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待宵メロドラマ

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※各方面から影響を受けているような気がしますが、気のせいということにしておいてください……(苦笑) また、モジュールの公式とは一切関係ございません。予め、ご承知おきくださいませ。

☆満足ノ奨メ (ブルームーンと藍鉄の話)

「顔上げろ、……藍鉄」

ぴくりと睫の先が揺れて、視線だけが上を向く。真っ赤に染まった目尻に、どうしようもなく欲情した。もどかしくなって、顎の先を捕らえると、鼻の天辺に口付けを落とす。それから、そっと柔らかな唇を奪った。

「ん、」
「緊張しすぎ」
「っ、すみません……」

謝ることじゃないと苦笑すると、藍鉄も同じように笑う。こうやって、気まぐれにキスをするのは、初めてのことではないのだが。どうにも慣れませんねと眉尻を下げる藍鉄は、今度こそ俺を見上げたのだった。

「そのうち、慣れるでしょうか」

青さんが吃驚するほど、上手になってみせますね。意気込みは立派だが、……それはそれで困る気がする。やっぱり、お前はそのままでいいと囁いて、再び強引に口を塞いだ。わざと音をたてて触れた後、舌先で下唇を撫でる。ふるりと震えた肩を撫でるように押さえつけて、それを滑り込ませた。

「……あお、さ、」

縋る指先を絡めとりながら、ゆっくりと歯をなぞる。おずおずと差し出された舌を吸えば、身体が従順に跳ねた。

暫くすると、僅かな水音にさえ反応していた体から、緊張が薄れてきたのか、強張った腕がするりと背中に回る。ぎゅうとシャツを握った後、藍鉄の指は撫でるように背中をゆるりと這った。おい、鉄。唇を離して軽く抗議してみるものの、それは、すぐに続く行為によって無効になった。踊る指先は、腕を伝ってベストの内側に滑り込む。そして、胸元のポケットの上で、ピタリと止まった。絡めていた舌を解くと、口元を拭いながら、藍鉄は困ったような眼差しでこちらを覗き込んで、

「青さん、コレはなんです?」

“それ”を摘まみ上げた。

「ゲッ……」
「げっ、じゃありませんよ。……いつから吸っていたのですか?煙草なんて」

一応、しらばっくれようとしてみるのだけれど。青さん、と。再度咎めるように呼ばれてしまって、俺は渋々「一ヶ月くらい前」と重い口を開く。

そう、ちょうど一ヶ月ほど前、ローレライと仕事をしたのだ。その時に、「一本吸ってみる?」と茶化されたのが、きっかけだった。それ以降、やめるタイミングを失ってしまって、気まぐれに買っては火を灯して紫煙を燻らせている。

「僕たちに、年齢制限は有って無いようなものだとしても、煙草は喉に良くないと聞いたことがありますよ。体にだって」
「…………知ってる」

藍鉄は、そんなしょぼくれた俺の髪を、いつもと変わらない優しい手つきで撫でた。やめないのですか?とたずねる声に、俺は黙り込む。きっと、簡単なんだ、やめることなんて。けれど、手の届く場所にあったら、また火を点けるだろうとも、思う。あのひと(ローレライ)は、俺に言った。

「口寂しそうに見える、ってさ」

足りないものは、満たしたくなる。それが本能なのだと。


箱をまじまじと見つめていた藍鉄は、ふとにっこり微笑んで。徐に一本煙草を抜き取ると、どこからともなく取り出したライターで、火をつけたのだ。そのライターは、ケースと一緒に俺が持ち歩いていたもので、そっちも抜き取っていたのか!と気付いた時には、全て時既に遅し。火をつけた煙草を、口に咥えた。

「ッ鉄!おま、なにやってんだ!ばか!」

げほげほと激しく咽る藍鉄の手から、それを奪い取る。痙攣時と同じように、大きく上下する背中を、俺は必死に擦った。呼吸を整えながら、目尻に滲む雫を拭う。煙いですねと、藍鉄は苦笑した。

「僕も、……少し、口寂しかったもので」
「……満足したか?」
「いいえ、全く」

青さんはいかがですか。その微笑みが蠱惑的に思えて、俺は生唾を飲み込んだ。足りないものを満たそうとする、それが本能なら。その方法は、案外にもずっと側にあったのかもしれない。

「すぐにもう満足だって言わせてやる」
「ははっ、それは楽しみですね」

頬を撫でる藍鉄の指を、強引に絡め取った。

*

玄関のドアを開けて、まっすぐ部屋へ進むと、そのままの足で煙草の箱を放り投げる。それは綺麗な弧を描いて、ゴミ箱に収まった。読んでいた雑誌から目を上げた黒は、箱と俺を順番に見やって、「捨てるの?」と首を傾げる。

「見えてたのか」
「一瞬だけ。まだ残ってるんじゃないの?」
「あー…………タバコ、もう必要なくなった」

苦笑した俺に、黒は更に深く首を傾げたのだった。
作品名:待宵メロドラマ 作家名:四季