二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

<メモ>BLACK AVATAR

INDEX|8ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 


脱出『ゴッドエデン編』

 独房…だった。窓も何もない。
 天馬しかそこにはいない。
 ただ、そこに彼は放り出された。
 特訓後、彼は再び部屋に戻された。

 エージェントは天馬のまぶたをひっぱり、「瞳孔」を見て、意識がないことを確認した。
 そして、注射機を取り出す。
 これが唯一、彼の「食事」だった。
 いや、彼だけでなく、他の収容されている少年たちのほとんどが、「点滴」による栄養しか与えられていない。
 そもそも、意識がない今の天馬には食うも食わぬもない。
 彼の左手に針を刺し、そこから、栄養剤が注入される。
 無色透明の液体だ。
 それがなくなると、手慣れた手つきで天馬の腕をおろし、彼らはその部屋を後にした。


 ――翌日


「……だから……」
「いや、難しい……」
「でも……」
「だから……」

 二人が何かこそこそと話している。
 そもそもひんやりとした板の上に寝かせられているのに、小さい声だけでもイライラしてくる。

 ……と、眠ってる? 眠ってた?

 ガバっと、頭を上げた。

 その様子に、同室にいた神童と霧野が見た。
「どうしたんですかぁ、二人とも」
 目をこすりながら、仮屋は起きた。
「悪い、起こしたか?」
 神童が仮屋に言う。
「いや、寝るも寝ないも…、あったもんじゃないですよ」
 とあくびをする。冷たい床と仲良しになれるはずがない。
「それより、二人してどうしたんですか? さっきからコソコソ話し合って」
「しっ」
 霧野が唇に手を当てる。
 うん? 仮屋が首をかしげる。
 そして、耳元で
「脱出について、考えていた」
 とささやいた。
「だ……、だだだ、脱出!!?」
「だから、大声を出すな」
 霧野がいうと、すいません、というように、ぴょこんと頭を下げる。
「そんなことできるんですか?」
 仮屋が神童と霧野の間に入る。
「できる……と思う。でも、全員はもしかしたら難しい」
「ですよ、何人いると思ってるんですか。それに、みんなどこにいるかわからないんですよ」
 仮屋は天井を仰いだ。
 そう、三人は他のメンバーがどこにいるかわからない。
 自分たちの他に唯一無事の確認がとれたのは、先日モニターに映された天馬、剣城の二名だけだった。
 しかも、今、彼らがどこにいるかわからない。映像に映し出されたのは過酷な特訓を受ける天馬と剣城の姿だけだったのだから……。
 しかし、天馬が自力で脱出することはおそらく不可能だろう。
「だから、あいつに力を借りたいと思うんだ」
 神童が提案した。
「あいつ?」
「剣城だ」
 仮屋は唾をのんだ。
 昨日の様子を見て、恐怖を覚えない者はいないだろう。
 やはり、剣城はシード。そのことを再確認されたのだから。
「ま、待ってくださいよ。剣城の奴、寝返ったじゃないですか。そんな奴に協力してもらえるんですか?」
「俺は……裏切ったとは思っていない」
 神童が真正面に仮屋をとらえていう。
「多分、俺たちをバックにされていたんだろうと思っているんだ。そうじゃなきゃ、あそこまで本気にシュートは打てないもんな」
 霧野が続ける。
「つまり? どういうことですか?」
「従わなければ、俺たちを天馬と同じ目に遭わせる。つまり、俺たちを『人質』にされていたんだと思う」
 『人質』ねぇ……。
 仮屋はほっぺをひっかく。
「あいつなら、ファーストランクで、ここにいたこともあるし、ある程度場所は把握できると思うんだ。どこから逃げられるのか、とかな。誰かが剣城と接触できれば、その情報はつかめるかもしれない」
「だけど……、でも……、もしかしたら、でも、ですよ? 本当に裏切っていたとしたらどうするんですか?」
「そのときは……そのときだ」
 そういって、神童は口元に挑戦的な笑みを浮かべた。
「ともかく、情報がなければ、俺たちは動けない。まずは剣城と会えるか。それが問題だな」
「ああ、そうだな。それから、決行日を決めておこう」
「剣城に会えるかどうかわからないのに、決行日決めておく理由なんてあるんですか?」
 怪訝な顔で仮屋がいう。
「もし、この部屋で一人でも欠けた場合、残りの人間が実行に移せるだろ? いつ、どういう状況になるかわからない。そのために、決行日を最初に決めておいた方がいい」
 神童の考えは現実的だった。計画あってからの行動ではなく、行動から計画を導いている。
「特に俺も……どうなるか、わからないからな」
 息をぐっと飲み込む。
 神童も、天馬たちと同じ「自ら化身を生み出した」者だ。いつ、天馬の二の舞になるかわからない。
「神童、そんなこというなよ」
 すぐに霧野が否定する。
「わかってる。でも、万が一の場合……だ」
「やれ……、化身出せるってそんなに偉いんですかね」
 また、不満そうに仮屋が言う。
「偉くないさ、まったく……」
「それより、昨日言ってた、『めまい』とれたんですか?」
「ああ、まだ痛むが……昨日よりだいぶ落ち着いている」
 思い出すと頭が痛い。
「お前たちは大丈夫なのか?」
「別に……何も感じていませんけど……」
 唐突に扉が開く。光が部屋へ入ってきた。
 そこには制服を着た男二人が立っていた。
「神童拓人、外へ出ろ」
 さっそくお出ましか。冷や汗が彼から流れる。
 神童は何も言わず、立ち上がり、彼らに従った。
 厳しい目つきで霧野をにらみ、アイコンタクトをとった。
 霧野もそれを強い目つきで応じるように、返した。
 神童が去ると、再び部屋に静寂が流れた……。

 長い廊下を進むと、途中で剣城が腕を組んで立っていた。
 神童と目があった。
「覚悟はできてるんだな」
 少し、あくびれた態度をとる剣城。
 エージェントは先に進むが、神童は足を止めた。
 そして、優しく笑った。
「そういう言い方しなくていいぞ」
 そういうと、多少、剣城がうつむく。
「昨日の特訓風景……見たんですね」
「ああ……、それで、お前に教えてもらいたい。みんながいる場所はわかるか?」
「ああ、だいたいは。おそらく、施設の一棟にみんながいるはず。ただ、松風だけはわかりません。トップS級の扱いをされているから、何重にもロックされている部屋かと思います」
「そうか……、やはり、天馬は難しいか……部屋の開き方は?」
「わかります」
「わかった、3日後だ。全員で、ここを出る、協力してくれるな」
 剣城は頷いた。
「キャプテン、キャプテンの相手は白竜です。あいつは、俺がいたころと違います。気を付けてください」
「ああ、ありがとう」
 そういって笑い、剣城のそばを後にした。
「俺は松風……か」
 剣城は牙山たちに試されているのかもしれない。
 『本物のシード』になれるかを。本当は、弱った天馬の顔さえまともに見たくない。
「人の心配をしている場合ではないか……」
 そういって、剣城は神童の反対側の方向を歩き始めた。



 天馬は昨日の特訓場と同じ場所にいた。
 昨日とは違い、意識がある。
 しかし、まともに立っていられない状態で、両脇をエージェントたちが抱えていた。
作品名:<メモ>BLACK AVATAR 作家名:るる