二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

紅月の涙2

INDEX|6ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

両親を殺し、兄の手を血に染めた罪悪に囚われ泣き叫ぶ自分の頭を優しく撫でてくれた事。

―――すまない…

屋敷の裏に建てられた両親の墓の前で、一人跪きながら胸に手を当てて涙していた事。

―――ユーリ。お休みのキスをしてくれないか…

記憶を失う前も、失った後も、両親の代わりに―――それ以上に愛情を注いで大切に育ててくれた事。


全て思い出した。
そう、確かにシャディは両親を殺したのだ。親の仇である事には間違いない。
だが、自分はシャディではなく、呪われた子である自分自身をを恨んでいた。寧ろ恨まれるべきは自分であると考えていた。シャディもまた、自分の出生による犠牲者だったからだ。
シャディはそんな自分を恨むどころか愛してここまで育ててくれた。他の兄たちも然り。
何故過去が抜け落ちていたのか。兄たちが何故過去について頑なに閉口していたのか。そしてその時に何故あんなにも悲しそうな表情を見せるのか。
それは全て兄たちが、己を恨まぬようにと封じてくれたからだ。兄たちとて後ろめたさがない筈がない。罪悪がない訳ではない。だが、全てが自分の為だった。
そしてシャディは、自分が殺しに来る覚悟まで決めていたのだ。
スマイルやアッシュが必死で止める行動に出たのも、真実を知らずとも分かっていたからだろう。
だが、自分はシャディを信じられず、周りの全てを裏切り、そして――――

「うわああああああァァァァァァァァ――――ッッッッッ!!!!!!!!」

涙で視界が霞む中必死で兄の姿を捉え、取り押さえる様にして自分を抱き締めていたスマイルとアッシュを振り解くと躓きそうになりながら我武者羅に駆け寄る。
突然のユーリの行動に一瞬状況を理解出来ず硬直したスマイルとアッシュも、リィエルが記憶を完全に戻したのだと察するとすぐにその後を追い傍らに膝を付いた。

「兄様…兄様…ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

リィエルに代わってその身体を抱き締めた時には、既に体温が失われていた。
夜の眷族の頂点に立つ吸血鬼は、銀で心臓を貫いたところで確実な死こそ約束されるものの、すぐに死に至る事はない。
だが、シャディの衰弱ぶりは死の足音がすぐ其処まで迫っている事を物語っている。
それでも、彼は懸命に腕を伸ばして最後の力で弟たちを腕の中に抱き締めた。

「…全てを知って、まだ、俺を兄と…呼んでくれるのか…」

ユーリの手により討たれたというのに、シャディのユーリに向ける眼差しは慈愛に満ちている。全て覚悟の上だったのだ、己自身がそう仕向けたというのに何故弟を責める事が出来ようか、と。
そうだ、何故忘れてしまっていたのか。兄は敬愛こそすれ呼び捨てにして然る存在などではなかった。敬愛の心を忘れ、死の際まで兄と慕い呼ぶ事が出来なかった事を悔やみユーリは項垂れて大粒の涙を零す。
次にシャディはリィエルへと視線を静かに移す。

「…リィエルも…、お前に全てを背負わせる事になって…すまない…。…今まで、辛い思いをさせたな……」

優しく頭を撫でながら告げられる兄の言葉に、リィエルは唇を噛み締めながら黙って頭を振った。吐き出したい言葉は全て押し殺された嗚咽となって口から零れ出す。
一度口を開いてしまえば泣き叫んでしまいそうだった。
ごめんなさい、僕のせいで、という言葉すら紡ぎ出す事が出来なかった。

「…兄さん…っ」

「…お前が泣くのを見るのは二度目だな…」

ギルディが耐え兼ねて兄を呼びながらその首筋に顔を埋め身体を小刻みに震わせる。
兄弟で一番短い彼の髪をくしゃり、と撫でながらシャディは目を細めて微笑んだ。彼の言う一度目は勿論、ギルディの半身であるリィエルが死の危機に晒された時の事だ。

「お前を…何も背負う事のない辛さで苦しませてしまったな…。そして…三男だというのに兄弟全員の家事から何からと世話を焼かせて…、長男失格だ…」

「そんな事…、…っ言わないでくれ…!…俺は幸せだったんだ…、兄さんとリィエルがいて、ユーリがいて…!ただ…、っただ…それだけで……」

声を荒げて頭を振りながらギルディは兄の言葉をはっきりと否定する。寡黙な彼が此処まで取り乱す姿を見せる事は殆ど無い。
普段は変化の乏しい表情の彼が、これ以上にないと言う程に顔を歪めて泣き叫んでいる。

ユーリ、リィエル、ギルディ。シャディの弟たちの全てが、徐々に弱まっていく兄の抱擁に対して彼の生を繋ぎ止めるかの様にきつく抱きすくめ、銘々に声を上げて泣き叫んでいる。
それ程にシャディは、兄弟たちの中で大きな存在だった。

そして、シャディはアッシュとスマイルに視線を向ける。その目には光は殆ど残されておらず、向けられている視線も縋る様な色を帯びていた。
アッシュとスマイルはシャディの思いを汲み取ると顔を見合わせて頷き、

「此処までになってまで…これを止めようとしてくれたのだな…。俺の自分勝手にお前たちも巻き込んだ事…、すまないと思っている…。だが、有り難う…ここまで愛してくれるお前たちがいれば、これも幸せだろう…」

アッシュとスマイルの傷や疲弊ぶりからユーリの為に身体を張った事を悟ったシャディは、ユーリの頭を撫でて示しながら謝罪と感謝の意を述べる。
当然、二人は驚きを隠せない。何せシャディのユーリの溺愛ぶりといえば、やれユーリに近付くなだの、妙な事をしたら殺すだのといった事しか言われた事がない程だ。二人が自分の大切な弟を奪ったと言わんばかりの態度で、恨まれこそすれこの様に感謝をされるとは思ってもみなかった。
その強気な彼からは考えられないその発言はまるで最期の花向けの様で、アッシュとスマイルの目にも自然と涙が浮かぶ。
寧ろユーリを生み此処まで育てた上、罪に苦しみながらもユーリを想うが故に此処まで行動した彼に対して感謝するべきは自分達の方であり、完全な和解と同時に訪れる別れに胸が押し潰されそうになる。

「そんなの、アンタらしくないっスよ…」

「そうだヨ、あんなに僕たちを敵対視しといてお礼だなんて…、気持ち悪い…っ」

その言葉を素直に受け入れてしまえば、たちまち彼の命は尽きてしまう様に思えた二人は、各々に否定の言葉を発する。
シャディはその言葉に隠された真意を受け取ると安堵の表情を浮かべながら目を閉じて微笑み、ぼつりぼつりと過去を懐かしむかの様に言葉を紡いだ。

「…Deuil……、良い名だ…、テレビでもライブでもお前たちの姿を見守っていた…。俺はこれでも、お前たちを信頼して…これを託したのだ…。…お前たちなら、幸せにしてくれるだろう…と……」

そうして再度目を開いた彼は、改めてアッシュとスマイルに縋る様に視線を向ける。先程までとは違い、真剣に物を頼む表情だった。

「これを…ユーリを頼む…。気丈に見えて繊細なのだ…、…俺の亡き後も…支えてやってくれ…」

「…分かり、ました…」

アッシュは死ぬだなんてそんな、と反論しようとしたものの、射抜く程に真剣なシャディの視線に結局それを飲み込む事しか出来ず、顔を悲しげに歪めたまま頷いて肯定の言葉を口にする。
スマイルも未だ泣き続けているユーリの肩を抱きながら、ユーリの事は任せて、と真剣な表情で頷いてみせた。

「それと、アッシュ…」
作品名:紅月の涙2 作家名:侑莉