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僕のものではない君に

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昨日出会ったレイ・ラブロックという男。
そのバンドのメンバーに会いに行くために、バサラは出かけて行った。
記憶が無いことなどお構いなしのお気楽振りだ。
ガムリンは訓練中もバサラのことが頭から離れずにいた。
会ったばかりだというのに、ずいぶんとレイという男に心を許しているようだった。
誰にでも簡単に懐くようで、面白くない。
最初に関わったのが自分でなかったとしても、バサラはどうにかやっていけたのではなかろうか。バサラを拾ってから四日目だった。
あの晩、数秒だけ向けられた親しげな表情や、起き掛けに自分の名を呼んだ甘い声を、ふと思い出す。射撃訓練中にそんなことを思い出すものだから散々だ。
いつもと様子の違うガムリンに同僚の隊員たちは心配の目を向けた。
レイという男も不思議だ。バサラとは面識が無いと言っていたが、その割には、バサラの歌をよくわかっている風だった。
レイとバサラの間に、自分にはわからない、何かがあるのだろうか。
ガムリンはイラついた気持ちで、一日中バサラのことを考えていた。
あの事件以来、身体を動かしていれば、嫌なことも悲しいことも忘れていられた。
ただ、そのためだけに、既に意義をなくした職務のための訓練にうち込んでいた。
それなのに今日は違った。
帰り支度を済ませるとガムリンは、居合わせた皆が驚くような勢いでロッカーを閉めると、職場を後にした。


自宅付近、人通りの少ない路地へと差し掛かったところで、奇妙な光景に出くわした。
既に辺りは薄暗く、街灯に三つの人影がかろうじて確認できた。
ナイフを手にした男。
ピンク色の髪の少女。
少女の盾になるように、身を挺している男。
バサラだ!
あろう事か、彼はナイフを突きつけられながら歌っているのだ。
時おり、振り下ろされるナイフをしなやかな身のこなしで避けている。
男は黒いニット帽を目深に被り、サングラスをしていて人相はわからない。動きには訓練や柔術といった特徴はなくただ、闇雲にナイフを振り回している。
バサラのほうが余程ケンカ慣れして見える。
一瞬、よろけた少女を庇おうと身を捩ったバサラをナイフがかすめた。
左の二の腕のシャツが裂けた。
「バサラ!」ガムリンは思わず叫び、走り寄ろうとした。
「手ぇ、出すんじゃねぇ! 殴っちまったら駄目なんだよ!」
少女もガムリンも驚愕する。
何故、この状況で反撃しないのか?
ガムリンが加勢せねばと思ったときだった。
周囲に人が集まり始めたことに気づいたのか、ナイフの男は逃げ去った。
「待てよ。俺の歌、全部聴いていけよ!」
信じられないことにバサラが男を追いかけて行く。
「ちょっと、待ちなさいよ、バサラ!」
今度は少女がバサラを追いかける。
仕方なくガムリンも二人を追った。


「見失っちまったぜ」
バサラはしばらく追いかけたが、ナイフの男は姿を消した。
程なくして少女と、ガムリンが追いついてきた。
「どういうことなのか説明してもらおう!」
「あのう、ガムリンさんですね。私、ミレーヌ・ジーナスっていいます。はじめまして」
少女の突然の自己紹介にガムリンは戸惑った。
「ベースとボーカルをやってます」
はにかんだ笑顔を向けられ、ガムリンも赤面する。
「はぁ、で、ミレーヌさん、先程のはどういう状況なのか説明してもらえないでしょうか?」
「さぁ、急にあたしに襲い掛かってきて。良くわからないうちにああなっちゃって」
「あの男に見覚えとかはありませんか」
「う~ん・たぶん、無いと思います」
顔見知りで無いとすると、通り魔的犯行か。
きちんと警察に届けるべきだったかと、軽はずみに現場を離れたことを後悔した。
「もう、なんでバサラ、あんな奴、やっつけちゃわなかったのよ、逃げられちゃったじゃない!」
「わかってねぇなぁ~!お前は!」
「何がよ!」
ミレーヌがバサラにくってかかる。ガムリンに自己紹介をしたときの、しおらしさは影も無い。けれども、ガムリンはこちらの態度の方が彼女らしいと思った。
ミレーヌの住まいはそこから程近かった。自立したいからと、家を出て一人で暮らしているのだという。
こんな事件の後だ、二人で送り届けた。道すがら、明るく話を投げかけるミレーヌに好感を抱いたが、イラついたままのガムリンの心は晴れなかった。


ミレーヌを送り届けて部屋に戻ったの頃には、すっかり夜も更けていた。
「脱げよ」
「へ?」
「傷を診てやる」
「へへ、そういうことか。」
他にどういうことがある、と言いたげに、ガムリンは救急箱を目の前に置いた。
 「かすり傷だ、なんでもねぇってば。」
 「いいから見せてみろ」
 バサラは仕方なしにシャツのボタンに手をかけると、顔を歪めた。
 「痛むのか?」
 「大丈夫だって」
 「いいから、おとなしくしてろ」
 ガムリンはシャツのボタンを外すと傷にさわらぬよう、そっと脱がせた。
 露になったバサラの上半身がいやでも目に入る。
 自分と違い、鍛えているような身体ではない。
かといって、貧弱ではないしなやかな身体。
程よくついた、肩から二の腕にかけての筋肉に目をやると、一筋の裂傷があった。
左腕だ。かすり傷というわけにはいかなかったが、応急処置で間に合う程度のものだ。
器用に手当をするガムリンをバサラは黙って見ていた。
「大丈夫か、あまり無理に動かすなよ」
「ああ、大丈夫だ、ギターが弾けてバルキリーに乗れりゃ問題ない」
「バルキリー?」
聴きなれない言葉にガムリンが返した。
「バルキリーだぜ、おまえも乗る・・・」
バサラの表情が固まる。
「どうした?」
「いや、何でもねぇ」
「何か、思い出したんじゃないのか?」
「なんでもねぇってば。」
表情からバサラが何かを思い出したのは明白だ。
なぜ、何も言わない。レイになら話すのだろうか。
問いただせない苛立ちを別の問いでぶつけた。
「ミレーヌさんが襲われたとき、お前はなぜ、反撃しなかった?お前にはそれくらい出来ただろう!」
「おまえ、何、言ってんだよ」
突然、語気を荒げてつめよられ、バサラもたじろぐ。
「誰かを守るために、自分の力を尽くす。男だったら当たり前じゃないか!」
 「暴力でねじ伏せるだけじゃ駄目なんだ!」
「だからって、あんな、あの状況で歌うなんて馬鹿げている!」
あのときのバサラの身のこなしから、犯人を拘束することは出来ただろう。
それだけの力が、強さがあるなら、なぜ、そうしないのか。
「お前には人を助けるだけの力がありながら・・なんで!」
検討違いの嫉妬心をすり替えた問いだった。それなのに、自分の苦しい部分をぶつけてしまった。
己の力が及ばずに救えなかった人たちのことをずっと、思い悩んでいた。
人を救える力があるバサラがうらやましかった。
なだめるようにバサラはガムリンの肩にそっと手を置いた。
「駄目なんだよ。力でねじ伏せちゃ。必要なときもあるけど、暴力だけじゃ何も解決できない。変わんねぇんだよ」
ガムリンは悲痛な表情でうつむいた。
作品名:僕のものではない君に 作家名:小毬