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<メモ>BLACK AVATAR

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「昨日は軽いデモンストレーションだ。今日から本番に入る」
 天馬の前には腕を組んで、牙山が立っている。
「お前には化身を出してもらう」
「け……しん……?」
 弱弱しく答える。
「ふざけているつもりか? ゼロとの戦いのときに見せた化身だ」
「……」
 いわれている意味がよくわからない。天馬の持つ化身は魔神ペガサス。炎を宿した翼をもった姿をしている。
 それ以外にあるのだろうか?
「わかり…ません……」
 牙山が腹部にけりをいれる。
 天馬が咳き込んだ。
「まぁいいだろう。実践の中で出してもらえればそれでいい」
 そうやって、うっすらと目を見開くと、そこには昨日、動けなくなるまで痛めつけた「仲間」がいた。
 牙山の隣に、剣城が立つと、
「今日も松風天馬の相手をしてもらう。メニューは昨日と一緒だ」
 天馬を一瞥する。
「……教官、松風には化身が進化したという事実を知りません」
 化身が……進化? 天馬の意識に疑問符が付く。
「私に口答えをするつもりか?」
「いえ、事実です……あの時、はじめて、あの化身が現れました。俺が見たのもゼロの試合の時が初めてです」
 剣城は鋭い目つきで牙山に訴えた。
 しかし、牙山は嘲笑した。
「ぬふふ、そうやって、手を緩めさせるつもりか?」
「いえ、そういう意味では……!!」
「いや、わからなくもない。仲間を傷つけるのは容易なことではない。だが、『ここ』では別だ。かつて、私に指南されたお前なら、わかるだろう」
 そう、ゴッドエデンではかつての仲間さえも、単なる顔見知りも、「他人は全て敵」なのだ。
 弱肉強食。強いものは生き、弱いものは死に絶える。それがルールだ。
「わかりました。やります」
 そういって、剣城は天馬に向きを変えた。
 ……すまない。謝っても赦されない。
 ただ、おびえる天馬の顔が少し見えた。
 歯を食いしばり、化身を発生させる。
 そして、彼の渾身のシュートを天馬にたたきつけた……。



 それをちょっと離れたところから見ていた者がいた。
 少し長い緑の髪がウサギの耳のように、右と左に分かれている。
 彼は牙山たちを見ると、
「これが大人たちのやり方か……やっぱり、大人にとって子どもは道具に過ぎないんだ」
 そうさびしく言うと、その場から、姿を消した。


 一方、別室では……

「今日はここまでだな」

 天馬と違い、体力を温存していた神童は、白竜の持つ化身、聖獣シャイニングドラゴンの攻撃を何とかしのいでいた。とはいえ、体はボロボロだ。全身が痛い。それを歯を食いしばって耐えていた。
 しかし、一方の白竜は一寸の衰えもなかった。
 神童が肩で呼吸をしているのに対して、冷静にこちらの出方を見る余裕さえある。
 あざけりとも、憐みとも見えるその姿は、普段、冷静な態度を崩さない神童に見えない威圧感を与えていた。
「教官、やわすぎます。まだ、こいつは動けます。人間は追い詰められたほど力が出るもの。この程度で、やめてよろしいのでしょうか?」
 神童を見ていた火北は神童を見ると、
「確かに、まだ力が残っているようだがな。だが、十分にデータはとれた。少し、惜しいだろうが、明日まで我慢してくれ」
「わかりました」
 そういうと、そそくさと、白竜は去って行った。
 悔しい…。その想いが胸を駆け抜けた。
 同時に、こんな思いをほかのみなにも受けてはほしくない。
 自分の無力さを痛感していた。
「こんなところでもう、弱音を吐いているのか?」
 火北が神童を見て嘲笑する。
 神童は火北の目を見た。
「明日からが本番だ。お前には、もう少し頑張ってもらわなければならない。むろん、『シード』としてな」
 はははははっ。そう笑って、火北は去って行った。
(シードなんかになるものか!)
 神童は意を新たにした。





「戻ってきませんね……」
 予想通り、神童は霧野、仮屋がいた部屋には戻らなかった。
 霧野はどことなく、不安そうだ。
「大丈夫じゃないですか? キャプテンなら」
 と心配する霧野を励ますも、
「その保証がどこにある」
 と怪訝そうに返した。
 やれやれ……。
 モニターは今日は映っていない。
 神童や天馬、そして、剣城やほかの雷門11がどうなっているのか、何の手がかりもないままだ。
「あと『三日』……ですか。本当にここから出られるんでしょうかね……?」
「信じるしかないだろ」
 そして、彼らは暗闇の部屋で一晩を過ごした。

<改ページ>

剣城とシュウ


 剣城はやりきれない日々を送っていた。
 前とは違い、ここには目的がない。前に来たときはここに「兄を救う」ということだけを考えてきた。
 それで、自分を殺し、ひたすらに自分の力をつぎ込んできた。
 その証拠がシードのファーストランクの獲得だった。
 勿論、彼自身「ランク」など気にしていない。
 牙山をはじめとする教官、フィフスセクターの黒木、そして、聖帝。彼らの命令には難なく従った。
 どんな非道なことでも、手を染めた。
 だが、今彼の胸を占めているのは虚しさだけだ。
 ここにかつての「栄光」のひとかけらもない。
「浮かない顔してるね」
 暗がりから一人の少年が顔を出した。
「お前は……」
 髪に勾玉をつけてる黒髪の少年は、にっこりとほほ笑んだ。
 何故か、ユニフォームではなく、チュニックのような着物を羽織っている。
「シュウっていうんだ」
 シュウ……、かつて、剣城がいたときにはいなかった少年だ。
 それどころか、聖帝も把握していない人物。
 唯一、正体を知っているのは牙山をはじめとする教官たちだけだが、何か、白竜とは違った自信を帯びた姿をしている。
「何の用だ」
「う〜ん。そう、最近、白竜が元気ないんだよ。ライバルだった君が弱くなったからって」
 面白そうにシュウが言うと剣城の目が急に鋭くなる。
「何でさぁ……、強くならないの? ううん、強くなろうとしてない」
 挑発するように、シュウが問う。
「興味が失せた、それだけだ」
「嘘。今、君の目が厳しくなった」
 勿論、強くなりたいという意思はまだ剣城には残っていた。
 しかし、過酷な特訓をしてまで、何かを得る。そういうつもりにはどうしてもなれなかった。
 それよりも、大切なものを得ようと今しているのだ。
 それが何なのかわからない。だが、「それ」はここにいるほど遠くなってしまう、そんな感じがした。
「サッカーは強さが大切なんだよ。すべてにおいて、完全じゃなきゃいけない。強くなければ、僕たちは価値がない。昔の君は、ギラギラしてたのに、今はすっかり丸くなってる」
「俺のことを知ってるのか」
「さあ」
 シュウは途中ではぐらかした。
「価値……か……。だったら、今の俺は『価値のない』人間なのかもしれないな」
「価値のない人間……?」
 シュウの目が点になった。
 かつての白竜のライバル。ここのトップを争ったかつての狼が、空を向いて静かに吠えた。
「君たちを変えたの……やっぱり、天馬って子なのかな」
 シュウはボッソリとつぶやいた。
作品名:<メモ>BLACK AVATAR 作家名:るる