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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 7

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 次第にリョウカも本気になってきたということであろう、剣に迷いがなくなった。
 シンとリョウカは一度距離を置いた。そして、互いに大声を上げながら駆け、すれ違いざまに剣を振るった。
 刃のぶつかり合う音と共に閃光が煌めいた。
 背中合わせとなったシンとリョウカ、先に膝を付いたのはシンだった。
 シンは首筋に新たな傷を作っている。リョウカは確実に首を斬ろうとしていた。とっさにリョウカの手元が狂わなかったら確実に首を落とされていた。
 一方リョウカの方は無傷であった。
 リョウカは無言でシンの元へ歩み寄った。とどめを刺すのかと思いきや、言葉を投げ掛けてきた。
「何故…」
 リョウカは言う。
「何故本気を出さない?」
「何のことだ」
「とぼけるな、貴様さっき刃を止めただろう!?」
 リョウカには見えていた。
 先ほどすれ違う瞬間にシンはリョウカの胴体を斬ろうと身を屈めた。その瞬間にリョウカはやられたと思った。しかし、シンは短剣がリョウカに触れるか否かの所で止めていた。そして今だ、斬れ、とでも言うような目でリョウカを見ていた。リョウカは一瞬戸惑いを覚え、彼女の剣はシンの首筋を掠めるだけに終わった。
「どういうつもりだ?貴様何を考えている!」
 リョウカは怒鳴った。
「だから言ってんじゃねえか…」
 シンは立ち上がり際に短剣を振りかざした。リョウカは横にかわす。
「お前を殺すってな!」
 口ではこう言っているが表情は、目はそんなつもりはまるでないように見えた。
 何か意図があるような、何か特別な思いのある、そんな表情だった。
 ある種の覚悟を決めているようにも見えた。それが何なのか窺い知る間を、シンの剣が塞いだ。
 再び二人は閃光と共にすれ違った。今度は二人とも無傷である。
「くらえ!」
 振り返ると同時にシンは短剣を突き出した。
 リョウカはその瞬間を見切った。
「やあ!」
「うお!?」
 リョウカは思い切り刀を振り上げた。シンの刃を弾き上げ、同時にシンの手から弾き飛ばした。
 シンの短剣は空中で回転し、やがて床に転がった。
 その上を二人の影が覆った。
 リョウカの流れるような連続攻撃をシンは左手の短剣で防御する。しかし、短剣一本でしかも利き手ではない手である、反撃する事もできずシンはどんどん後方へ押し込まれていった。
 とうとうシンは灯台の縁まで押し込まれてしまった。
 シンは後ろを見た。下には海が広がっている。
 リョウカは斬りつけた、しかし、剣は虚空を斬るのみであった。
 かわされた、リョウカが驚いているとシンは後方へ跳んでいた。彼の跳ぶ先は地上の大地である、落ちれば命がない。
 シンは小さく笑っていた。
「っ、シン!?」
 リョウカは目を見開き、刀をその場に投げ、シンの手首を掴んだ。
 シンは宙に吊られるような形になった。
「おいおい、どういうつもりだ?オレを助けるなんて」
「貴様がどういうつもりだ、死にたいのか!?」
「ま、死にたくなけりゃこんな事しねえだろうな…」
 シンは笑っている。
「なあリョウカ、討滅者の端くれなら分かるよな?イズモ村の掟を」
 イズモ村の掟は大きく分けて二つある。
 一つ目は村を無断で出ること、追放とする。
 二つ目は村の平和を脅かす者、死を以て償うべし。
 リョウカにもよく分かっている。
「仮にもお前はオレの妹だ。オレを殺すなんて事、できやしねえだろ?」
「それは…」
 現にリョウカはシンを見殺しにする事ができず、こうして助けている。「お前の手を汚さずにオレは自分で死のう。今まで散々迷惑かけたせめてもの償いだ…」
「シン、やはりだめだ!お前が死ぬなんて…」
「反逆者は死あるのみ、だぜ…」
 シンはリョウカの手を振り払った。
「シン!!」
 シンは穏やかな表情だった。
――リョウカ、お前のその力とあまくもの剣さえあれば、例えオロチが復活しようとも倒すことができるだろう。リョウカ、村のみんなを、姉貴を頼んだぜ――
 シンはゆっくりと目を閉じ、遥か地上の海へ落ちていった。
 ロビン達が異変を感じて駆け寄ると、リョウカは腕に顔を埋めていた。背中が小刻みに震えている。
 泣いていた。あのリョウカが声を押し殺して涙している。
「リョウカ…」
 遠目からでよく見えず、助けが遅れてしまった。駆けつける途中で、シンが落ちていくのが見えた。
 ロビンはかける言葉が見つからなかった。
「本当は…」
 か細い声でリョウカは言う。
「本当は、死なせたくなかった。ずっと、前みたいに…、兄様と一緒にいたかった…。それなのに、どうしてあんな事を…!」
 今、シンの死を以てリョウカの使命はなくなった。それ故に、本当の気持ちが表れていた。
 ロビンは側に転がる、シンの使っていた短剣に気付き、それを拾った。そしてリョウカの側にしゃがみこんだ。
 リョウカは涙で濡れた顔でロビンを見る。
「シンは君が大切だから、自ら死んでいったんだろう?」
 ロビンはリョウカの手にシンの短剣を握らせた。
「リョウカ、君も本当に兄さんを大切に思うなら、これを形見として持っていてやるんだ。きっとシンも喜んでくれるさ」
 ロビンが優しく言葉をかけてやると、リョウカは声を上げてロビンの胸で泣き出した。
 ロビンは一瞬驚き、戸惑ったがそのままにしてあげる事にした。大切な人を失う悲しみは、自分にも痛いほど分かるからだ。
 ロビンはそっと背中に手を回し、優しく叩いた。
「倒したのか、奴らを、シンを?」
 側の階段からガルシアとシバが上がってきた。
「ガルシア、お前まだいたのか!?」
 ジェラルドが言った。
 ガルシアは構わず続けた。
「皆の強さは俺がよく知っている。それを倒すとは…」
 まるで歯が立たなかったサテュロスも、メナーディと互角以上の戦いを繰り広げたシンもロビン達は倒している。ガルシアが戦ってもロビン達には到底かなわない、ガルシア自身よく分かることだった。
 それでもガルシアは剣の柄に手を伸ばす。
「止めときな、オレ達に勝てると思ってんのか?」
 ジェラルドの言葉に、ガルシアは手を止めた。
 ロビンはリョウカをメアリィに預け、立ち上がり真っ直ぐガルシアを見つめた。
「ガルシア、理由を聞かせてほしい。何故灯台を灯そうとする?」
 ガルシアは答えない。
「お前には関係のない事だ」
 こう答えるだけだった。
「奴らがいなくなった今、もう灯す必要はないんじゃねえのか?」
 ジェラルドが訊ねた。
「甘いな、奴らが死んで全てが終わったつもりなら、それは大きな間違いだ」
「しかし、あなたがまだ灯すつもりだとしてもエレメンタルスターが」
 イワンが言った。すると、ガルシアは後ろから紫色の玉を取り出した。
 それはジュピタースターだった。
「風のエレメンタルスターならこの通り、俺が持っている」
 ソル神殿にてエレメンタルスターを奪った時、マーキュリー、ヴィーナス、ジュピターとそれぞれサテュロスが分けて持たせていた。アレクスがマーキュリーを、ヴィーナスをサテュロスが、そしてジュピターをガルシアが持っていた。
 ガルシアはジュピタースターをしまった。