Wizard//Magica Wish −9−
「あ、ハルト!!丁度良いところにきた!!」
「ハルトくん!!」
「あっ…杏子ちゃん、まどかちゃん。」
丁度、山道を抜けて市街地を歩いていたとき、目の前に3人の少女の姿を見つけた。案の定、杏子ちゃんと まどかちゃん、ほむらちゃんの3人だった。意外にも早く合流できておれは少しほっとする。
「さっきね。さやかちゃんのお母さんから連絡入ったんだ。さやかちゃん家に戻ってきたって!」
「全く心配させやがって…今までどこにいたんだか!」
「けど変ね…話を聞く限り、美樹さやかの体は比較的正常らしいわ。魔法を使えば穢れや疲労も溜まる筈なのだけど…戦闘していた訳ではない?」
「ま、いいんじゃない?見つかったのなら。俺はもう疲れたよ」
「そういえばハルト、お前この山で何をしていたんだ?」
「あ、えっと…さやかちゃん探していたけど、見つからなかった」
…と、適当に嘘を言ってみる。対面していたという事は黙っておこう。色々聞かれたら厄介だし。
「そうなんだ…けど、本当に見つかって良かったよぉ。私もうヘトヘト…」
「今日はもう遅いわ。各自退散しましょ。まどか、近くまで送っていくわよ?」
「うん、ありがとう ほむらちゃん。暗くてなにも見えないから助かるよ~」
「あたしたちも帰ろ、ハルト」
「そうだね…二人とも、気を付けてね」
とりあえず、今はもう遅い時間になってしまったため明日に備えて今日は解散することにした。今は雨が降り止み、傘をささなくても全然問題ない状態だ。まどかちゃん と ほむらちゃんは俺たちと反対方向へと向かって歩いていく。結果、俺は杏子ちゃんと二人きりになった。まぁ行き先は同じなのだが。
「いや~、さやかちゃん見つかってよかったなぁ。たぶん、気を紛らわす為に散歩してたんだよ、きっと。」
「あぁ…」
「全く相変わらず人騒がせな子だな。今度お仕置きを考えておかないと。杏子ちゃん、その時は手伝ってよ」
「あぁ…なあ、ハルト」
「何?杏子ちゃん」
「お前、何か隠してないか?」
並列して歩いている最中、突然杏子ちゃんが大きな目をこちらに向けて俺に問いかける。何故、人というのはこういう時に限り感が鋭いのか。若干俺の体がビクついた。
こうして間近で見ると、彼女はとても綺麗で真っ直ぐな瞳をしている。目も透き通っていて…まるで、ルビーのようだ。
「えっと…何が?」
「とぼけても無駄だぞ。一体どれだけ一緒にいると思っているんだ?ハルトって嘘つくと絶対に人と視線合わせない事ぐらいもう知っているぞ?」
「あっ…」
「さて、教えてもらうぞ。まさか、本当は さやかと会っていたんじゃないか?」
なるほど、何もかもお見通しって訳か。ちなみに全部正解だ。どうする?よく考えればそんなに隠す程の事でもないのだが。ただ、暗闇の山道の中で口付けをしていただなんて…死んでも言えないな。ここは流石に曖昧にしておこうか。
「ごめん、杏子ちゃん。本当はあの山に さやかちゃんがいた。俺は使い魔と戦っている さやかちゃんを見つけ出していたんだ」
「やっぱり!なんで私達を呼んでくれなかったんだよ!すぐ駆けつけたのに」
「さやかちゃんも結構病んでいたからね。大勢で会ったらきっとまた混乱しちゃうと思ってね。まあ結局最後は俺がしくじって余計怒らせちゃったんだけどね」
「まぁ…そんだけ戦えて怒れる元気があるっていうなら、大丈夫だろ」
杏子ちゃんは懐から棒キャンディーを取り出し、袋を綺麗に取り口の中に突っ込んだ。旗から見れば加えタバコのようだ。
俺はあくびをしながら杏子ちゃんの後を歩く。今、瞼を閉じてしまえばこのまま眠れそうだ。そういえばこの世の中には歩きながら熟睡できる人が存在するらしい。もしかして俺もできるんじゃないだろうか?
「ふあぁ…物は試しだ」
「…?何やってんだ、ハルト」
俺は瞼を閉じ、歩きながら寝る体勢へと以降する。視界は黒一色になり、自分が前に向かって歩いているという事柄しか感じ取れない。
次第に耳から入っていく雑音が聞こえなくなっていく…。
永遠の闇が脳裏に広がり、今、この世界には自分一人しか存在していない。
あぁ…気持い。脳が休む瞬間が最高に良い。
体は相変わらず動いているが、次第に別個体のように感じていく。
たまに杏子ちゃんの声が聞こえてくる…が、今は全く聞こえない。
よし…この感じだ。
いいぞ、このまま眠ることができる!
もしかしたら俺もテレビとかメディアに報道される日が近いかも…っ!
−ばしゃんっ−
「…っ!!?」
「あ~あ、だからさっきあれだけ言ったのに…」
急に足元が地面を踏み外し、体のバランスをぐらつかせた。俺は一気に目が見開き、今の状況を理解しようとする。だが、考える必要も無かったみたいだ。
「冷たい…」
「そりゃ路肩に落ちればな…」
俺は、ブロック塀と道路の隙間にある排水路に足を踏み入れていたのだ。靴の中に水が侵入し、靴下が濡れてびっちゃびちゃになっていく。
「…決めた。今度から歩いている時は絶対に寝ない」
「それが普通だよ…馬鹿」
・・・
途中、俺たちはコンビニに寄り夕食替わりに大量の惣菜を購入した。正直、俺に料理をするスキルは非常に乏しい。毎日卵焼きか炒飯ばっかり作っていれば流石に飽きてくる。勉強してレパートリーを増やせば良いと、以前ほむらちゃんに突っ込まれたが、向上心のない俺は書店で試しに立ち読みしてみる、という発想にすらたどり着かない。
「はぁ…マミの手料理が食べたい」
「贅沢言わないの。そうだ、杏子ちゃんが自分で料理作れば…」
「私は沢山食べても料理はしないんだよ」
「あ、そ…」
残念ながら、杏子ちゃんの手料理を食べれるようになるのは当分、いや今後永劫になさそうだ。俺は買い物かごをレジに持っていき会計を済ます。かごの中に菓子類が紛れ込んでいたが俺はあえて知らない振りをしておく。
俺たちは両手に買い物袋を持ち、外へ出た。
「まだ雨は降らなさそうだな。早く帰らないと」
「そうだね。せっかく買ったのに濡れちゃったら意味ないもんね」
お互い、自然と足早になる。ここからマミちゃんのマンションまではそこまで距離は離れていない。数十分も歩けば到着する距離だ。
「ハルト、歩くのおせ~ぞ!」
「杏子ちゃん、それもはや歩いてないよ。ジョギングじゃん」
自分の数歩分先に歩く杏子ちゃんを追いかける。
「なぁハルト」
「何、杏子ちゃん」
「さやか…やっぱり元気なかったか?」
「え?」
突然、隣りを歩いていた彼女から出てきた言葉、その言葉には普段の活気のある勢いはなく、どこか悲しげに聞き取れる。きっと、杏子ちゃんは俺以上に さやかちゃんのことが心配なのだろう。
「まぁね。ちょっとだけ、周りの状況が理解しきれなくて、パニックになってるんだよ」
「なんでだ?さやかに、一体何が起きてるんだ?」
「杏子ちゃんってさ、誰かを好きになったことってある?」
「えっ…私、か?」
杏子ちゃんは腕を組んで考え込む。きっと、彼女はそんな難しい感情を考えた事はないだろう。でも、杏子ちゃんにもわかってほしい。さやかちゃんが、何故こんなにも苦しんでいるのか、理解してほしいのだ。
作品名:Wizard//Magica Wish −9− 作家名:a-o-w