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ラブ・プルーフ

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その2



「HE、これはテストであって、試合でも実戦でもないって毎回言ってるよね?」
「今日こそは勝てる気がしたんだよ…」
「はっはっはっ、油断大敵ってな!」
「Mr.武藤も本気にならないで下さいよ!」
 出て来るなりハインツとエリックの挟み打ちを食らったウサは悪びれもしない様子で、
「仕掛けられたら応えない訳にはいかないだろう」
 と、堂々たる武藤の言い訳に盛大なため息をついてハインツは頭を抱えた。武藤の豪快な笑い声が室内に響く。同じくため息をついたエリックは肩を竦めて、テストは終了だと告げた。
「トラ」
 二人に解放されたウサは足早にトラに駆けよってくると、もう大丈夫なのかと真剣な眼差しで聞いてくる。てっきり気を逸らされた事を咎められるかと身構えていたので、トラは応答に遅れてしまたった。
「…あぁ」
「そうか、良かった」
 そう言ったウサの表情は明らかに緩んで、す、と指先が伸びてくる。けれど頬に触れる直前で、トラの背後から衝撃が襲った。
「よう、HK! 来てたのか!」
 ばしんばしんとトラの背中を力強く叩くのは、武藤だ。身長はウサと変わらないのだが、体格があるためパワーがあった。見た目以上に重さのあるトラでも、衝撃で身体がよろめく。
「Mr.ムトー、こんにちは」
 ぺこりとお辞儀をしたら不意に腰を引かれて、トラはウサに引き寄せられた。自然、ウサに凭れる格好になってしまったが抵抗もせずそのままにしていると、へぇ、と武藤が意味深に笑う。バーナビーの笑顔の雰囲気と、似通っている気がした。
「次こそは勝つぞ、ムトー」
「ま、頑張れよ」
 唸る様に言ったウサとは対照的に、応える武藤の声は軽い。大柄な体躯に似合わぬ白衣を羽織ると、ひらひらと手を振ってテストルームを出て行ってしまった。開いたドアが閉まるのと同時に、ウサの腕の力が緩む。
「それでお前、こんな所まで何の用だ?」
 顔を覗き込まれて、今度ははっきりとウサと目が合わさる。そこでトラは、ようやく本来の目的に思い至った。

「マスターから経緯は聞いた。私がウィルスに感染した所を、助けてくれたのはウサだと」
「厳密に言うと、オレがしたのは応急処置みたいなものだけどな」
 手合わせで乱れたシャツを直したウサが、ジャケットを羽織る。なんでもない事の様に言うが、ウィルスに感染しているアンドロイドにアクセスするなど、例えトラにハッキング機能があったとしても躊躇う荒技である。下手をすれば自分にも危険が及ぶ可能性があったはずだ。用途やスペックが違うとは言え、同じアンドロイドとして尊敬の念を込めてトラはウサを見つめた。
「だがウサの処置のおかげで、早く復旧できたとマスターが言っていた。ありがとう、ウサ」
 口元を緩めて微笑むように笑う。感謝の気持ちを表したつもりだったのだが、ウサは難しい顔をして胸のあたりを押さえた。
「……やっぱり、これがそうなのか?」
「ウサ?」
「出るぞ」
 拒否権など無いように強引にウサに腕を引かれてテストルームを後にする。去り際、ハインツとエリックが手を振るのに、トラも振り返しておいた。

作品名:ラブ・プルーフ 作家名:くまつぐ