Wizard//Magica Wish −9−
・・・
「仁…美?」
「っ!!さやかちゃん、なんで!?」
「あら、もう一人の魔法少女がきたのね」
「さ、さやかちゃん!!仁美ちゃんが!!」
何故か、病院に走っていったはずの さやかちゃんが再びここに現れた。きっと、魔力を感じて引き返してきたのだろう。
「『エクステンド』プリーズ!」
「ちょっとおとなしくしてろ!」
「っ!!む、無駄よ!!」
伸びた左手でメデューサを拘束した、だがこの拘束も時間の問題だ。予想以上に奴の力が凄まじい。仁美ちゃんの姿をみた さやかちゃんは俺とメデューサの横をとおり、魔法少女に変身して彼女の傍に駆け寄った。
「美樹さ…あぐぅぅっ!!!!」
「さやかちゃん!!仁美ちゃんがメデューサの毒にやられて!!」
「大丈夫!あたしの魔法ならっ!!」
「っ!!美樹さやか、あなた魔力が…」
「ソウルジェムが穢れてんじゃねぇか!!これ以上魔法を使うのは危険だ!!」
「うぅっ!!…かっ…は…」
「はぁっ…はぁっ…ははっ、色々暴れた付けがまわってきたみたいね…何度ソウルジェムの穢れを吸い取っても、すぐに穢れが溜まるみたい…でも」
「さ、さやかちゃん…」
「もうあたしは嫌なんだ…あたしの勝手で、誰かが傷つくのはもう嫌なんだ!!仁美は、絶対に死なせない!!あたしが仁美の希望になるっ!!!!」
「う…あ……」
「志筑仁美から毒素が抜けていく…あともう少しよ!」
「うぐ…くぅ…」
「頑張れさやか!!あとちょっとだ!!」
「さやかちゃん頑張って!!」
「う……ふぅ……」
「っ!!…はぁ…はぁ…」
「やった…やったぞ!!毒が消えた!!」
「さやかちゃん!ほむらちゃん、さやかちゃんにグリーフシードお願い!!」
「美樹さやか、何も言わずに使いなさい。このままじゃ危険よ!」
「ははっ…悪い、ほむら」
どうやら、さやかちゃんのお陰で仁美ちゃんは助かったらしい。仁美ちゃんは気を失ってしまったのか、意識を失ってしまった。
「あら、そのままじゃ終わらせないわよ」
「っ!しまっ…」
メデューサの覇気で俺の拘束を解き、皆がいる方向へ奴は突っ込んでいった。
「『ディフェンド』プリーズ!」
「無駄よ…残念ね、指輪の魔法使い!」
奴の目の前に岩で出来た防御魔法を発動させた。だが、メデューサの前には何の意味もなかった。奴はスピードを下げるどころか、槍を前に突き出し、突っ込んでいった。
そして、岩は無残にも砕け散り…。
「…っ!!さやっ」
「えっ……っ!!!!」
「美樹さやかっ!」
「さ、さやかちゃぁぁぁぁぁん!!!!」
俺が見た光景、さやかちゃんが仁美ちゃんを庇って背中から胸に槍が突き刺さっていた光景だった。
「あっ…あぁ…」
「さやかぁぁぁぁ!!!て、てめぇぇぇぇぇ!!!!」
「っ!!ぐ…」
完全に我を忘れた杏子ちゃんがメデューサをなぎ払う。メデューサはよろける、だが京子ちゃんが一切攻撃を緩めない。何度も何度もメデューサを斬る。俺はその隙にさやかちゃんの元へ駆け寄った。
「さやかちゃん!おい、しっかりしろ!さやかちゃん!!」
「さやかちゃん!!ひぐっ駄目だよ!!死んじゃ駄目だよぉ!!!!」
胸から大量の血が流れ落ちる。心臓と肺が一緒にやられたのだろう。それと同時にソウルジェムがありえない速度で穢れが溜まっている。魔法の連続使用による後遺症だ。このままでは魔女になってしまう!!
「ほむらちゃん、グリーフシード!!」
「駄目…吸い取ってもすぐに溜まっていくわ…」
既にほむらちゃんの足元には穢れが溜まりきったグリーフシードが何個も落ちていた。それほど穢れが溢れ出しているのだろう。まさか、さやかちゃんは自分が死ぬということを受け入れているのか!?
「駄目だ さやかちゃん!君は死なない!!生きる事を諦めるな!!」
「……は…ハル…ト…」
微かに聞こえるさやかちゃんの声。今にも無くなってしまいそうな弱りきった声だ。声を出すのも精一杯なのだろう。
「こうなったら…もうこれしか…」
懐から「エンゲージ」の指輪を取り出す…だが、これを使ってしまえば確かに さやかちゃんの中に眠る魔女を「プリーズ」の指輪で浄化させ、穢れの進行を食い止めることができる…だがそれと同時に さやかちゃんは眠りに陥ってしまう。
「は、ハルトくん?」
「駄目だ…この指輪は…使えない」
せっかく、さやかちゃんは自分の幸せを見つけ出すことができたのに…俺はまた、奪い取ってしまうのか?
「迷わないで!ハルトくん!!」
「っ!…まどか、ちゃん?」
「例えさやかちゃんが眠っちゃっても…ひぐっ…このまま魔女になっちゃったら、それこそ希望が無くなっちゃうよ!!」
「まどか…」
「お願い!さやかちゃんを救ってあげて!さやかちゃんは、私の大切な友達なんだよ!!」
まどかちゃんが顔が涙や鼻水でぐちゃぐちゃになりながら俺の肩を何度も揺さぶる。…そうだ、もうここまできてしまったら、助けることができるのは俺一人しかいない。
俺が、皆の希望にならなくてどうするんだ!!
「さやかちゃん…ごめん」
俺はさやかちゃんの右手の中指に「エンゲージ」の指輪をはめ込む。そして自分の腰のベルトを操作した。
「まどかちゃん、本当に良いんだね?」
「…うん…ぐすっ…お願い!」
「わかった…さやかちゃん」
「………。」
苦しそうな息をしながらさやかちゃんは俺を見る。その目にはもうほとんど光がない…迷っている時間は、無い。
「大丈夫、俺が最後の希望だ」
「『エンゲージ』プリーズ!」
さやかちゃんのソウルジェムに魔法陣が出現し、俺はその中に飛び込んだ。
記憶の中に潜り込む。
このままでは終わらせない。
俺は、絶対に希望を救い出す!!
作品名:Wizard//Magica Wish −9− 作家名:a-o-w