Wizard//Magica Wish −9−
「……気持ち悪い」
私はまだ覚醒しきれていない体を無理やり起こし朝を迎える。カーテンを開けると久しぶりに外は晴れていた。けど、私の中は今だにどす暗い曇天に覆われているようだ。昨日は親にがっつり叱られた。いつもどおりに聞き流したけど…。
パジャマを脱いで、私服を着る。今日はどちらにしろ学校は休みだ。制服を着る必要なんてない。
「…っ…」
あの時、私は勢い余ってあいつ…ハルトにキスをしてしまった。あれが私の初めてだ。軽く唇を自分の指でなぞってみる、キスをするって、あんなにドキドキすることだったんだ。本当は…恭介としてみたかった…けど、こうでもしないと…私の中から恭介は消えてくれないんだ。ハルトには悪いことしてしまったと思うけど。
−ガンっ−
「え…」
急に、私の部屋の窓に何かが当たる音が響き渡った。風に乗って何かがぶつかったのだろうか?
−ガンっ−
「いや、違う」
また、窓に何かが当たる。自然ではなく、意図的なものらしい。恐る恐る私は窓を開けて下を覗いてみた…すると、そこには3人の人影が見えた。見知った服装…間違いない。
「杏子…?」
「ひっさしぶりだな!さやか!!ちょっとつらかしなっ!!」
「杏子ちゃん!近所に迷惑だよ!」
「……。」
「まどか に ほむらまで…」
私は杏子に言われた通り、下の階に降りて外にでる。日光が眩しく、ほのかに生暖かい。
「ちょっと話しがある。着いてこい」
「えっ…」
「大丈夫だよ、さやかちゃん。別に私達怒っているわけじゃないから、ね?」
「そ、そう…なら」
一体、杏子達は何をするつもりなんだろうか。あれ、そういえば、こんなシチュエーション前にもあったような…あれは、私が魔法少女に成り立ての頃だ…。
・・・
山道を私は杏子に連れられて歩く。…懐かしい。最近はよくここで使い魔狩りをよくしていたけど、ここまで奥深く来るのは久しぶりだ。この先には…そうだ、教会があった。
「さやか、覚えてるか?昔、この道を一緒に歩いた事」
「そうね…確か、ここら辺で私はあんたにこう言ったんだ。『後悔してる?こんな身体になっちゃった事を…』ってね」
「そうだ、そしてあたしはこう言ってやった…『ま~いいか、なんだかんだで好き勝手できてる訳で、自分勝手に生きられる。生きていれば全部自分の責任、他人を恨むこともないし、後悔なんてあるわけない』」
「えっと…そんな話してったけ?」
「まどか、あなたはここには存在していなかった筈よ?知らなくて当然だわ」
「あ、そうだよね!って、ほむらちゃん、なんで私がいなかったって知っているの?」
「感よ?感」
「あ、そう…ですか、はい…」
そんな話をしながら、私達は古ぼけた教会に到着した。相変わらず人気がなく、誰も近づけさせまいと全く整備されていない。
教会のドアを開け、私達は祭壇の前に立った。
「へへっ…相変わらず汚いな」
「だったら掃除すれば?あんたも一応神父の子供なんでしょ?」
「あたしはそんな柄じゃないっての!…さて、さやか。聞きたいことがある」
「っ…急になによ」
「おっとその前に…」
杏子は懐から何かを取り出し、それを私に投げつけた。私はそれを受け取る…りんごだ。
「喰うかい?」
「…うん、貰う」
しゃりっと音をたてて私はりんごを一口食べた。…そういえば、前はそのまま投げ捨てて杏子を怒らせたことあったっけ。
「ここ…」
「ここは、佐倉杏子の父親の教会だったところよ、今は使われていないけどね」
「そうだったんだ…」
杏子は祭壇に立ち、私は自然とその前に立つ。こうして見ると、杏子が様になって見えるから不思議だ。こんなんでも、黙っていれば聖母のように見えなくもないんだけどね。絶対口では言えないけど。
「さやか、単刀直入に聞く。お前は一体何を悩んでいるんだ?」
「っ!…あんたまで…」
「悪いな。お前が気にしているってことはわかっている。けど、言葉にしなきゃなんにも伝わらない…頼むよ」
気乗りがしない…何かと思って着いてきた私が馬鹿だった。どうせハルトに頼まれたのだろう。馬鹿馬鹿しい、帰るとするか…。
「逃げないでっさやかちゃん!」
「まどっ…」
振り返ると まどかが両手を広げて私の進行を拒んだ。なんで?どうしてそこまで必死になって私を止めようとするの?理解ができない…。
「まどか、なんで…」
「私達、親友だからだよっ!」
「えっ」
「親友の悩みは、私の悩みでもあるのっ!だからお願い、現実から逃げないで!さやかちゃん!!」
「まどか…」
「感謝するのね…。こんなに他人の為に真剣になってくれる友達なんて、人生に極数人しかできないわよ?」
「ほむら…」
「いい加減、白状したら?その方がすっきりすると、わたしは思うけど」
「そっか、…そうなのかな」
ちょっとだけ、自分を取り戻せた感じがした。私は、今まで何を見てきたのだろう。ずっと一人だって、考え込んでた。けど、振り返れば仲間がいて…親友がいて…私は一人じゃなかった。杏子達に話してどうなるかって問題じゃない。けど、杏子達もわかっているんだ。同じ、魔法少女なんだから。
「ありがとう…まどか」
「さやか…ちゃん?」
「ちょっと、目が覚めたよ」
また、祭壇へ振り返る。もう、一人で抱え込まなくて良いんだ。全て話そう。いつもはふざけた奴だけど、杏子は一体どう受け止めてくれるのか…。心のどこかで期待している自分がいる。
「杏子、昔さ…二人でここに来たとき、私はあんたに向かって断言したの覚えてる?私は人の為に祈った事を後悔してない、この力を使い方次第でいくらでも素晴らしいものにできるはずだからって」
「そうだったな…たしかその時に盗んだりんごだって突っ込まれたっけ…へへっ」
「けど…結局、何もかもあんたの言うとおりだった。希望を願った分だけ同等の絶望が撒き散らされる、だから他人の為にじゃなく、自分の為にこれ以上後悔するような生き方をするんじゃないって…。私は、仁美と恭介が付き合い始めたと知って、後悔してしまった」
「さやかちゃん…」
「………。」
「あの時、私が恭介の手を直さなかったら、仁美と恭介は付き合わないで、昔のような関係を今も続けていられたと思うとね…自分が腹立たしくて仕方なかった。いくら悩んでも過ぎてしまったことだと思って私は現実を受け入れ、一時的に感情を押さえていた。けど…」
「突然、恭介の奴に告白されて…一気に溜め込んでいた感情が爆発しちまったて訳か」
「ほんと、私って子供よね。そんなことしても意味無いって頭の中では解っているのに…けど、もう遅いんだよ。私は人間じゃない…魔法少女、いくら傷ついても魔力で修復することができる…化物になっちゃったのよ。そんな私が、恭介を…人間を愛することなんて…」
「それは違うぞ?さやか」
「えっ…」
「正直、あたしは人を愛したことなんて無い…けど、昔、親父に教わったことが一つだけあるんだ」
杏子は目を瞑り、自分の手を握り始めた。すると同時にステンドガラスから太陽の光が杏子に降り注がれる。
「きれい…」
「…あ…」
作品名:Wizard//Magica Wish −9− 作家名:a-o-w