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僕のものではない君に

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いつの間にか日も暮れていた。
ガムリンの部屋まで送ると言うレイの車を、途中で降りた。
ポケットに両手を突っ込み、街灯が作る長い自分の影を追うように歩いた。
玄関を開くと彼も出かけていたのか、スーツ姿のままだった。
「おかえり」
この数日で初めてガムリンから言われた言葉に、くすぐったい気持 がした。
しかし、ここは本当の意味で自分が戻るべき場所ではない。
真実を全て話すことは出来ないが、きちんと別れを告げね ばならない。
「その様子だと、記憶は戻ったようだな」
「まぁな。お前には、その、、世話になったな」
「構わんさ」
ガムリンが表情を緩めたたのは一瞬で、すぐに真剣な面持ちでバ サラに向き合った。
「バサラ、話がある。そこに座ってくれ」
「なんだよ、いったい」
バサラは言われるままにリビングの床に座ると、ガムリンも姿勢を正して向かい合って座った。
重大な話をするときに、この男はよくこんな態度をとる。
バサラは自分の良く知る男の事を思い出すと、吹き出しそ うになった。
「バサラ、俺の職務については詳しく話す事は出来ない。 だが、人の命を救い、無駄な争いを避けたいと思ってい る。もう、誰にも傷ついて欲しくないんだ。そのために俺 は、海外に交渉術の勉強に行こうと考えている。」
「そうか、」
この男らしい、実直な決意だと思った。
「近いうちに、ここを立とうと思う。一年間は戻らない。 記憶の戻ったお前に言えることでは無いのかもしれない が、、、その、俺を待っていて欲しい」
真っ直ぐに見据えるガムリンの真剣な瞳に、バサラは 耐えられず視線をはずした。
答えられずにいると、ガムリンが繕うように口を開いた。
「いや、すまん、いいんだ、忘れてくれ」
その場を離れて寝室へ向かうガムリンを追うよう に、バサラも立ち上がった。
「ガムリン!」
呼ばれて足を止めたが、背を向けたままだ。 ガムリンは切なげに心のうちを吐き出した。
「自分でもわからないんだ。お前とまた、会いたいなん て。本当は一緒に来て欲しいなんて・・・ なんでだろう。男同士なのに、こういう気持ちになるなん て・・俺はお前を・・・」
搾り出すような告白に胸がつまる。
バサラには判っていたが、答えてはやれなかった。
俺とお前だから惹かれるのは当たり前だと。
だが、教えてやることは出来ない。
この世界に留まれない自分。
俺のものではないお前には教えてやれない。


理解仕切れない感情を持て余すガムリンが、不憫で、愛お しくて、その背中に額だけをを押し当てた。
「バサラ」
低く甘い声で名を呼ばれ、寄せられる唇を避けられなかっ た。遠慮がちに忍び込む舌を受け入れる。
つたないが、思いを込めたひたむきなキスに拒むことも出来ず、バサラは ガムリンのシャツを握りしめた。
良く知る男と同じ匂い、同じ唇で、同じ味のキス。 官能を煽るようなものでは無いのに、身体が覚えている劣情を揺さぶられる。
腰に回された腕に引き寄せられ、きつく抱きしめられた。
密着した身体から、鼓動と体温が伝わってくる。
「もう、これ、以上は、、無理、だ」
深くなる口付けに耐えられなくなったバサラが、ガムリン から離れようとする。
「すまない」
そう言いながらもガムリンは、その胸に閉じこめたバサラ を離すことが出来ずにいた。
背中に置かれた手の温もりが、薄いシャツ越しに伝わって くる。
その熱さにバサラの理性が崩れそうになる。
「悪りぃ、本当に、これ以上は、 無理、だから・・・」
身を切る思いで、ガムリンを引き離した。
ガムリンは意味を取り違えたかもしれない。
”男同士だから無理”なのだと。
それでもいいと思った。
だから、おまえも、一時の気の迷いだと思ってくれと。


これ以上、深く関わることは許されない。
ガムリンに背を向けるとバサラはドアへと向かった。
今夜、このまま一緒にいれば、もう、冷静ではいられない だろう。
「今夜は、レイのところに行く」
ガムリンは答えなかった。
バサラは振り向かずに部屋を出ると後ろ手にドアを閉め た。


"じゃぁな"と笑って別れるのが俺たちらしいと思っていた。
それなのに、こんなに切ない気持ちになるとは思いもよらな かった。
バサラは扉を隔てた向こうに居る男への憐憫と、思慕に縛 られ、そこを離れられずにいた。
ドアに力なくもたれ掛かり、立ち尽くしていた。
どうにもならねぇじゃねぇか。
バサラは暫くそうしていたが、ガムリンに気配を感 じさせぬよう、そっとドアから離れた。


「やり残したことを、やっちまわねぇとな」
自分に言い聞かせると、ふらりと歩きだした。
作品名:僕のものではない君に 作家名:小毬