待宵メロドラマ
「この間の誕生日に、ミクちゃんが買ってくれたんだ!ルカちゃんの樹は、……っ!」
あからさまに「しまった」という顔でオロオロするお姉様と、突然出てきた自分の名前に呆けている私は、暫く無言で見つめ合う。それから少し時間を置いて、小さな小さな声で「絶対に内緒ね」とお姉様は呟いた。立ち上がって縁側から外に出ると、側に置いてあったついたての裏側から出てきたのは、フィルムの掛けられている鉢植え。
「今日のために、レンと買ったの。……ルカちゃんの樹だよ」
「私の、……!」
手渡された鉢植えは、思っていたよりずっしりとしていて、私は慌てて抱え直す。両腕で抱えると、ちょうど樹のてっぺんが目線の高さくらい。パッと見は園芸用だけれど、きちんと育てれば結構な高さも期待できそうだ。私は名前も知らない樹(プレゼント)を、ぎゅうっと抱きしめた。……降り積もった感情が、ゆっくりと溶けていく。お姉様たちは、今日を待っていてくれた。私は、……ここにいてもいいのだと。
「実はね。ミクちゃんも、カイトお兄ちゃんから樹を貰ったんだって。それでリンたちにもプレゼントしてくれたってきいて……リンたちも同じようにしようって話して決めたの。本当はレンが帰ってきてから一緒に渡すつもりだったんだけどね。……あと、これも先にプレゼント」
笑うお姉様が手渡してくれた小さな袋からは、薄桃色のリボンが出てきた。それを無意識に、ぎゅうっと握り締める。焦っても樹は伸びるわけじゃない。でも、「早く伸びますように」と、高め合って競争することは、決して悪いことじゃないから。たくさんの光と水を浴びて、ゆっくり成長すればいい。私がずっと欲しかった答えは、きっと、そんな簡単なことだった。
受け取ったリボンを樹のてっぺんに結ぶ。もう少し下に付けないの?と隣で微笑むお姉様に、私はいっぱいの笑顔を返した。
「これで、いいんです」
丁寧に蝶々結びにしたリボンが、風にのってふわりと揺れる。これでいいの。だって、お姉様と“お揃い”ですもの。私だけの大切な想いは伝えずに、そっと温かな桃色を指で撫でた。