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病み六花の自己中が解放される時 前編

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 病気の重い症状を看護師から聞き、場合によっては危篤に陥る可能性もあると知り、すぐにヒヨリを呼ばなくてはと使命感にかられたのだ。
 運良くお婆ちゃんは携帯電話を持っており、そこに載っていたアドレス帳からヒヨリにあたる人物へ連絡を取れた。
 しかし――。
「大変失礼ですけど、その話が嘘じゃないって、ちゃんと証明できますか?」
 警戒された。
 世の中には親戚や家族が入院したと言って、親族をダシに詐欺を働くような手口もある。いきなりお婆ちゃんが病院へ、なんて言われても、きっと疑いを持つのも当然のことで、それを晴らすのに時間がかかってしまった。
 辛抱強く事情を話して聞かせていき、やっとの事で話を信じてもらえた。
 両親を引き連れ、すぐに駆けつけるとの事だ。
 どうやらヒヨリとはお婆ちゃんの孫にあたる子で、今は中学生らしい。近頃は顔も見ていなかったせいで、自分のことが恋しくなっていたのだろうとヒヨリは電話で言っていた。
 病院の入り口でヒヨリを待ち、まもなく母親を連れた彼女が現れたことで、ようやくマナはこの場を離れることが出来た。
 ここまでくれば、もう自分に出来ることは残っていない。
 あとは孫の顔を見て元気をつけるのが一番だ。
 家族で笑顔になれますように。
 そして……。
(待たせてゴメンね。六花)
 マナは待ち合わせ場所へ向かって、全速力で駆け出した。
 だが、救急車で遠く離れた病院からでは、待ち合わせの駅までにはかなりの距離がある。ただでさえ時間を消費していた中、やっと駅が見えてきた頃には――

 ――既に二時間が過ぎていた。

     *

 六花はその場で体育座りになって、組んだ両膝に顔を埋めていた。
 そうでなければ、涙で濡れた顔をそこら中の一般人に見られてしまう。いや、傘もなくこんなところにうずくまっていては、やっぱり目立っているだろう。
 しかし、マナは必ず来るはずなのだ。
 顔さえ隠せて入れば、あとはどうでもいい。
「六花! ゴメン!」
 やっと、マナの声が聞こえてきた。
 すぐ目の前までやって来て、マナがゼェゼェ息を切らせているのが音でわかる。世紀の大遅刻を取り戻そうと、きっと大急ぎで走って来てくれたのだろう。傘なんて持っていないから、マナだってずぶ濡れに違いない。
 だけれど、顔が上げられない。
 涙ぐんだ顔なんて、見せられっこなかった。
「マナ、遅いよ……」
 六花はただ声だけを絞り出す。
「本当にゴメン、倒れたお婆ちゃんがいたから……」
 それだけで、十分にわかった。
 六花のことなどそっちのけで、マナは困った人の世話をしていたのだ。
「結局、人助けなんだね」
 涙ぐんだ声を、マナに突き刺す。
「放っておけなかったから! だから……」
「私のことは放っておいたクセに! なんで? なんでよ! 他人は駄目で、私だったら困っててもいいの? ねえ!」
 六花は初めて顔を上げた。
 マナの衣服に掴みかかり、頬をつたってアゴから涙を垂らしながら、六花は大きくわめき上げた。
「メールだってしたのに、電話もしたのに、何も返って来ない! ずっと無視してたの? そうなんでしょ?」
 自分は何を言っているんだろう。
 せっかく、遅れてでも来てくれたというのに。
 マナだってびしょ濡れなのに。
 自分の心を叫ばずにはいられない。
「ゴメン、気づかなくて……」
「それじゃあ、私のことは放っておけるんだね!」
「り、六花? 私そんなつもりじゃ……」
 だったら、連絡ぐらい欲しかった。
 何もなく待たされたから、本当は事故にでも遭ったのかもと、心配さえしていた。それが何事もなくピンピンしていた上に、自分よりもどこぞの他人が二時間以上も優先されていたのだ。
 さも申し訳なさそうなマナの顔を見た瞬間から、もう怒りしか沸かなくなっていた。
「マナの……」
 六花は涙に濡れた顔でマナを睨む。
 そして、鼓膜にも響くほど大きな声で、

「マナの馬鹿!」

 怒鳴り散らし、六花はそのまま走り去って行った。

     *

 六花を傷つけてしまった。
 自分はただ困った誰かを助けたかっただけなのに、それが六花を困らせることになってしまっていたのだ。
 六花はいつも言っていた――マナは周りに愛を振りまきすぎだと。
 そうだったのかもしれない。
 涙ながらに叫んで去って行く六花の背中を追えなくて、マナはただただその場に取り残されていた。

 あとで確認すれば、六花からはたくさんのメールが届いていた。

『もう、遅れるならちゃんと連絡しなさい(怒)』
『またどこかで人助け? もう時間は過ぎてるんだから急いでね』
『三十分過ぎたよ? まだなのかなー』
『もしかして、何かあった? いつもの人助けならいいんだけど……』
『ねえ、どうして連絡もくれないの?』

 これほど多くのメールが来ていたのに、お婆ちゃんの容態に気を取られて、マナーモードの振動には気づかなかった。仮に気づいたとしても、救急車や病院の中で電波を飛ばすわけにはいかないから、連絡ができるタイミングは限られていたが……。
 それでも、気づきさえすれば一報入れる機会くらいはあったはずだ。

『本当に事故でもあったの? だったら仕方ないけど……』
『何か連絡もできない状況なの? 無視してるわけじゃないよね?』
『雨降ってきたね。でも、待ってるからね?』

(こんなに六花を心配させていたんだね)
 自分のしたことを思うと、後悔で泣けてくる。

『ねえ、もう一時間以上経ったよ? 寝坊でもした?』
『いつまで待ってればいいのかな……』
『ずっと立ってて足が痛くなってきちゃった。座って待ってるね』
『早くしないと、帰っちゃうよ? 少し冷えてきたし』

 長い長い時間を待たされて、六花はこれだけのメールを書いていなければ、寂しくて仕方がなかったのかもしれない。

『何か怒ってる? だから来てくれないの?』
『私が悪い事したなら、教えてよ』
『ねえ、まだ? マナってば、いつになったら連絡くれるの?』
『マナ? 本当に今どこなの?』
『マナ、早く来て』
『会いたいよ。マナ』
『どこなの? マナ』
『生徒会長が時間を破りすぎだよ? マナさん。早く来なさい』
『マナ? そろそろ来るよね』
『もう一時間半。まだなのかな? マナさんは』
『いつになったら来てくれるのかな。それとも、マナはもう来ないつもり? そんなわけないよね……』
『マナが来るまで待ってるんだからね?』
『マナ? 本当に早く来て?』
『そろそろ二時間。早くマナに会いたいなー』
『マナさーん?』
『来て、くれるよね? 信じれるからね? マナ』

(本当にごめんね? 六花……)

 マナの瞳から、雫が頬をつたっていった。

『もうびしょ濡れ。寒いよ、マナ』

「……ほんとにゴメン」

     *

 翌朝の学校には、六花の姿がなかった。
 朝のホームルームで、風邪で休むとの連絡があったと、担任は言っていた。だけど六花が休んだのは、風邪だけのせいなんかじゃない。いや、そもそも六花に風邪を引かせたのだって、自分のせいじゃないか。

 ――マナの馬鹿!