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<メモ>BLACK AVATAR

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仲間 VS 仲間『ゴッドエデン編』



「松風天馬、出ろ」
 ゼロとの戦いから何日が経過しただろうか、うつろに、見知らぬ男が声をかけてきた。
 目がかすみ、前が見えない。
「立て!」
 横になった天馬に、エージェントが無造作に蹴りを入れる。
「うわ」
 しばらく、腹部を抑える。
「うわ!!」
「立てと言っているのが、聞こえないのか!!」
「うっ……」
 腹部が痛い。しかし、そのままでいると、容赦なく、エージェントが暴力を入れた。
 天馬は力なく、立ち上がる。
「さっさとしろ」
 天馬はおとなしく従うしかなかった。

 体がきしみ、目がかすむ。目の前にいる男をかろうじて追いかけるのがやっとだ。
 無機質なコスチューム、そして、二の腕に、ワッペンがかけられている。
 そこには「TS」と刻まれていた。
 「TS」=「トップ S」級という、ゴッドエデン内の天馬の取り扱いだ。
 フィフスセクターの力を借りずして、化身を生み出したものに対して、彼らは個々にランクをつけていた。それによって、教育方法を変え、あるいは、データを取る。
 「S」=「シングルS」、「WS」=「ダブルS」、そして、最上級が「TS」=「トップS」である。
 おそらく、ゼロ戦がなければ、トップの扱いにはならなかった、理由は化身の進化だった。
 倒れたり、そこで立ち止まりそうになると容赦なく、暴力をふるうため、彼は気力をかろうじて持ちながら、進んでいった。
 長い廊下を抜けると、そこはどこかの特訓場だった。
 うつろに見える瞳で、天馬は見覚えがある人物を見つけた。
「剣……城……?」
 剣城は、天馬と同じユニフォームを着て、少しさみしげな眼をして、天馬を捕らえた。
 男たちに突き放され、剣城と少し離れたところに、蹴りだされた。

「はじめろ」
 遠くにいる牙山の一言で、剣城は気を集中した。
 現れたのは彼の化身、剣聖ランスロット。
 戦慄した。しかし、体がそれについていかない。
 そして、

 ロストエンジェル!!

 ボールは天馬を直撃した。
 手加減は全くなかった。かつて、全力で戦った時の剣城そのものだった。
 天馬は防御体制の整わないまま、ボールを直に受け、転倒した。
「続けろ」
 牙山の声が響く。
「はい」
 少し、苦い顔をして、再び化身からシュートを打つ。
「うわぁぁぁぁ!!」
 声を上げて、さらに後方へ飛ぶ。
 化身シュートだけではなく、デスソードやデスドロップ、あらゆるシュートが剣城から出された。
 そして、意識朦朧としている天馬は壁に打ち付けられた。
「はぁはぁはぁ」
 息をするのが精いっぱいだった。
 疲れていても、剣城の攻撃は止まらない。
 そして、天馬もそれを一本も止められない。いや、ボールを捕らえることすらできない。
 短い、しかし、天馬と剣城にとっては長い時間が経過した。
「無理のようですね。先ほどから、一度も、化身の出る反応すらありません」
 牙山のそばにいた火北が状況を報告する。

 『共鳴現象』を利用した化身の覚醒。牙山たちが狙っているのはそれだった。
 化身を進化させたものなど、フィフスセクターおろか、ゴッドエデンにもいない。
 ここで、天馬から『進化した化身』のデータをとること。それが彼らの目的だ。

 だが、その様子を見ているのは、牙山たちだけではなかった。
 モニター越しに、雷門イレブンは、この姿を別々な場所で見せられていた。
 小さな部屋に2〜3名。同じユニフォームに着替えさせられ、同じ映像を見せられていた。
 ベッドもない、単なる「物置小屋」である。
 その中で、モニターに「シードである仲間」である二人が映し出されている。
「ちょっと、剣城君、手加減してやれよ」
 見ていて、味が悪くなったのか、仮屋がいう。
 その部屋には仮屋のほかに神童と霧野がいた。
「したくても、できないんだろう」
 霧野がさみしげに言う。
「他人事じゃないぞ。俺たちもああなる可能性がある」
「恐ろしいこと言わないで下さいよぉ、霧野先輩」
 仮屋が言う。
 この映像を見て冷静にいられるのは、神童だけだった。
 おそらく……、剣城の後ろに、俺たちがいる。俺たちを盾にされている以上、剣城は演技ではなく、本気で天馬と向かい合わなければいけない。
 敵だったとはいえ、仲間を傷つけている剣城、そして、傷ついてもなお傷つけられる天馬。それは天馬が失神してもなお叩き起こされ、続けられる。
 これは、雷門11に対する、脅しだ。
 しかし、神童はフィフスセクターのやり方の一部を知りえたというだけでも幸運だと考えていた。もちろん、剣城と天馬の心を包括した上だった。
 そういって、無意識に、右腕につけられたワッペンを触る。
 そこには「WS」と書かれていた。
 「WS」=「ダブルS」。「TS」より一つランク下の取り扱いだ。
 彼は、自分の手で化身を発生させ、なおかつ、コントロールもできる。
 それ故に、ランクが上だった。いつ天馬と同じ目に合うか。それは時間の問題だった。

 しかし、ここに来てからというもの、不思議なほどめまいに襲われる。
 ゼロとの試合の傷はほとんど完治しているし、後遺症もない。ただ、別の「苦しさ」が体を軋ませていた。
 神童は耳の後ろをずっと抑えている。
「どうしたんだ? 神童」
「そういえば、この部屋に来てからあんまりしゃべってないですね」
 霧野と仮屋が駆け寄る。
「まさか、二人の様子を見て、気持ち悪くなったとか」
「仮屋!!」
 仮屋の毒舌はどこででも健在なようだ。
 案の定、霧野にしかられ、頭を抱えた。
「お前たちは何も感じないのか?」
 神童の問いの意味が二人にはわからなかった。
「おかしいんだ。ここに来てから、ずっとめまいがする。俺がここにいないんじゃないかって、そう錯覚するぐらいだ」
 二人は無言になった……。
 後ろのモニターでは、凄然な特訓が続けられていた。
「俺はなんでもないけど……、霧野先輩は?」
「いや、俺も……。奴らに何かされたのか?」
「特に記憶はない。運び込まれるとき何かされたらともかく、そういうことはない」
 確かに、無意識な時間はあったが、その時、特別なことはされなかった。そう願う。だが、彼らのことだ。用心に越したことはない。。
 むしろ、運び込まれて収容されてからは彼らは自由だった。
「疲れているんだろ。少し休め」
「ああ、すまないな、そうさせてもらう」
 そういって、神童は石畳の上に横になった。


 特訓という名の暴力がひと段落した。
 天馬が遂に、ピクリとも動かなくなったのだ。
 天馬の活動量が限界を超えたのだ。
「それまで」
 牙山がストップをかける。
 倒れている天馬に手を差し伸べてやれない。
「ご苦労だったな、剣城君。やはり、君は、シードだ」
 ニヤリと牙山は笑った。
「だが、目的が違うな。彼から化身を目覚めさせてもらう。もし、それができなければ、お前にも再教育を施すことになる」
「……わかりました」
 本当の目的は剣城への「再教育」ではない。雷門11への「教育」だ。
 暴力という名の教育……それが延々と繰り返される。
作品名:<メモ>BLACK AVATAR 作家名:るる