局彼女まで木津付けた…僕は…僕は…最低な人間だ」

「でも、その選択は間違いじゃない」

「間違いじゃない!?ふざけないでください!!」

恭介はテーブルをドンっと叩き、俺に罵声を浴びせた。酷く興奮しているのか目が釣り上がり、俺を睨みつける。でも、ここで引き下がったら全てが崩れ落ちてしまう。

「僕は二人を気付付けて、ハルトさんはそれでも僕の行いが間違いではないと!?馬鹿馬鹿しい!!こんなことになるんだったら、僕は今までどおりに仁美と付き合っていれば良かったんだ!!」

「けど、それじゃあ恭介の気持ちはどうなる!?」
「僕なんてどうでも良いんだ!彼女達さえ幸せでいてくれば!!僕なんてっ…!!」

「恭介、ちょっと我慢しろ」
「えっ…あぁ!!」

俺は恭介の胸ぐらを掴み、おもいっきり殴り付けてやった。手加減なんてしていない。俺の本気だ。恭介は右頬を擦り痛みを必死に消そうとしていた。
「自分を偽っちゃ駄目だ!!そんなことして、仁美ちゃんの気持ちはどうなる!?」
「え…」
「そんな中途半端な気持ちで仁美ちゃんの彼氏になっても、結局それは本当の愛じゃないだろ!!そんなの、本気で恭介に恋をしている仁美ちゃんも可哀想だし、さやかちゃんだって可哀想だ!!」
「っ!!?」

「…はぁ、なあ恭介。お前は、自分だけ綺麗なままで居続けようとしていないか?」

「っ!!」

「彼女達に全て重みを背負わせて、自分は事の成り行きで綺麗なまま…そんな関係、本当に恭介が望んだ事か?」

「違う…違うよ!!」

「なら、…自分に素直になれ、恭介。お前は誰が好きなんだ?」

「僕は…僕は……」


これで良いのか?
違う…これで良いんだ。
俺も人の事を言えない。だって、俺自身も綺麗なままで居続けようとしていたから。
もちろん、俺もそんな事は嫌だ。
だったら、心を鬼にして、絶望の壁を恭介と一緒に乗り越えなくては。

「僕は…さやかが、好きだ!!」
「それで良いんだ…恭介」

恭介の頭をポンポンと撫で、俺は彼の両肩に手を置く。心の片隅で後で殴った事を謝ろうと断言してみる。恭介は自分自身の気持ちを見つけることができた。
今度は俺の番だ。
俺が恭介と、さやかちゃんの希望にならなくてはいけないんだ。

「待ってろ、恭介。お前の気持ちが無駄じゃないってことを証明してやる」
俺はそう言い残して病室を出ようとした。

「ハルトさん!」
「最初に会った時、俺の言った言葉覚えているか?」
「っ!…はい、もちろん!」
「あぁ…俺が恭介の最後の希望だ」

病室を後にして俺は走る。
行き先は決まっている。

さやかちゃんの元へ…!

作品名:Wizard//Magica Wish −8− 作家名:a-o-w